【 埃 と 塵 】(後編)

そこは、何も見えない。

友達全員…化け物の腹の中だ

時折、大口の化け物が口を開ける度に、
光が差し込む。

手を離さず、
お互いが離れずにいた事で友達も皆、無事だ。

大口の化け物が動く度に、
友達たちも含め、腹の中の全てのものが
揺れに耐えられずに、
大口の化け物の腹の中で、
転がされては、壁へと打ちつけられる。

化け物のあくびだろうか…
暫くの間…光が差し込んだ時、私達以外に、
大口に呑み込まれた、他の存在が居た事に気づいた。

話掛けようと、近づこうとした次の瞬間、
腹の中にある全ての存在が、フワ…っと宙に浮き、
そして、落ちる感覚に襲われる。

そう…、大口の化け物が腹の中にいる全ての者を、
吐き出したのだ。

自分達を含めた全ての者が、落ちていく中、
大口の化け物の腹の奥隅で、姿形が変わり果てた、
元は同じ種の仲間だった者達が、必死に落ちまいとしている姿を見た。

あとで、わかった事だが、
その者達は、それまで歩んできた事に耐え切れずに、

その恐怖心から、
その時の現状を脱する事ができなかった…、
姿形を変え、
その場へと、残ることを決意した者達みたいだ。

これ以上の…、
見知らぬ事を体験する恐怖に勝てずに…。


知らないものを体験することは、
恐ろしい事なのかもしれない。

その場に留まる事で、歩めるのを辞める事で…、
それ以上の恐怖を味わうことは無い…と
そう…思ったのかもしれない。

しかし、いずれかは…。
そこに留まり続けようとする力よりも、
もっと大きな者が、大きな力が、
跡形もなく消し去る事となるだろう…。

だが、それはまた別の物語だ…。



………

大口の化け物から吐き出された私達は、
気づくと、大きなテントの中にいた。

私は、暫くの間気を失っていたらしく、
まわりには、
故郷で一緒に絨毯に乗り、嵐によって、
離ればなれになっていた嘗ての仲間達が、

私達のことを見守ってくれていた。

身体を起こし、テント内を見回す。
このテントの中には、いろんな姿形をした者達がいた。

その者達を、
そのまわりを見回していると、ある事に気づく。

自分たちの姿形が、また違う姿へと、変わり果てている。

そして、友達たちと私自身の繋いでいた手が、
離なす事もできなくなっていた…

手を振り解こうにも、何か目に見えないもので、
接着されてしまったかの様な、
どんな事をしても、離すことはできなかった。

見守ってくれていた、
離ればなれになっていた仲間達に話を聞くと、

大口の化け物から吐き出されて、
このテントに入った仲間達は、
皆同じ姿になっているらしい。

そう話してくれた同じ種の仲間達の手も
しっかりお互いがお互いの手を握りしめていた。


気を失ってから、少しの時間が経過し、
身体も動くようになった。

このテントの中には、
本当に多くの、いろんな種類の者達が居る。

仲間なのか、敵なのか。

その者…その者、今まで見たこと無い姿形だ。

自分達と違う姿形の者達と、
関わり合うこと…、これはとても怖いこと…。

だけれど…、
辺りを見回してみると、
ひとりぽっちで、傷ついている者が
多いことに気づく。

その傷ついた者達に話を聞いてみると、
このテントに来るまでの道程が、
易しいものではなかった事を…切実に話してくれた。

ある者は、
自分の輝く未来が見えていたのにも関わらず、

そこへ辿り着く…目の前で、その者だけが取り残され、
このテントへと送り込まれた…。

ある者は、
自分の役割さえ見出せずに、
自分の身体に徐々に異変が起き、
その事で、このテントへ送り込まれた者もいる。

また、ある者は、
不要な者だと、罵られ、切り捨てられた。

そんな者達で溢れかえった、このテントは、
寂しい感情でいっぱいになっていた…。


多くの傷ついた、いろんな者達と話した私達は、
自分達の歩んできた、道程を思い返す。

ゆったりと、空を駆け回っていたあの頃…、
引っ越しとは名ばかりに、旅行気分で…

この先に起こる事を、何も知らなかった…、

今は身体も重く、あの頃のように空へさえ,
駆け上がることはできない自分達。

かたや、

元は…それぞれ自分の役割、存在意義を見つけていた
テント送りにされてしまった
光り輝く未来を、未だ見続ける、
このテントの中の傷ついた者達。

そんな…多くの事を知った事で、私達は、
自分達の役割を、輝ける未来を見出そうとしていた。



私達にできること…。
私達にしかできないこと…。



ふと、

私自身を含めた、友達たち全員が、
自分達の自身の姿を見つめる。

今まで…どんなことがあっても、
離れることの無かった、この身体。

大切な者達だからこそ、
離れたくなかった、この気持ち…。

その事から、
今は切っても切ることができない仲間達、…この絆。

自分達には…、これがある。

このテントの中にいる、
ひとりぽっちになってしまった、
傷ついた者達には無い、
私達にしかできないこと…。


見つけた…、
これが私達にできる、私達にしかできない、

大切なこと…。

今まで離ればなれになっていた、

意識を失っていた間も
ずっと私達を見守ってくれていた、
同じ種の仲間達も、同意してくれた…。

私達は早速、傷ついた者達のところへ駆け寄り、
その者達へ、私達の決意を話した…


『一緒に…、一つになろう!!そして…また、
  私達と一緒に…新しい道を見つけよう!!』



そう。

私達にできること…。
大切だと思える相手と一つになること…。

そして、一度は諦めてしまった、輝ける未来を、
自分達の役割を…、生き甲斐を…、見つけに行こう。





数年の後…。




あれから、
私達は今、太陽の日の当たる、
この場所に存在している。

そう、今は形を変え、土と一緒になり、
更なる新しい目標を見つけ、
今まで出会った、皆と一緒に…歩み続けている…。

元は埃だった、ある者は、エネルギーに形を変え、
今も頑張っているそうだ。

ひとりぽっちで傷ついていた、ある者は、
もう一度、同じ姿に生まれ変わって、
今度こそはと、熱意に燃えている。

ここまで来るのに、
途中で力尽きてしまった者も…、たくさん居る…。

それほど…
容易な道程ではなかったというのも事実だ…。


この【生きる】という…長い道程には、
多くの悲しいこともあるけれど…、

大切なことは、
自分の進みたい道に全力で突き進むこと。

きっと、途中で力尽きてしまった者も、
後悔はすることなく、

今は違う姿形で、
こことは違う場所で頑張っていることだろう。


え?【私】はどうしてるかって?

私は、この長い道程を経て、
この地より、自分の役割を全うして…


今、この場所で私自身の全てを終えようとしている。
この太陽の光がとても心地好い、この場所で…。

すべての出会いに感謝と…、
喜びを感じ取ることの幸せを…、知り、
この太陽の光を浴びながら…
永い眠りにつくことになると思う。



永い眠りが覚めたとき…。


空へと…、また行くことができるかな…。



そう、またあの昔のように空へと駆け回る…


埃のように…。




おしまい。



次回

『 あとがき 』

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