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「映画の演技」を少しずつ読む

マイケル・ケインが書いた映画における演技論の本。ずっと読んでみたかったのだが、近くの図書館では取り扱いがなく、近隣の図書館から取り寄せてもらうことに。1994年4月出版された本で、同年7月には二刷が出ているから、このペースでいうと結構多くの人に愛された書籍だったのかもしれない。

そして冒頭には「訳者あと書き」ならぬ「訳者はしがき」があって、その書き手がまず「ボクの、映画出演経験は十数本しかありません」と切り出すものだから、訳者稼業の傍らで翻訳も出かける異才の人なのかな、と思っていたが、その後、ご自身がこの翻訳仕事を手掛けようと思った理由が箇条書きで4つ挙げてあって、それが一つ一つ、その方の人となりを簡潔に物語るような構成にもなっていて、何よりも読みやすい。文末まで読み進めてやっと名前に辿り着いた。矢崎滋さん。こんな翻訳も手掛けられている方だったのか。

「映画の演技」(1994/劇書房)

マイケル・ケインが書いた本の中身も面白い。彼らしい微笑みが伝わってくるようなユーモアの香りが全面に漂う。そして俳優志望の人に対する親身になったアドバイスが印象的。例えば、集合時間や集合場所をきちんと確認し、道順や交通状況なども頭に入れておくこと。といったごく基本的なことから書かれてあって、思わず笑ってしまったのだけれど、その後には

自分の立場を知り、どこへいき、そこへ着いたら何をすればいいかをきちんと把握すること

「映画の演技」より

とあり、この基本的なことが大忙しの喧騒に巻き込まれるといかに抜け落ちてしまうのかを自ずと伺わせる。大事なのは準備、しっかりと備えること。カメラの前で集中して与えられた役割を果たすこと。

かと思えば、マイケル・ケインの性格というか思考を印象付ける、こんな独特な言い回しもある。

監督は私に言った。「もう二度とお前に仕事はないからな」(ところで、映画界では言ってはいけない言葉があって、これがその一つだ。普通、その言葉を言った人間の方が、もう2度と仕事がない)

「映画の演技」より

僕はもちろん訳者志望の人間ではないのだけれど、これはマイケル・ケインという人を理解する上でも、非常に有効な書籍なのかもしれません。

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