それは突然やってくる

テレビをやめてから、もう数年が経つ。はじめは耳さびしくて、ラジオをつけたり音楽をかけたりしていた。でも本を読むのに邪魔になってしまってから、わたしの部屋では無音の時間がとても多くなった。

ひとくちに無音と言っても、ほんとうになんの音もしないはずはなく、世界は色んな音がして、とてもおもしろい。車が通り過ぎる音、鳥や虫の声、風で植物がざわめく音、だれかの足音。

そんな中でもわたしがいつも、聴くとうれしい気もちになる音がある。雨が降りはじめる音だ。

はじめは葉っぱの表面に雨があたっても、ぱちぱちとはじけている。本を読んでいたわたしは窓の外に耳を澄ませる。

すぐやむ雨なのか、強くて激しい雨なのか、わたしは想像する。雨の境目から、だんだんと真ん中に入ってゆく頃には、雨粒も葉の表面をすべるように落ちて、地面にぶつかる音が大きくなってくる。車の通り過ぎる音が変わる。水たまりを引き裂くタイヤの音。窓の外はどんどん騒がしくなる。虫はどうしてるんだろう。しばらくやみそうにないな。ひと通りたのしんで、雨の音に包まれて安心すると、わたしは本の中に戻ることにする。

本を読みすすめてしばらくすると、雨はいつのまにか行ってしまったようだ。いや、まだすこしだけ降っている。行ったり来たりしている。でもそろそろ上がる頃かな。あ、また虫が鳴きだした。

わたしは雨上がりの道を歩くのも好きだ。色んな明かりが濡れた道路に映って、空気もみずみずしくて、きれいな気がする。ちょっと散歩がてら、ビールでも買いに行ってこようかな。

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