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【特別回】戦争と公衆衛生について議論しました(こびナビ Twitter Spacesまとめ)

2022年2月28日(月)
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター:木下喬弘

オープニング

木下喬弘
今日は早く来過ぎましたね。

岡田玲緒奈
8時30分になったじゃないですか。

木下喬弘
ひとりでこびスペのスピーカーに上げられている時間って苦痛なんで、誰か入ってから僕は入りたいということです。

岡田玲緒奈
まあ前回遅刻しましたけどね。

木下喬弘
前回遅刻したと皆さん思ってるかもしれませんけど、まああれですよ。
そんなこともあります。

岡田玲緒奈
いや遅刻したんやないかい(笑)

木下喬弘
遅刻した。キレイに遅刻しました。
これ以上ないくらい遅刻した。

岡田玲緒奈
忘れてた?

木下喬弘
忘れてた……んすよ。

岡田玲緒奈
忙しいっすね~。

木下喬弘
そうなんすよね~。
忙しさを理由と言い訳にしていきたいと思います。

岡田玲緒奈
今日はお題が決まったじゃないですか。

木下喬弘
いや~、なんかプレッシャーかけられましたよね。
プレッシャーかけた本人(注:安川先生)がいま来たよ。


公衆衛生上の危機 長く尾を引く戦争の影

木下喬弘
今日は雑談抜きで。
皆さんこのニュースに全神経をかなり集中させられている人が多いと思います。
戦争が始まりましたので、ここでは公衆衛生を担う立場から戦争をどう考えるかということで、とある論文を紹介したいと思います。

▼The Role of Public Health in the Prevention of War: Rationale and Competencies

出典:US National Library of Medicine National Institutes of Health
Am J Public Health. 2014 June; 104(6): e34–e47.


これは American Journal of Public Health という、アメリカ公衆衛生学会に2014年に出た論文なのですが、結構長いです。

戦争というのは、公衆衛生の中でも結構重要な研究分野で、いろいろなことが言われています。
たとえば “War and Public Health” という本があったり、そちらの方向で研究している人は、公衆衛生大学院にたくさんいます。
この状況で、戦争と公衆衛生についてあまりに無知なままなのもいかんだろうと、勉強のためにこの論文を読みました。

よくある公衆衛生と戦争に関する論文や本は、戦争がどれだけ公衆衛生上に悪影響を及ぼすかについて書いています。
これはもちろん重要なのですが、この論文では「どうやったら公衆衛生の立場から戦争を防げるのか」という視点で書かれています。
そこにも少しふれつつ、基本はどれだけ戦争が人の公衆衛生上に大きなインパクトを与えるかというデータの紹介をしていきます。

最初にこういった論文を紹介するときはスコープ(論文の内容の範囲)が重要だと思うのでお伝えします。
これは、アメリカにおいて、戦争を公衆衛生の立場からどれだけ防げるかを主眼に置いて書かれている論文です。

この論文のイントロダクション的なところの一番最後に
「もちろん戦争は世界的な公衆衛生学上の課題ではあるが、この論文ではアメリカにフォーカスをする。アメリカは戦争における非常に大きな影響力を持っているというのが一因である」
というようなことが書いてあります。
このようにアメリカが戦争を止める抑止力を発揮できない状況になってから読むと、なんとも空虚に響く部分でもありますが、ともかくこの論文はアメリカから見た公衆衛生と戦争の話だとご理解いただきたいと思います。
では始めます。

まず、戦争が起こることにより、直接的な健康への悪影響があるわけです。
それはもちろん人が亡くなることで、これがどの程度かというと、第二次世界大戦が始まってから、戦争あるいは軍事衝突は、世界の153か所で248回起きているそうです。
第二次世界大戦~2001年までの間に、アメリカは海外に201回以上軍隊を派遣し、アフガニスタンとイラク戦争が入るとさらに増えます。
世界的には、20世紀全体で約1億9000人が戦争で亡くなっていて、これはその前4世紀よりも多いというデータがあります。

さらに、戦争で亡くなるのは誰かというと、兵士だけでなく市民が非常に多く亡くなっていることがデータとしてわかっています。
戦争で亡くなる方の約85-90%が一般市民だと書かれています。
2014年時点での直近の戦争であるイラク戦争での死者についてはいろいろな推定値がありますが、最終的には約50万人だとされています。
一般市民も死亡や性的暴行のターゲットになっています。
特に1960年以降、70か国で1億1000万個の地雷が埋められているらしいのですが、そのうちの70-90%の被害者は市民です。
これがいわゆる「戦争による直接的な被害」です。

公衆衛生の分野で考えて、より広い戦争の影響があるわけです。

例えば、紛争地帯では、こどもや、妊婦を含む母親の死亡やワクチン接種率、新生児死亡、水質や衛生状態が全て悪化します。
さらに、戦争はポリオの撲滅を邪魔し、おそらく HIV の感染拡大を促進しています。
医療機関に対するアクセスは悪くなり、地雷はその地域に住む人に対し、身体的にも精神的にも悪い影響を与えます。
ここでは特に精神的な影響について言っています。
さらに、食糧確保の危機や、農地にも影響を与えます。

アメリカの最近のアフガニスタンとイラクの戦争だけでも、180万人のアメリカ人が出兵しています。
これにより、PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)や、頭部外傷などが非常に重要な問題になっています。
ここで軍人は
PTSD・・・103,792人
頭部外傷・・・82,015人
の診断を受けています。
また、10-20%のアメリカの兵士は、脳震盪をきたす出来事を経験しています。

頭を強く打つと、脳の発達や認知機能、わかりやすく言うと物覚えなどに影響を与えるとよく言われます。
ラグビーファンの方が気を悪くされたら申し訳ないのですが、安川先生のお好きなラグビーは、中年期以降の認知機能の低下に非常に関連するというデータがあります。

まだまだあります。
アフガニスタンに3-4回派遣された兵士は、1回しか派遣されていない兵士に比べて急性のストレス、鬱、不安神経症を発症するリスクが2倍高いです。
繰り返し派遣されることで、メンタルヘルスのリスクがさらに高まります。
2011年、アメリカ軍の中で1,000人の兵士のうち1.9人が性的暴行を受けたと報告されています。
実際に戦争に参加した女性兵士のうち30%がレイプを経験していて、5%は複数人にレイプをされています。
このデータによると女性兵士は同僚にレイプされる確率の方が、紛争において殺される確率よりも高いのです。

自殺のリスクも上がり、アメリカ軍で言うと、自殺企図(自殺を試みた人)の数の方が、紛争で亡くなった人よりも多いです。

他にも、軍隊に派遣されると配偶者の精神疾患のリスクにもなっているという研究もあります。
たとえば紛争に派遣された男性の、奥さんやこどもが精神的に影響を受けるというデータも出ています。

2014年の時点で、全世界で9か国に17,300個の核兵器があります。
そのうち4,300個がアメリカとロシアにあります。
しかもこれがひとたび発射されると、45分以内にターゲットに届く状況です。
まずこの論文の最初のパートにあった、戦争がいかに公衆衛生上の重大事項なのかということが、データとしてまとめられています。

かなり駆け足でご紹介しましたが、ここまでで確認、議論、言っておきたいことはありますか?
どうぞ、安川先生。

安川康介
ありがとうございます。
本当にすごく重要なトピックだと思います。
今ロシアがウクライナに軍事侵攻したことにより、この数日間だけでウクライナ人の方が数百名、ロシア軍からの公式発表はありませんが、ウクライナ側は4,000人以上のロシア兵が亡くなっていると言っています。

医者として目の前の方の命を救おうとするのが僕たちの仕事なのですが、いともあっさり人が亡くなっていくこの戦争というものに、医療従事者として反対していかなければいけないと思っています。

日本で戦争の被害者の方というとかなり高齢の方になりますが、僕は原爆を経験されて、血液系のがんを何回も発症してしまった方を診たことがあります。
また、アメリカで働いていると退役軍人病院で働く機会があります。
戦争による直接的な外傷もありますが、まさに今、木下先生がおっしゃったような、数々の副次的な疾患をたくさん診てきて、戦争が健康や人に及ぼす影響についてずっと考えさせられてきました。
例えば、アメリカ軍はベトナムで戦いましたが、ベトナムから帰還した元兵士を、僕はたくさん診てきました。
やはり最も頻度が高いのは PTSD です。
目の前で友達が亡くなったり、地雷が爆発したり、攻撃されたり、銃撃されたりを見て、何十年経っても夢で見るとか、夜すごく不安になる方をたくさん診ました。
アメリカの軍人は、ベトナム戦争では加害者側とだけ思われがちですが、派遣された人は枯葉剤、こちらではエージェント・オレンジと言いますが、この被害にあっています。
枯葉剤により、数々のがんが引き起こされることがわかっています。
白血病やリンパ腫などの血液系のがんになってしまう方もたくさん診てきてました。
(戦争による)精神的、肉体的な健康の被害というのは計り知れず、今起こっている状況は、本当に心が重くなるような状態だと思います。

コロナ関連で言うと、ウクライナはワクチン接種率が30%くらいしかありません。
今はほとんど検査はしていないと思うのですが、防空壕の中で密集したり、難民として国外にぎゅうぎゅう詰めの列車で逃げることで、感染はある程度広がっていると思います。
病院が標的になっているとか、こどもが亡くなったとか、本当に戦争は良くないですよ。

木下喬弘
ありがとうございます。
特に、アメリカで臨床をされていると実際に退役軍人を診療される機会もあるということでした。
戦争で PTSD が起こるというのはデータではよく言われていますが、それをリアルに診療されている体験を共有していただくのは、非常に価値のあることだと思います。

谷口先生、池田先生、何かここで追加のコメントがありますか?

谷口俊文
おはようございます。
日本にいるとあまり戦争を身近に感じないかもしれませんが、安川先生がおっしゃったように、アメリカで診療している時期に、僕も在郷軍人病院での勤務がローテーションにあり、安川先生がまさにおっしゃった通りの状況でした。
PTSD の方は多くいらっしゃって、患者さんを診察していく過程でいろいろな話が出てきて大変だったんだなと感じました。
(呼び出しのコール音が響く)

木下喬弘
お疲れさまです。臨床がんばってください。
池田先生どうぞ。

池田早希
私の場合は小児科ですので、退役軍人の方のお子さんや、両親のうちのどちらかが派遣されているお子さんを診ることが多かったです。
やはり家族にも影響は大きくて、メンタルヘルスの問題やアルコール中毒、PTSD、虐待が多かったので、戦争は家族全体にも影響することだなと思います。

木下喬弘
まさに、本人だけではなく家族がストレスを受けて精神疾患を発症したり、家族がバラバラになり、危険な任務に割り当てられることは、全て家庭内暴力のリスクにもなるとここにも書かれています。

そういう直接的、間接的な公衆衛生上の影響については、まず最初に書いてあるところです。

ここからは、どうやってそれを防ぐのかが書かれています。
それがすごく長くて、全部紹介する時間も無いし、どれだけ有効かが実証されているわけでもないので、この論文を元に深く話すというか、皆さんにご意見をお伺いするのがいいかなと思っています。

この後に、この論文の中では、公衆衛生の専門家というのは、これだけ公衆衛生上のインパクトが大きい戦争というものに対して、それを防ぐためにスキルを養成しないといけないし、公衆衛生大学院などでそういう教育をしないといけない。
持っている能力、疫学や何かの出来事が起こるのを予防するファクターを見つける研究手法や、様々な公衆衛生のスキル、ヘルス・アドボカシーも含めて、そういったものを活かさないといけないということが書いてあります。


人類が抜け出せぬミリタリズムの落とし穴

木下喬弘
これは8年前のペーパーなわけですが、今のこの文脈で見ると議論があるところで、僕は軍事の専門家ではないので何とも言えませんが、その中でもトピックとして扱われているのが、ミリタリズムという考え方なんですよね。
ミリタリズムとは、端的に言うとこう書かれています。

Militarism is an excessive reliance on a strong military power.

強い軍事的な力に過度に頼る考え方のことで、要するに、複雑な国際関係でいろいろな問題が起こる中でそれを解決するのに軍事力を重視しすぎる考え方ということです。
軍事力に大きく依存することにより、例えば兵士を過度に称賛する方向に行ったり、「最終的な自由や安全をもたらしてくれるのは強い軍事力である」という考え方に偏ってしまったり、あるいは軍事的な道徳と倫理を損ねたりする影響のあるものだということです。

ミリタリズムをどうやって排除していくか、その特徴がどんなものか、そこから抜け出すために公衆衛生は力を注がなければいけないと書いてあるわけです。

2011年のアメリカの国防費は約70兆円(注:現在の軍事予算は7700億ドル)で、全世界の軍事費の41%を占めています。
次に多いのは中国で8.2%、その次はロシアで4.1%、イギリス・フランスが両方とも3.6%と続いています。
GDP の中に占める軍事費の割合の1位はサウジアラビア、2位はアメリカとロシアで大体タイだと示されています。
要は、この辺の国はミリタリズムにあるというか、経済的にも非常に優先されているということがデータとして書かれています。
70兆円というのはどの程度の規模のものかというと、
・2億7000人のこどものヘルスケアの費用
・800万人の学校の先生の給与
・780万人の警官・保安官の給与
・6900万人の大学の奨学金
が払えるということです。
それだけ軍事費が大きいという表現ですね。
非常に大きなミリタリズムがアメリカにはあるということを指摘しています。
それを元に軍事費を減らしていくとか、考え方を変えていくとか、公衆衛生側が戦争を防ぐための手立てを打っていくべきだと書いてあります。

ここからはどうやって公衆衛生が戦争を防ぐための役割を果たせるかが書いてあるのですが、「これで防げる」みたいなのがパッとあるわけではないので、この観点から皆さんにご意見をいただければと思います。

現状ウクライナで起きていることに対するコメントや、我々がどうすべきかについて、せっかくなので、岡田先生から行きましょうか。

皆さん、話をふりますんで、準備しておいてくださいね。

岡田玲緒奈
……難しい質問ですね。

木下喬弘
難しいんですよ、そりゃ。
どうやったら戦争が防げるかわかっている人がいたら、戦争なんか起きていないわけで。
難しいんですけど。

岡田玲緒奈
そうねえ……公衆衛生的に、我々が医療者としてどういうことができるかという意図ですよね。

木下喬弘
そうですね。この論文に書いてあることは、まあそういうことです。

岡田玲緒奈
全然考えてなかった。
「ほーん」って聴いてました。パス、他の人の意見を聞きたいです。

木下喬弘
じゃあ吉村先生お願いできますか?


私たちが一人ひとりができること ピース・アドボカシー

吉村健佑
非常に興味深く聴いていました。
やはり公衆衛生大学院にも行って思ったのですが、公衆衛生的な危機ですよね、この戦争というのは。
それに対して、公衆衛生を担う一員としてはきちんと関心を持ち、対処についてもできるだけ協力しようというのは、大学院の中でもそういうメッセージが出されていたと思いますし、公衆衛生に携わる多くの方が、そういうマインドなのかなと思いました。

あと2点あって、1つは戦争による大きな失業ですよね。
社会的なポジションや役割が失われたことによる、例えばアルコール依存や自殺の増加というのは、ソ連が崩壊してロシアになる際にも起きた有名な話ですし、社会的な動乱により結構あとあとまで大きな公衆衛生指標の悪化はあると思います。

もう1つはやはり、木下先生がふれていただいたことの多くには、メンタルヘルスの問題があると思いました。
PTSD を始めとする、戦争による健康被害の多くに精神・行動の障害があるのかなと。
例えば、さまざまな非合法薬物への依存も含めてあるのかなと聴いておりました。

どうやって予防するかについては、戦争そのものの発生を公衆衛生の枠組みで止めるのは、おそらく国連の枠組みが動いてもなかなか難しいことも考えれば、起きる被害をどのように減らすのかという、災害時医療で言う「減災」がポイントになるのかなと考えています。
まさにモニタリングと優先順位をつけた資源の投入になるのかなと思ったところです。

木下喬弘
本当におっしゃる通りで、この論文はスコープが広くて、公衆衛生の立場から戦争を止めるみたいなのは「まあ結構無茶なこと言ってるな」という感じです。
まさにその減災の考え方は非常に重要で、戦争で今苦しんでいる人をどうやったら少しでもサポートできるかは、公衆衛生が真剣に、全力をかけてやらないといけないことだと思います。
吉村先生、ありがとうございます。

黑川先生、何かありますか?

黑川友哉
ありがとうございます。
すごく重いテーマです。
私は広島県産なので、変な表現ですが、刷り込まれるように、幼稚園の頃から毎年平和教育があって、高校生になっても続くほどでした。
私の通っていた中学校の近くに平和公園や原爆ドームがありましたので、本当に庭くらいの勢いで、平和を考えることや、過去に戦争があったことと隣り合わせで育ってきました。

いまお話があった、最後の「ミリタリズム」ですよね。
軍事力、経済的にも軍事にお金をかけて力をつけることにより、それが戦争の抑止力になるというのか、それともそれが戦争を解決するという意味なのか、私にはわからないのですが。
とにかく力で何か解決しようという考え方の対局にあるのが「対話」という考え方なのかなと思うんですね。
きれいごとで「対話をすることで戦争を抑止しよう」とはよく言われますし、今までも各国の首脳がずっとやってきたことかなと思います。
しかし、文化的な背景で全く話が通じないとか、むちゃくちゃなことをやる人はその中にもいて、それがやはり結局戦争を引き起こしてしまう要因なのかなと、しろうとなりに感じています。
解決策というのはなかなか難しいと思いつつ、私は生まれ育ってきた場が平和と向き合うような環境だったので、教育の面からも、平和教育に投資することが必要かなと思います。
全世界の軍事費の40%がアメリカにあると言われていますが、その一方で、どれくらい平和教育にお金が割かれているかが少し気になりました。

私は教育の面でも少しお金をかけるべきだという立場でコメントをさせてもらいました。

木下喬弘
それも本当に重要なご指摘ですよね。
価値観の共有にも繋がりますし、大事なポイントかなと思います。

安川先生、コメントがあればお願いします。

安川康介
そうですね、まず軍国主義についてですよね。
日本は核を2回落とされていますが、それが世界に1万以上あり、アメリカとロシアで5000以上ずつって、もう馬鹿馬鹿し過ぎますよね。
そんなに核弾頭は要らないでしょう。

一応オバマ元大統領はノーベル平和賞を取っていますが、核を減らすということに関しては、あまり進んでいないんですよね。そこは個人的には少し残念なことだったのです。
アメリカは GDP の4%弱、日本円にして約87兆円の資金を軍事に注いでいます。
軍事費を全部削れというわけではありませんが、木下先生がおっしゃったように、その資金をワクチンの研究や医療、教育などに投資したら、一体どれくらいのことができるのかとはよく考えます。

日本も、一応表向きには軍隊が無いことにはなっていますが、日本も世界9位で5兆円くらいと、かなりお金を注ぎ込んでいます。
日米同盟もあり米国と近い関係にあるため、軍国主義の話題に関しては無縁でないと思っています。
岸田政権は、多分コロナのことやウクライナの情勢がある程度落ち着いた段階で、9条を含めた改憲に取り組むのではないでしょうか。

(私たちが)何をすればいいのかということですが、やはり一人ひとりが歴史を知り、国の安全保障のことを考えつつ、この論文にも書いてあるピース・アドボカシー(平和を望む意思を表明すること)を行うことが大切だと思います。
一人ひとりの声は小さいとは思いますが、それでもやっていくのが大事なんじゃないかと思っています。

木下喬弘
私も最後に1つ、伝えたいメッセージがあります。
私たちはそもそも、新型コロナウイルス感染症のリスクや、新型コロナワクチンのアドボカシーグループですね。
アドボカシーという英語も日本語に訳すのが非常に難しいですが、いわゆる情報提供をしているプロジェクトで、その必要性を訴えたり、理解していただくために活動しています。

いま世界のいろんなところで、そういう意思表示が行われていると思うんですよね。
例えばニューヨークやアムステルダムのデモの様子も Twitter で流れてきたし、僕の好きな街であるプラハでも、ウクライナの国旗を振っている状況があり、日本でも渋谷でデモがありました。

今ウクライナに暮らしていて、まさに目と鼻の先にロシア軍が迫っていて、明日自分が死ぬかもしれないと思っている方に対して、僕が考えつく限りで唯一できることは、味方であることの意思表示だと思っているんですよね。

我々にとっても全く無関係なことではありません。
生命の危機や、吉村先生がおっしゃった間接的な効果としてのメンタルヘルスに与える影響など、あらゆる意味で危機に陥っている人たちに「私たちはあなたたちの味方である」という意思表示をしたいのです。
我々の団体はもちろん政治的な発言をするための団体ではないのですが、公衆衛生の専門家の集団としてそういうことを伝えていけたらと思っています。

少し長くなってしまいましたが、以上が私が最近考えているところです。
「こうすればいい」というものがあるわけではないのですが、私の考えは皆さんに共有できたかなと感じています。

安川康介
これは本当に大切な話でした。
直接的にコロナワクチンの話とは関係ないですが、取り上げていただいてありがとうございます。

木下喬弘
というところで、今日はこのあたりにいたします。
公衆衛生をやっている立場からして、何か直接的に大きな影響を与えられるわけではありませんが、皆さんと一緒に考えていけたらと思っています。
今日も聴いていただいてありがとうございました。
それでは日本の皆さん、良い一日をお過ごしください。

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