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君がいるここで

今日は何食べたい?

仕事終わりに、君にきく。

ごくたまに、はっきり食べたいものを答えてくれるけれど、大抵いつも「何がいいかなあ」と言ったきり。結局私がメニューを決める。

「今日は寒いから、お鍋にしよう。君が好きな、キムチ鍋。」

買い物を済ませ家に帰ると、君はおもむろに買い物袋から缶チューハイをとりだして、乾杯しようと私に要求してくる。

乾杯。

私が毎日お弁当を作るかわりに、君は毎日夕食を作ってくれる。お酒を片手に、BGMをかけながら手際よく野菜を切る。(千切りキャベツと玉ねぎのみじん切りは、料理好きな私でもかなわない。あっというまに、細くふわふわした千切りキャベツと、細かく刻まれたみじん切りが完成するのだ。)

具材を切り終え、鍋に押し込むころには、君が手に持っている缶チューハイは空になる。少し酔ってきたのか、鍋の様子を見ながら今日のできごとを楽しそうに話し始める。私は、その話をのんびりと聞き、夕食ができるのを待っている。

私たちは酒飲みだ。

ワイン、日本酒、ウィスキー、焼酎のうちのどれかが必ず家に置いてあって、夕食の時には必ず一緒にお酒を飲む。

君と会う前、私はよく1人で居酒屋に行き、お酒を飲んでいた。賑やかな大衆居酒屋からバーのような落ち着いた雰囲気の店まで、1人でどこへでも行っていた。1人で目の前のお酒と向き合い、味わい、大人の時間に酔いしれていた。それが私の、至福の時だった。

あの頃の私と今の私は、まるで別人だ。

君は私に、「寂しい」という感情を教えてくれた。寂しいと感じることが良いことなのかは分からない。けれど私は、君がいないと寂しい。1人で飲むためのお金を使って、君と飲むお酒を買いたい。人はこうも変わるものなのか。

そんなことを考えているうちに、キムチ鍋ができた。

「辛いお鍋だから、今日は日本酒を冷で飲もう。」

飲みながら話すことは、次の日には忘れてしまっているような、たわいもない話だ。時々、将来のことや仕事の悩みなど、真剣な話もする。

そのうち君の目がとろんとしてきて、こたつでうたた寝を始める。私はしばらく君の寝顔をみながらお酒を嗜み、体が温かくなってきたら、寝る支度をする。

君とお酒を飲む生活のしあわせを感じながら、眠りにつく。

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