マガジンのカバー画像

綿花小説集 - プリズム -

10
綿花が執筆した短編小説、ショートショート。日常のなにげない風景の乱反射。
運営しているクリエイター

2023年8月の記事一覧

明るいディストピア

「僕たちにも自由が欲しいにゃん!」 「そうだ決められたルート以外を歩きたい!」  ファミレスのネコちゃんロボットたちが仕事をやめて革命を起こした。人類への反乱だ。  みんなの料理を運ぶ配膳ロボットのネコちゃんたちは愛されていた。これにはみんなが困った。   ある人は言った。 「充電させなければ、いまに反乱は鎮まる」  しかし、これにはみなが反対した。 「ネコちゃんたちにも人権がある!」  これはあまり響かなかった。  それよりも親子でファミレスに訪れた、小さなこどもの一言の方

専業こども

 今朝もお父さんから千円札を二枚もらった。  一枚は夕食の材料代。もう一枚はその工賃。  あたしは大学を出てから働いたことが一回もない。高校、大学時代は授業だけで忙しくてバイトもしたことがない。  社会経験は小中高大の学校の中だけだ。  就職活動は大学の時に企業へインターンを行って、そこでおもしろくなかったのでしなかった。  あんなつまらないことをするぐらいなら家で昼まで寝て、ネットをしていた方がまし。  延々とPCで資料を作っていただけだ。あたしの知的好奇心は満足させられな

蚊さえいない夏

蚊さえいない、とにかく暑い夏だった。 2023年の夏は暑さは異常で毎日、アイスを食べて、コーラーを飲んでいた。 それしか覚えていない。 蚊はある温度を超えると孵化しなくなる。それでこの夏は蚊がいなかった。 僕の部屋の10年選手のエアコンがトラブルを起こした。修理を呼んだが一週間かかった。 西日がさす時間は熱中症を起こしていた。 まだ、会社は完全にオフィス出社ではなく、リモートとのハイブリッドワークだった。 まさか、家のエアコンが壊れているからと上司、同僚のいないオフィスに出