時と場合。
《小説》
サキは言った。
「もし、私が実は男だって言ったらどうする?」
え?
今、僕はベッドの上でサキと抱き合っている。彼女(か、彼女だよね)と抱き合うのはこれで2度め。この前はベロンベロンに酔っ払っていたし、真っ暗で、事が終わると夜のうちにホテルを出たから、正直言うと僕は、サキのあんなところだとかこんなところをマジマジと確認したわけじゃない。
でも、なんだってまたそんなことを、今このタイミングで言うんだよ。今、僕はベッドの上、と書いたけど、もう少し正確に言うと、ベッドの上のサキの上というか中にいるんだ。
まいったなぁ〜。
「ど、どうする?って言われても。。。もう動き始めた汽車は急には停まれないよ。」
自分でも、なんてマヌケなセリフだろう、って呆れるけれど、反射的にそんな言葉が、僕の口を突いて出た。そして、確かに動いていたんだ。
「あなた面白いこと言うわね。マリア・マルダーの曲を思い出しちゃった。」
「"It Ain't the Meat (It's the Motion)"だね。でもさ、あれの歌詞って確かにそういうダブルミーニングの歌詞だったと思うけど、具体的にどんな歌詞だったっけ?」
何聞いてんだよ、僕は。そんなことは今、喫緊の問題ではない。サキが男か女かってのが問題だった。
「で、ホントに、男なのか?」
すると、サキはケラケラと楽しそうに笑いながら薄暗がりの中でじっと僕の目を見つめた。目には妖しい光をたっぷりと湛(たた)えていた。
「あなた、質問しながらも動きは止めないのね(笑)いいわよ。
It ain't the meat it's the motion..
That makes your mama wanna rock.....」
と、彼女は(彼女だよね?)歌い出した。
「で、でもさぁ、あれじゃん。サキって言ったら女の名前じゃん?」
僕は必死に堪えながら、そう言った。
「あら、あなた、前にO.ヘンリとサキの短篇集が好きって言ってたじゃない。サキは男でしょ?」
「か、彼のはペンネームで、僕が言っているのは、早紀とか早希とか紗季って意味で。。」
ギシッ、ギシッ、とベッドが軋む音がその会話にかぶっている。僕は一体何をしているんだ?と自分でも少し呆れつつも、動きを止めることが出来ない。
「あら、アタシ本名はサキじゃないのよ。友達がある時サキって呼び出してそのままなの。それにそれが日本人の名前かどうかなんてわからないじゃない。」
ギシッ、ギシッ。はぁ、はぁ。た、確かに彼女は日本とアメリカのハーフだ。
「し、しかしぃ、そのぉ。。。」
「 It ain't the meat it's the motion...
That makes your mama wanna rock ...
It ain't the meat it's the motion...
It's the movement that gives it the sock....」
僕の焦りというか限界をあざ笑うように、彼女(ほんと、彼女であってくれ!)はマリア・マルダーばりのスイングで歌い続ける。頭に来るけれど、歌がとても上手い。
「どっ、どっち、っていうか、そのぉ。。。」
ギシッ、ギシッ。はぁ、はぁ。
ま、まぁ、気持ちいいから良いか。。。
えっ、よくない、よくない(汗)
っていうか、どっちなんだぁぁぁぁぁぁ!?(叫)
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