ひなたぼこ
あかるい日差しがさみしい路地にそそいでゐるおだやかな日だつた。おばあさんが往來の眞ん中にうづくまつてゐた。私は立ち止まつて、だいじやうぶですかと聲をかけた。おばあさんは、まぶしさうに眼をあげてきよとんとした。どこか痛いのですかと聞くと、すこしわらつたやうだつた。しわだらけの顏にうづまつた微笑はあるかなきかの表情で、こころの色を讀みとれなかつた。おばあさんはなにか言ひだしさうに口をうごかしたが、ことばはなかつた。けれど顏はおだやかだつた。きつと、ひなたぼつこをしてゐるだけだらう。いいお天氣ですねと言つたら、しわだらけの顏がまたすこしあかるくなつた氣がした。お氣をつけて。さう言つて私は立ち去つた。おばあさんのうづくまるアスファルトは、おばあさんの顏みたいにひび割れて、道ばたには今にくずれさうなトタンの平屋があつた。おばあさんの住みかにちがひない。暫く行つてふりかへると、猫のおばあさんはまだ道の眞ん中にまるくなつてゐた。
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