夕焼けの音
夕方に鳴る五時の鐘は、遊び盛りの子供にとって憂鬱な響きだった。どんなに夢中になって遊んでいても、鐘は時間がくれば残酷に響いて、友達との間を引き裂いた。茜色の夕映えに染まって家に帰るとき、路面へ自分の影がうしろに長く伸びるのは、駄々をこねるもう一人の僕を引き摺るようだった。
五時の鐘に合わせて母が遊び場まで迎えに来ていたことがある。鐘が鳴っても母が来るまでは遊んでいられる。まだ来るな、まだ来るなと念じながら、そのわずかな猶予を、いとおしむように遊んだ。
母の姿が見えると、僕は見つからないように物陰に隠れて悪あがきをしたこともある。五時の鐘は、夕焼けの音。長く伸びる影の音。冒険仲間との訣別の音。
三十年以上経た今、時代はずいぶん変わったけれど、ふるさとに響く夕方の鐘の音色だけは変わらない。
小学生が二人、足早に、中年となった僕の前を横切った。
「いま何時?」
「4時58分」
「あと10分?」
「あと15分だよぉ」
二人はランドセルをバタバタ言わせて駆けていった。子供の去った道に五時の鐘が響き、そしてすぐに消えた。
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