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死んだ目でラブリー

ヤンニョムチキンを買いにスーパーに出かけた。

ヤンニョムチキン、ずっと食べたい食べたいと思っていた。我が家は郊外の微妙な所にあるので、近くに専門店はない。さらにウーバーイーツや出前館さえも圏外だ。これはもう、出来合いのカラアゲを買ってきてそれっぽいタレをあえるしか…と思って出かけたらスーパーで見つけた。お惣菜コーナーにヤンニョムチキンを。

とてもおいしかったのだが、こんな地方のスーパーで売ってるくらいだから本場とどれくらいかけ離れているか分からない。きっと日本向けにローカライズされ、さらに地方スーパー流にスーパーナイズ(?)されているのだろう。

でも、美味しかったので今回再び買いに出かけたというわけだ。

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私は、こういう、海外の見たことない食べ物がとつぜん入ってきて、メディアに持ち上げられ、東京におしゃれな店がどんどん建ち、それが微妙に姿を変えながら地方までやってきて、一瞬ののちに消えていく軽薄な流れが、

嫌いじゃない。むしろ好き。

美味しいものに関しては、保守的なものだろうが流行のものだろうが、のべつまくなく興味がある。人生が終わるまでに一つでも多くの美味しいものを口に入れたい。最近の流行は量が多くてちょっと胃が追いつかなくなってきた感はあるけれど。(タピオカミルクティーは美味しいボリューミーな団子汁だと思った。)

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数年前、原宿のアイス屋に夫と二人で出かけたことがある。

新規開店のそのアイス屋は、私の出身地のお菓子とのコラボメニューを展開していて、こんなことはなかなか無いので行こう行こうと夫を誘った。電車に乗って2時間もかけて原宿へ行った。

マップを見ると、原宿のメインストリートではなく、裏通りというのかな、少し奥に行ったところにそのお店があるようだった。人でごった返す表通りからどんどん奥に入っていくと、だんだんと道が細く、薄暗くなっていった。

道に少しずつゴミが増えて、塀への落書きやシールのようなものが増えていった。は…原宿でもこんな通りがあるんだねと言いながら歩いて行ったら、奥まったマンションの一階にそのアイス屋はあった。

どきどきしながら扉を開けると、そこはこれぞ「映え」というような、ピンクの壁にワイヤーでつられたよくわからないカラフルな玉、謎の吹き出しのオブジェに浮かぶ英単語、というドリーミーな空間が広がっており、横のレジにバイトの若者が二人、だるそうに立っていた。

店に入る瞬間、夫が怯んだのがわかった。

私と夫は心を無にして目当てのアイスを二つ頼んだ。会計を済ませると、バイトの男の子は気だるい感じでアイスを渡しながらこう言った。

「ラブリー」

ララララブリー…。どうやら渡す時の挨拶?決まり?のようなものらしかった。満面の苦笑いでアイスを受け取り、インスタブースでパパッと写真を撮り(田舎者なので撮ってしまうのだ)、そそくさと店を出て汚い路上でアイスを食べた。味は美味しかった。味は。

あの店はいったいどうなったのだろう?調べてみたら、今は店も移転して、ラブリーは言っていないようである(SNSでそのことが何も書かれていないからたぶん)。幻のラブリーだったか。最初だから無理してしまうことって、あるよね。

今は、なかなか気軽に食べ歩きもできなくなってしまったけど、早くコロナが収束して、こういうちょっとしたハプニングのような店にも、行けるようになるといいですね。(良い話風に締め)


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