心的概念

心的概念は,過去に存在して現在の行動の原因になっているが,現在は観察できない環境事象(行為者の過去の経験)を行為者の内部に投影し,仮説的に実体化したものである。それはいわば,行為者が生まれてからこれまで経験してきた,無数の環境事象という目に見えない「歴史」を,行為者といぅ
主体を透かして過去の方向へ眺めていくためのメタファー(隠喩)なのである。

心的概念は,過去にその人が経験したであろう歴史が,ある種の映像に変えられてその人というスクリーンに映し出されているようなものである。映像はその人の中にあるように見えるが,実際にはそこに投影されているだけの「かげろう」なのである。

心理検査や性格テストなどでは,それで計量された行動パターンと結びついた心的概念の測定から,その人の行動の特徴を説明したり,後の行動を予測したりする。これは,その人の行動が成立し,変化している時間的流れを勝手に止め,その時の状態に勝手に一貫性を仮定して,その後のその人の人生を決めつけてしまうことになる。

問題は,「科学的」心理学が心的概念を科学的概念と取り違えて, それを客観的に取り扱うためのひねくれた方法を百年にわたって編み出し続けたことにある。

渡邊(1997)メタファーとしての「こころ」〜心的概念が意味しているもの
「北海道医療大学看護福祉学部紀要」No. 4 pp. 75-82.