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インバーと生存空間の話(2024年6月3週)

 毎週土曜、シニアの皆さんを対象にZOOMを通じ、時事ニュースや科学ニュース解説を行っています。
 2024年6月第3週は、熱膨張係数がきわめて小さいインバーと、生物進化における生存空間、そして鉄筋コンクリートのお話をしました。
 (写真は2018年・札幌雪まつりの展示)

1)熱膨張しない特殊な金属

 電気こたつなどの温度維持に使われていた「バイメタル」は、熱膨張係数の異なる二種類の金属を貼り合わせ、温度センサーとスイッチの役割を兼ねた非常によくできたデバイスでした。鍵となるのがインバー(不変鋼)という材料。鉄とニッケルのある比率の合金は、熱膨張係数がきわめて低くなります。温度上昇による相変化での体積減と、通常の熱膨張とがちょうど打ち消し合う比率なんだそうです。

 クロムやコバルトなどを使うことで、さらに熱膨張係数の小さいスーパーインバーという材料も開発されています。きわめて過酷な温度変化にさらされながら、高い寸法精度を維持しなければらない環境――宇宙望遠鏡の構造部材などに使われています。

2)水の特殊な性質

 「温度が上昇すると体積が小さくなる」という物質、めずらしいもののように思えますが、意外とそうでもありません。もっとも身近なのが「水と氷」です。
 温度が下がって氷になると、水分子が規則的に配列することで体積が1割ほど増加します。

 比重の小さくなった氷は水に浮くため、水面下に生物の生存空間が確保されます。もしそうでなかったら、海が生物進化のゆりかごとなることもなく、地球は別の様相を呈していたことでしょう。

3)社会を支えるRC(鉄筋コンクリート)

 熱膨張率係数における僥倖をもうひとつ。圧縮に強いコンクリートと引張に強い鉄を組み合わせた鉄筋コンクリートは、現代社会のインフラを支える重要な発明のひとつです。工事現場で見る鉄筋の表面にはコンクリートとのなじみを良くするための細かなリブが加えられていますが、そもそも両者の熱膨張係数がほとんど変わらないことが、この構造を成立させています。もうしそうでなかったら、暑熱寒冷で空隙が成長、水が入り込み凍って体積膨張、さらにわれが広がって..という劣化プロセスが容易に想像できます。
 高層ビルから視界いっぱいに広がる市街を見下ろしながら、土木技術のエンジニアから「これこそ天の配剤」と教えられたときの感動を今も思い出します。

(了)






http://www.ncsm.city.nagoya.jp/exhibit_files/pdf/S523.pdf


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