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月着陸成功!(1月第3週)

 毎週土曜、シニアの皆さんを対象にZOOMを通じて、時事ニュースや科学ニュース解説を行っています。そこで扱った話題をダイジェストでご紹介します。
 1月第3週はJAXAの月着陸実証機SLIMをいろんなものにたとえてご紹介しました。


1)SLIMはエベレスト単独行?

エベレスト登山では、大人数のチームを編成して補給物資を運び、ごく少数が登頂をめざします。燃料込みで1トンを切る探査機が月面に降り立つのは、少人数の登山隊というよりは、ひょっとしたら単独行のようなものかもしれません。月スイングバイを利用したルート設定もオリジナリティに富んだものですし。

2)SLIMのピンポイント着陸の意義は?

能登地震で自衛隊機による物資投下を訴える人がいました。落下物による危険だけでなく、回収の手段や手間、その後の輸送などを考えるとあまり現実的ではありません。大型機でたくさん運べればいいのですが、必要な場所にピンポイントで届ける手段も必要になります。まずは探査を目的にということですが、将来人間が月面で活動するようになったとき、非常時に救援物資を速やかに届けるなどの用途で役立てることができるかもしれません。

3)ブレーキだけで止める難しさ

「空荷のダンプの後ろや、満積載の前は避けるように」と、免許取りたての頃にアドバイスされました。重さによってブレーキの効きが大きく変わり、追突したりされたりする危険があるからです。
テレメトリ数値を見ていると燃料+酸化剤の質量は小錦の現役時代から、中2女子の平均値ぐらいまで変化(減少)します。これだけの質量変化がありながらピタリと止めるのは、電車の運転でも至難でしょう。しかも電車は1次元、クルマは2次元ですが、SLIMは3次元空間で落下しながらのブレーキングです。超難関です。

4)「表情、固いよ」とダメ出し!?

「太陽電池が発電していない」と聞くと、カメがひっくり返っている状態をつい想像してしまいます。であれば表情が固くなるのもしょうがないかも。記者会見で「大成功なので、もうちょっと喜んでもいいのかな? みなさん表情が固い」と質問したNHKの方(原子力・宇宙担当の水野倫之解説委員)が、私には「演者にダメ出しする演出家」のように思え、笑いを禁じ得ませんでした。

5)アマチュア無線の電波で生存確認

着陸時刻直後から、SLIMに搭載されていた小型探査機からの電波を、和歌山大学のΦ12mパラボラアンテナは受信していました。信号はしっかり受信できていることから着陸に成功し機器は健全、しかも受信が間欠的であることは月面でのホップ移動を反映したものと思われる、という話でした。データが楽しみです。

https://youtu.be/OmAynXk0WBI?t=36

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6)歌会始の儀

最後の話題は歌会始め。今年のお題は「和」。選者である歌人・細胞生物学者、永田和宏さんの歌を解説しました。

ひと滴の 檸檬 に紅茶は色変へて はるかなり中和滴定曲線

 中和滴定曲線は、たぶん概念としては中学理科の「酸性とアルカリ性」で教わるのではないかと思います。はるか昔の理科教室で、ぽたりぽたりと試薬をたらし、急激な色の変化に級友たちと目を見張った頃の思い出が蘇った、ということではないでしょうか。プルーストの小説『失われた時を求めて』で記憶を遡るきっかけもマドレーヌと紅茶でしたし。

 ちなみに「月」がお題だったのは平成19(2007)年で、この年の9月に月探査機かぐやが打ち上げられています。当時の歌を見ると、月は照らされたり光ったり景色だったりと、あくまで見る対象です。いずれもう一度、お題に月が出るときには、「行く場所」としての月が歌われてほしいなと思います。

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