常圧室温超伝導体が怪しいわけ


What happened?

今週、室温以上だけでなく常圧で超伝導になる物質を発見したとする韓国の研究チームの報告にSNSが沸いている。もし本当なら、この発見は物性物理学において過去最大級のものとなるだろう。リニアや電力ロスのない電力網など、その波及効果ははかりしれない。しかし、やはり「常温超伝導発見」の歴史を知るものからすると懐疑的にならざるを得ない。

アルゴン国立研究所の理論家マイケル・ノーマンは「超伝導についてよく知らないし、データの見せ方も怪しい。」と論評する。またイリノイ大学の物性物理学者であるナディア・メイソンは、「著者が適切なデータを取り、作製技術を明確にしたことは評価できるがデータが少し杜撰だ」と指摘する。

懐疑的な理由は?

  • 韓国の提案した物質LK-99は金属ではなく、むしろ非伝導性の鉱物であり、超伝導体を作るための有望な物質とはいえない。

  • 鉛原子は非常に重いので、振動が抑制され、電子が対になりにくくなるはず(通常のBCS理論では原子は軽いほど転移温度は高くなる。超高圧下でだが硫化水素(H2S)など軽い原子において超伝導がみられるのはこれが理由だ)

  • 起こっている物理現象についてのまともな説明がない。論文にはドーピングによって、自然界に存在する長い鉛原子の鎖がわずかに歪んだことで、超伝導はこのような1次元チャンネルに沿って起こるのではないかと述べている。しかし、1次元系では一般に超伝導は起こらないことは理論的に示されており、もし本当なら理論が間違っていることになる。



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