予備試験一般教養短答を前提知識なしで解く

予備試験の一般教養短答には前提知識(設問で解答のために必要と想定されている知識)がない、あるいは問題文の意味がわからなくても、常識的な範囲の知識を活用することで、正解を導き出せるあるいは選択肢を削る事のできる問題がそれなりの数存在します。下記のツイートはこれを意図してのものでした。

なお、一般教養短答の全体的な考え方については下記のABCさんの記事がとてもためになるので御覧ください。

ここでは前提知識が不要な問題について2問程度、どういう思考過程をたどれば正解が導けるか(選択肢を削ることができるか)をみていきます。なお、あくまで現場で解く際の思考プロセスを再現したものですので、学術的な正確性は担保されていないことを付言しておきます。

問題1

令和3年予備試験短答式試験一般教養 第13問
教育に関する次のアからオまでの各記述について,明らかな誤りを含むものの組合せを,後記1から5までの中から選びなさい。
ア.個々人の能力に対する評価によって社会的地位が配分されることを「メリトクラシー」といい,近代社会の構成原理の一つとされる。
イ.家族や学校の中で育まれ,その人の後の人生選択に大きな影響を与える,振る舞い方,言葉遣い,感性などの特定の方向性を「ハビトゥス」といい,公教育が発達した近代社会では全ての構成員にほぼ均質に共有されるとされる。
ウ.教育行政が指示するカリキュラムとは別に,子供が現実に学校で身に付ける,又は身に付けざるを得ない知識や行動様式を「隠れたカリキュラム」といい,教育社会学の研究対象の一つとなっている。
エ.若者が学校を卒業又は修了する準備に入る頃から,企業や諸機関に就職してその仕事に慣れるまでの期間を「移行期」といい,教育行政と雇用政策が成熟した国々で新しい社会問題となっている。
オ.社会が経済成長した結果,大学進学率が 50%以上になることを高等教育の「ユニバーサル段階」といい,大学卒の学歴は人々の経済的成功にほとんど影響しなくなったとされる。

1.ア ウ
2.ア エ
3.イ エ
4.イ オ
5.ウ オ

一見前提知識が必要な問題に見えますが、実は一般常識を駆使して解くことができます。
問題文は「〇〇(現象・事柄)を△△といい(定義)、□□(見解・事実)とされる。」という文章構造から成っています。
このうち、「〇〇(現象)を△△(定義)という」の部分は確かに知識が要求されます。しかし、「△△という」の部分は文構造上省略しても意味が通るため、残った「〇〇(は)□□とされる」という部分だけを考えれば、前提知識がなくとも一般常識からの正誤判定が可能です。なお、社会科学系の問題でこういった文章構造の問題がほぼ毎年出題されています。
また、設問で「明らかな誤りを含むものの組合せ」とされているため部分的にでも誤りがあればそれが正解となります。ここも大きなポイントです。
そこで、以下のように△△を省略した形に選択肢を読み替えて正誤判定をしていきます。

ア.個々人の能力に対する評価によって社会的地位が配分されることは,近代社会の構成原理の一つとされる。
イ.家族や学校の中で育まれ,その人の後の人生選択に大きな影響を与える,振る舞い方,言葉遣い,感性などの特定の方向性は,公教育が発達した近代社会では全ての構成員にほぼ均質に共有されるとされる。
ウ.教育行政が指示するカリキュラムとは別に,子供が現実に学校で身に付ける,又は身に付けざるを得ない知識や行動様式は,教育社会学の研究対象の一つとなっている。
エ.若者が学校を卒業又は 修了する準備に入る頃から,企業や諸機関に就職してその仕事に慣れるまでの期間は,教育行政と雇用政策が成熟した国々で新しい社会問題となっている。
オ.社会が経済成長した結果,大学進学率が50%以上になることで,大学卒の学歴は人々の経済的成功にほとんど影響しなくなったとされる。

※オのみそのままつなぐと文章がおかしくなるため、若干の修正をしています。


ア・ウは一見して矛盾や誤りを含みません。
アは予備試験・司法試験がまさに個々人の能力による社会的地位の配分といえるでしょう。近代社会の構成原理、の部分もおそらく家柄・出自等により社会的地位が配分された前近代的な制度との対比で書かれているものと考えられ、おそらく正しいと思われます。
ウについても、「教育行政が指示するカリキュラムとは別」の「子供が現実に学校で身に付ける,又は身に付けざるを得ない知識や行動様式」には一例としてマナーや”社会常識”といったものが含まれると考えられます。これらが「教育社会学の研究対象の一つと」なっていても何らおかしくありません(当然なっているべきとも思えます)。よってこちらもおそらく正しいと思われます。
イは明らかにおかしいです。「特定の方向性」は「家族や学校の中で育まれ」るにもかかわらず、「公教育が発達した」ことのみによって、「全ての構成員にほぼ均質に共有」されるはずがありません。「家族や学校の中」と家族と学校が並列的に書いてあることからもわかるとおり、家庭環境の影響も大なり小なりあるはずであり、明確な誤りを含みます。
エについても間違いとまではいえなさそうです。「若者が学校を卒業又は修了する準備に入る頃から,企業や諸機関に就職してその仕事に慣れるまでの期間」が、「教育行政と雇用政策が成熟した国々」において、教育と雇用の連結という形で「新しい社会問題」となることは十分ありうることです。直ちに明確な誤りが含まれるとはいえないため保留でよいでしょう。
オは明らかにおかしいです。「大学卒の学歴は人々の経済的成功にほとんど影響しなくなった」とすれば大学卒の人々とそれ以外の人々の収入格差はほとんどなくなるはずです。しかし、大学卒と高校卒の生涯年収が大幅に異なることは統計から(一般常識として)明らかであり、明らかに誤りを含みます。
以上から、イとオを組み合わせた4が正解であることが判断できます。

※なお、誤りを含むものを判定できれば問題ないので、正解の肢については直感的に誤りではなさそう、と感じる程度で十分。

問題2

令和3年予備試験短答式試験一般教養 第29問
以下の文章の空欄(ア)から(ウ)に入る式・数値の組合せとして最も適切なものを,後記1から5までの中から選びなさい。ただし,√2=1.41,2^(
1/4)=1.19 とする。

地球が単位時間当たりに太陽光と垂直な単位面積で受け取る短波放射のエネルギーを S ,地球のアルベドを A とすると,半径 r の地球が単位時間に受け取る短波放射のエネルギーは(ア)と表せる。一方,地球の表面温度が T で均一であり,黒体放射をしているとみなせる場合,地球表面全体から単位時間に出て行く長波放射のエネルギーは,ステファン・ボルツマン定数を σ として,(イ)と表せる。ここで,(ア)と(イ)が等しいときの T が地球の放射平衡温度であり,T =255 K である。仮に地球と太陽との距離が2倍に離れたとすると,S の大きさが 1/4 になるため,A が同一ならば放射平衡温度は(ウ)Kとなる。

1.ア πr^2SA    イ 4πr^2σT^4   ウ 181
2.ア πr^2SA    イ πr^2σT^4    ウ 214
3.ア πr^2S(1-­A)  イ 4πr^2σT^4  ウ 181
4.ア πr^2S(1-­A)  イ πr^2σT^4   ウ 214
5.ア πr^2S(1-­A)  イ 4πr^2σT^4  ウ 214

※r^2はrの2乗を、T^4はTの4乗を意味します

この問題はおそらく、多数の受験生が見た瞬間に「意味がわからない」「もはやキモい」と思うものと思われます。私も例にもれずそう思いました。ですがこの問題、実はそれほど複雑でない計算で答えを2択まで絞ることができます(計算まで辿り着くのが少し大変ですが)。実際に問題を読んでいきます。

まず上から読みますが、正直、ステファン・ボルツマン定数が出てくるまでの間、何を言っているのか全くもって意味不明です。その後の文章には、

(ア)と(イ)が等しいときの T が地球の放射平衡温度であり,T =255 K である

との記載があります。ようやく意味のわかりそうな文章と出会えました。この文章から、(ア)と(イ)が等しいとき、T=255Kとなることがわかります。また、(ア)と(イ)が等しいときのTの値が放射平衡温度となることもまたこの文章からわかります。これは前提知識がなくても文章からわかることです。

次に最後の設問文を見ると、

仮に地球と太陽との距離が2倍に離れたとすると,S の大きさが 1/4 になるため,A が同一ならば放射平衡温度は(ウ)Kとなる。

と書いてあります。この文章からは、仮に地球と太陽の距離が2倍に離れたとするとSの大きさが1/4になることがわかります。また、Aが変化しない場合の放射平衡温度が(ウ)Kが求めたい数字であることがわかります。ここで放射平衡温度とは、(ア)と(イ)が等しいときのTの値をいいました。すなわちAが変化せず、Sが1/4になった際のTの値を計算すれば(ウ)がわかります。

ここで始めて、選択肢を検討します。少しだけ話が難しくなります。
まず、(ア)はSについての1次式です。次に(イ)はTについての4次式です。(ア)・(イ)におけるS・Tの係数はそれぞれ定数です(厳密にはAは定数ではありませんが、変化しないため定数と同視できます)。
つまり、(ア)=(イ)が成り立つ時、

定数×S=定数×T^4

という式が成り立ちます。整理すれば

定数×S=T^4

となり

(定数×S)^(1/4) = T

となります。この式のSが仮に1/4になった場合、Tは(1/4)^(1/4)(4分の1の4乗根)倍になります。1/4は1/2の2乗ですから、1/4の4乗根は1/2の平方根になります。つまり1/√2です。√2=1.41なので、1√2≒0.709です。

もともとの放射平衡温度は255Tでしたから、255T×0.709≒181Tが正解となります。つまり正解は1と3に絞られます。ここまでは問題文の意味が全くわからなくても導き出すことができます。あとは純粋な2択です。

まとめ

今回は前提知識がなくとも解ける・絞れる問題についてみていきました。ここでは2問しか扱いませんでしたが、知っていて解ける問題以外は上記で挙げたような問題を解く(選択肢を絞る)ことによって得点の期待値を積み上げていくことが一般教養の基本的な戦い方です。個人的には、知識がいらない問題だけでも期待値的には20点半ば~30点くらいが狙える年が多いように思います。諦めずに問題にひたすら向き合うことが大切です。

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