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英語の発音練習は、声優になったノリで

大学の授業では、時間の許す限り発音練習をやります。
 
「共通語としての英語」の世界では、発音はお互いに理解できることが一番重要で、様々な国の人々が、母語の影響のある多様な英語でコミュニケーションをしているのが現実です。どの英語の発音がいいと比較するより、それぞれの個人の文化や個性を尊重しようと考えます。
 
それでも、安心して英語を声に出す準備体操として、発音練習が大切だと思うようになりました。
 
日本の大学で英語を教え始めた頃、英語を声に出して言うのが嫌そうな学生が多くて、どうしたらいいか悩みました。リーディングの時間に、声に出して読んでもらうと、消えそうな声で、不安そうに英語を読む学生が多い。黙読では意味をよく知っている単語でも、声に出して言うとなると、発音がわからなかったり、自信がもてない。
 
段々とわかってきたのは、もともと、英語を人前で声に出して言う経験をほとんどしてこなかった学生が多いことでした。「中学や高校で、どんな発音練習してきた?」と聞くと、発音練習をほとんどした記憶がない、という大学生が多くて驚きます。音読でさえも、丁寧に練習した経験がない学生も多いです。英語って、声に出して言うことに慣れないと、人前で話すのが不安です。
 
しかも、発音練習は、リスニング練習の準備体操にもなるので、英語の勉強の大切な基礎だと考えています。そこで、英語を人前で言うことがあまり好きじゃない学生が楽しく発音の練習ができる方法を、いろいろと試行錯誤しています。

今学期は、映画のセリフを使い、声優になったつもりで英語を言う、そんな発音練習をしました。
使ったのは、DisneyのFrozenの動画クリップの中の、主人公の姉妹のセリフです。

Olaf is Anna and Elsa's Holiday Tradition | Frozen ---

このシーンでは、AnnaとElsaが雪だるまの妖精(?)Olafに、自分たちにとってOlafがどれほど大事な存在か、と切々と話しかけます。
 
授業では、最初に、妖精の名前のOlafの発音を練習しました。Olafは、日本語のオラフ(ORAFU)とは違うこと、特にfの音はちょっと下唇を噛むし、FUのような母音がつかず、fの音で終わることを聴き取って真似てもらいます。そして、Olafを探す主人公になったつもりで、はっきり繰り返しOlafの名前を発音してみます。
 
次に、この2分の短い動画クリップのセリフのプリントアウトを配ります。動画を2回視聴して、発音で注意する部分を確認します。学生は動画のセリフを聴きながら、それぞれの手元のプリントアウトに、強く発音されている部分にマルをして、一息入れる部分に/を入れます。
 
さらに、3回目の視聴では、動画を何度も止めて、セリフの意味を詳しく説明して、このシーンの物語を理解します。4回目に、動画全体を通して視聴して、全体の流れを映像と一緒に理解します。
これで準備が終了、今度はセリフの発音練習に入ります。動画の最後の部分のセリフ、文字にして4行ほどを、声優になったつもりで、感情をこめて、映画そっくりに英語で言う練習を、丁寧にやっていきます。
使うのはこんなセリフです。
 

Elsa: Anna made these years ago when we first made you.
You are the one who brought us together and kept us connected when we were apart.
 
Anna: Every Christmas, I made Elsa a gift. All those long years alone, we had you to remind us of our childhood, of how much we still loved each other.

動画クリップ”Olaf is Anna and Elsa's Holiday Tradition”より

大意
Elsa: 私たちがはじめて雪だるまを作った遠い昔、Annaはこんなもの(Olafのイラスト入りカードや手作りのOlafの人形)を作ったのよ。私たちを結び付けてくれたのはあなたなの。私たち2人が離れていた時、あなたが私たちをつないでくれたの。
Anna:クリスマスには毎年、Elsaに贈り物をしたの。2人が離れていた長い間、あなたがいたから、私たちは子どものころを思いだしたし、お互いをとても好きなことを感じてたの。
 
英文はシンプルだし、単語は簡単なので、物語の流れさえわかれば、セリフの意味はわかりやすいです。アニメの映像もあるので、頭の中で日本語に訳さず、感覚的に意味を理解してみよう、と学生に説明します。そして、意味が理解できたら、次の4つのステップで発音練習をします。
 

  • ステップ1 強く発音する部分と、一息入れる部分に注目して声に出してセリフを言う

  • ステップ2 長く発音する部分と、音の上がり下がりに注目して声に出してセリフを言う

  • ステップ3 弱く発音する部分に注目して、音を繋げて声に出してセリフを言う

  • ステップ4 ペアになって、役割を決めて、2人で感情をこめてセリフを言う 

それぞれのステップを、3回ぐらい繰り返し練習します。
 
ステップ1は、意味を伝える上で大事な単語を強くはっきり発音し、意味の切れ目で一息入れる練習です。
ステップ2では、音が長くなったり、短くなったりすること、そして音の上がり下がりに注意します。日本語のリズムと大きく違うことを、実感してもらいます。特に、文末で語尾を上げたり、下げたりすることに気を配ります。
ステップ3は、弱く発音する部分では音が連結して変わることに注意を払って聴いてみます。その後、弱く発音する部分に注目して、セリフを言います。弱く発音される部分の連結した音を聞き取るのは、リスニングで一番難しいスキルのひとつです。だから、この発音練習は、リスニングの準備体操になるのです。
ステップ4は仕上げです。ペアになってAnnaとElsaの役を決め、映画の声優になったノリで、感情をこめて英語をはっきりと、聴きやすい声で言う練習をします。
 
2013年にリリースされたFrozenは、今の大学一年生の学生、特に女性にとっては小学生のころから馴染んだ映画です。声優になったつもりで、と繰り返し発音練習をすると、学生も、段々と、感情がこもってきます。英語でセリフを言うのが楽しそうになると、私も嬉しいです。
ちなみに、これはある女子大の授業です。共学や男性の多い授業では全く違う素材を使います。
 
この発音練習のあとで、実践練習もしてみます。学生たちが以前の授業で話した内容を、今度は発音に気を配ってもう一度言ってみる練習をします。すると、かなり英語らしいリズムができます。学生自身も、どう意識すると発音が変わり、英語らしいリズムが作れるか、感覚的にわかってきます。

この女子大の上級生のクラスでは、ファッショナブルな映画としてはすでに古典になっている、The Devil Wears Pradaの動画クリップで発音練習をしました。
Anne Hathawayが演じる主人公のAndyの、仕事の面接の名場面です。
 

The Devil Wears Prada (2/5) Movie CLIP - Andy's Interview (2006) 

最初は、怖じ怖じしていたAndyが、ちょっと開き直って自分を売り込むシーンのセリフを使って、発音練習をします。

I´m not skinny or glamorous and I don´t know that much about fashion but I´m smart. I learn fast and I will work very hard…. thank you for your time.

The Devil Wears Pradaより

大意:
私は痩せてもいないし、グラマラス(ゴージャスっていう感じです)でもないし、ファッションのことはよくわからないけど、頭はいいわ。学ぶのは早いし、一生懸命働きます。
 
これは、ファッション界に場違いなAndyを雇ってみようかなと、Meryl Streep が演じるThe Devilの気持ちを動かした決めゼリフです。smart (地頭がいい), learn fast (早く学ぶ), work hard(一生懸命働く)は、どんな職場でも評価される資質で、若い就活生が英語で自己アピールする際の決めゼリフにもなります。
この部分を、自信を込めて、はっきり言う練習をします。そして、このセリフを覚えておいて、いつか就活で英語面接でもあったら、思い出してねとも言います。
(ただし、この自信満々の言い方が、どこの職場で評価されるかは、また別の問題なので、判断を間違わないように、とも説明します)
 
こんな風に、発音練習を声優になったノリで言ってみるのは、英語に感情をこめて話す練習として効果的です。英語を学び始めたら、折に触れ、発音練習をすると、リスニングやスピーキングのいい準備体操になります。
 
たとえ、発音練習にまとまった時間を取れなくても、英語のリスニングをしていて、気に入った英語の「決めゼリフ」に遭遇した時など、ぜひ声優になったつもりで、そっくりまねて言う練習をしてみてください。

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