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【日々是良書】No.4『財布は踊る』原田ひ香

原田ひ香さんの小説は、一般的な生活の実感を感じられるトピックを扱い、穏やかな印象があるので(とは言っても、ほとんどの作品を読破しているという訳ではないのですが...)、本書『財布は踊る』もそれに準ずる作品だと思って読み進めた。

しかし、生きていると直面するかもしれない困難や厳しさが、かなり生々しく描かれた、予想を裏切るストーリーだった。非常に面白い!!

あらすじ
専業主婦の葉月みづほは、念願のハワイ旅行を叶えるため、節約に励み貯金をし、家族と旅行に出かける。免税店で念願のヴィトンの財布も買った。
旅先では、夫がクレジットカードで支払いをしていたのだが、帰ってきても請求が3万円しかないことに疑問を感じたみづほが、調べてみると、リボ払いになっていたのである。しかも、残高が200万円以上あり、金利が15%だったのである。
家族からお金を借りたり、ヴィトンの財布をメルカリで売ったり、何とかお金を工面する...
売りに出されたヴィトンの財布が渡っていく、人々の変化とは...

生きるって、大変だあ!

一人暮らしをしたことがなく、明日の支払いに困ったことがない身としては、小説の登場人物のような感情を感じたことはありません。

しかし、人生いつ何が起こるか分からないということを、理解しているつもりなので、嘘八百といった物語にも思えないのです。

さまざまな、お金に苦労する登場人物(世の中の人の99.9%はこれに該当するかもしれないが...)
奨学金の返済に困っている人、消費者金融から多額のお金を借りている人、などなど、、、

もしかしたら、気が付かないだけで僕の周りにもいるかもしれませんね。
もちろん、それを問いただすような野暮なことは出来ない訳ですが...当然、相談されても解決できないし...

物語では、先のヴィトンの財布が、渡った登場人物の人生に影響を及ぼすという設定です。

作中にある、こんな一文が、目を引きました。

あの時のこと、それ以降の自分の人生の一ピースでも欠けたら、今ここにいるかどうか..…。

原田ひ香『財布は踊る』新潮社・2022年、p265

ネタバレになってしまうので、あまり書くのは良くないと思いますが、お金の貸し借りに無頓着で怪しいセールスに手を出していた過去を持つ登場人物のこの一言は印象的でした。

大学生の自分の人生を振り返ってみても、あの時こっちの高校に行っていたら、彼らと出会っただろうか、友人に慣れただろうか? あの時、病気にならなかったら、今よりも良かったのか、病気になったからこそ今の自分があるのか、などなど...

色々と考えてしまいます。

また、コロナ渦の経済も物語に織り込まれています。

 コロナは人を貧しくも豊かにもした。失った人と、つかんだ人の差はなんだろう。運、思い切り、そして、他の人よりも目端が利いたこと..…そんなわずかな違いで人生が変わっていく。
 確実に言えるのは、世界中でさらに貧富の差が広がったことだ。

同上、p252

テレビのワイドショーでは、「みんな大変なんだ!(怒りマーク)」、という報道のされ方をしますが、「人を貧しくも豊かにもした」という言い方が一番的確な表現に思えます。

目端の利く人々は、蓄えたかもしれませんね。もちろん、彼らが大っぴらに自慢することは、ほとんどないでしょう...

物語の話題に戻ります。お金の問題を抱える人がお金の問題を解決出来たり出来なかったりするのですが、解決して幸せになった人も出てきます。
しかし、幸せそうに見えない人がいるのも印象的です。お金がなくて幸せ
は、ない気がしますが...

高校で金融教育で、投資を扱うとか扱わないとかが話題ですが、
本来、生きていくにはお金が必要で、お金のやり取りが日々の営みそのものを表すといっても過言ではないのでは?と思ったりします。もちろん、それだけではないのですが、

自分の人生をより良くするツールとして、お金をどうやって取り扱うか学ぶことが大切だと、改めて感じました。

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