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タジマ Dec.11

初台到着して時間があったので劇場のオープンスペースをふらふら。「初台アート・ロフト」をチェックすると、ラジヴ・ジョセフさんの前作『バグダッド動物園のベンガルタイガー』の舞台美術模型があるとのことなので1階奥の方へ。
展示パネルに書いてあるあらすじを読んだらなんと!これ、警護のアメリカ兵が虎に「手」を食いちぎられ…という話なんですって!
ゾワっとした。

今日の席は少し下がったどセン、ふたりをいっぺんに視界に入れることができる。舞台全体が見えて照明の印象も増し増し。床面もよく見える。
音響の効果に気付く余裕もできてきた。ふたりの会話が本質的な部分に入っていく時、不穏な地鳴りのような音が低〜く徐々に入ってくるのね。ラストの鳥の羽ばたきの音は臨場感たっぷり。

そうそう、ラスト…回想から今に戻るとこ、あんなに間を取ってたっけ?
鳥の大群を生き生きとした笑顔で見上げてるところから、その笑顔に気付きまるで自分に対して取り繕うかのように、ゆっくりと今のフマになって、やるせないような表情さえ見せて、そして剣を持ち直して、顔から表情を消して、正面向いて直立する。
フマは自分にとっての「美」を胸の中に仕舞い込み(捨ててはいない)、帝国の衛兵たることを選択しているのだけど、そのことに辛さ哀しさを含ませる度合いが前回観た時よりも高かった、それを割と明確に見せていたように思った。
私の感じ方かもしれないけど。

遠い所へ行きたい、此処ではない何処かへ…という思い。
エアロプラットや穴の話をしながら、フマもバーブも遠い目をしてたね。切実そうだった。
ここらへん、現代の我々にも刺さるところ。
どうしようもなさ。閉塞感。
おかしいね…我々は別に皇帝の圧政の下にいる訳じゃないのに。

バーブに言われた「お前にとって大事なのは規則。皇帝。父親。」に反応して気色ばむフマだけど、そこであっそうだ!美しいもの=鳥!って思い着く。ちょっと切ない。
木彫の鳥、今はもうあんまり作ってない。親父はくだらないことだと思ってるみたいだし…っていう、回想シーンでの台詞が思い出される。

この時バーブは「女」も「美しいもの」から除外するよね。
やっぱり「手」で作った美にすごく拘ってる。
ジャングルに逃げて、自然の中で暮らしたいとか言うくせに。
自然の美が好きなのに自然の中では暮らしたくないフマ。
上手くいかないよね。

ふたりの間にはどうしても埋められない溝がある。
価値観の相違。
身分・家柄にも差があるんだろう。
第2場ラスト「あれは月なんかよりきれいだよ」「いや、それはない」って言う時、フマは完全にバーブから目を背け後ろを向いていた。
あゝこいつと分かり合えることはないんだって悟った瞬間だったのかな。お互いに?

フマはホントお母さんみたいだなぁ。
取り乱したバーブに優しく寄り添い落ち着かせてあげるあのシーンだけじゃなく…
バーブが上手く乗り切れるように、嫌な事から気持ちを逸らせるような話題を振ってあげたり、ヤバイヤバイこの子テンション上がってきちゃってるよ!っていうタイミングはしっかり掴んでるし、今日は遅刻しなかったねぇお前は強いよって褒めてあげたりもするし…
あゝ…お前は強いよって、フマは母親に言われて育ったのかな…

ずっと世話を焼いてきてあげたけど、俺のことは認めないし、自分勝手なことばっかするし、自分だけが苦しんでるみたいな言い方するし、もうこれ以上手に負えなくなっちゃったのかな…
"冒涜罪" でみんなの前では切り抜けられたんだから、お父さん何とかならなかったのかな…お父さんには本当のことを打ち明けた上で理解してもらいたかったんだな。ハーレム護衛兵に取り立ててくれたくらいだから、だいぶ信頼を勝ち得てると思って期待を抱いたけど…やっぱり全然ダメだったんだ…ショックだっただろうな。

カテコ、お二人で交わす笑顔。ちょっと変わったお客さんがいたから、俺たちやり切ったよな!っていう感じもあった?w
あれ?もしかしてラストシーンの演技を分かりやすくしたのって、観客が集中することが難しかったその時の状況を見てだったり?…だとしたらスゴイ。成河さんならそれくらいやりそう。

フマが心に仕舞い込んでいる「美」は、白檀の香りの中でバーブと一緒に見上げた鳥の群れ。
悲しいことに、そこにバーブも含まれちゃってるんだよな…。喪ってしまった「美」。

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