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タジマ Dec.23 [千穐楽]

千穐楽。
見納めた。

席が前方上手端だったということもあり、フマの苦しみに寄り添ってしまった。

バーブを気に掛け、バーブのちゃんとしてないところにイラつき、バーブの着眼点にハッとなり、バーブの楽しい発明と笑顔に和み、ググッと近寄ってきたバーブの顔を至近にこそばゆく感じ、バーブの興味を惹きたいし、すがるようにバーブの肩や手に触れ、うずくまって震えるバーブにあったかい水を注いでやり、バーブと自分との間にある溝に絶望し、バーブが投げてくる言葉にめちゃめちゃ傷ついた。
バーブが星やエアロプラットのことを語ったり自分たちのいる場所についての疑問を発したりするのを聴いている時、フマは正面を向いているけどその目と表情から、今まで自分では考えたことのない発想に触れた衝撃と輝きとそこから思考の渦に呑み込まれていることが見て取れて、その様子はまるで演劇を観た時の私だったよ。

ここまで来たって、新しい気づきや自分の中での新しい感じ方がいろいろ。

極限状況の中で空想の世界へ避難しようと誘うようにそんな話題を始めるのはいつもフマだった。決してそれは壊れそうなバーブを救うためだけではなくて、やっぱりフマ自身にそれが必要だったからだ。そしてその誘いにバーブも応えていたと思う。
フマもバーブも、そうやって助け合っているということを自覚はしていた。
ふたりの間には "思いやり" があった。

バーブは "人工の美" (芸術) を至高のものと思っているけど、もう少し詳しく言うと、"人々が一緒に作り上げる・完成させるということ" に喜びや価値を感じているよね。
森の筏をふたりで作り上げた時の爽快な達成感。2万人が16年間かけてタージマハルを完成させたことを思い湧き立つ気持ち。
人が心を合わせ協力すること、人が繋がるということに「美」を見出している。
現実社会では人はなかなか繋がることができないということを実感した上で、尚それを渇望しているような。

あ、そうだ。
フマ、バーブの手を切って立ち去った壁の裏で焼ゴテを熱している!と思ったよ。煙が立ち上っていたように見えたから。やっぱり止血処理はしたんじゃないかな。手を切り命は奪わずに解き放つことが決められたルールなんだから…フマはそれを完遂したと思う。

第5場では明転するなり息を呑んだ。
フマのくたびれ具合!先日観たとき以上に立ち姿が全然違うんだけど、更に驚き…顔が!え?垂れてるし。張りが無いし。照明のせいで髪さえも白髪まじりに見える。目を疑うほどの変化だった。
(マジですげぇな、この人…。)
そしてまたすぐに、回想シーンでは溌剌とした青年の笑顔を見せてくれる。

回想の後…「何やってんだ俺は」って感じで下を向いて打ちひしがれてた。姿勢は直したけど、最後消えていくまでその表情を顔に置いたままにしてた。
プレビューから5回観たけど、このラストの後味は本当に毎回違ったなぁ。
いやぁホントこういうの堪りません。

終わってしまった。
成河さんは終演後すぐに次作の稽古場へ行かれたようだ。
儚いね。演劇は儚いよね。
切ないけど、そこがまた素敵だね。

シリーズ「ことぜん」もこれで見納め。
今まさに観るべき考えるべき大きなテーマ。
最近観た他作品でもそういう視点を感じることがあったし、これからも折に触れてこの言葉が頭をよぎるんじゃないかな。

思考することをやめちゃいけない。
よね。

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