『爆心地の余焔』の話

 昨年の大晦日、ぼくのサークル「皐月川納涼床」はC103に出展し、無事に新刊を売り切りました。とはいえ、これはどうみても原作と原作者の先生のお力です。
 まったくの新人は1部や2部売れただけでもいい方という話を聞いていましたから、持ち帰って自分たちや身内のものにするつもりで11部作っていったのですが、12時過ぎには10部すべて売り切れるという結果に終わりました(規定により1部は運営に提出しなければなりません)。買ってくださった方、ありがとうございました。
 本記事では、頒布した『爆心地の余焔』の設定みたいなことについて記します。こういうのはあとがきに書けってことなのかもしれませんが、あとがきはなるべく短い方がいいかと思って1ページに収めてしまいましたからね。

スターバック号
 冒頭はご覧の通り、エクストラ編の影響をもろに受けています。封鎖中の孤島なんて、行こうとして行けるものではないでしょうから、こうして偶然の産物とする必要がありました。
 しかし、エクストラ編とは大幅に異なり、今回は舞台が過酷なベーリング海ですし船も下位です。どんな救命ボートならあの環境に耐えて池田たちを護れるのか、それはどうやって乗り組み発進するものなのかというのが難しかったので、うやむやにしています。いくらかは調べたんですが、あんな環境でも大丈夫なボートがあるんですね。
 船名は他にも出てきますが『白鯨』からです。とはいえ登場する固有名詞いくつかとスジを知っているだけで実は未読なので、夏コミくらいまでには読みたいものです……。
 ちなみに、ぼくが読書の習慣を持つきっかけとなったスター・ウォーズのスピンオフ小説たちの影響で、船名には<スターバック>みたく<>を付けたかったのですが、採用したフォントが未対応だったので断念しています。

ベンジャミン・ミラー
 よく考えたらいないでもどうにかなった気もするキャラです。ルイ・アソシエのスタッフということやひとり生き延びて潜んでいたこと、研究データと一緒に暮らしていることは決まっていましたが、最初はねね子の能力を利用して島外へデータを持ち出すのが目的でした。でも、よく考えたらねね子はすでに研究の内容を記憶してるんですよね。
 名前の由来は、『リトルマーメイド3』のベンジャミンと、『MGSV: TPP』のカズヒラ・ミラーです。カズヒラの方は、ヴィンセントへの報復心を使えないかなーの名残でしょうか。
 話せないのは池田と口調が被りそうだったからですが、ややこしくしただけかもなと反省しています。また、妹がいるのはこれまた敵対設定の名残で、池田たちに味方するアウロラへその面影を重ねたことで隙を見せる展開をぼんやり考えていたためです。

ルイ・アソシエのスタッフたち
 ベンジャミンの上司、マルチェロ・カルーソーと雇われ運転手、マーカス・クルーガーの名前は『HITMAN』シリーズの登場人物から採っています。海外の名前にあんまり詳しくないので、サンプルがまとまってどっさりいるあのゲームには助けられました。
 ヴィンセントは最初から野心を宿していたものの、「完全なる不死」の研究が遅々として進まない中、ジゼルからノーマン製データを手に入れるチャンスを与えられたことをきっかけに、じゃあもうこいつら不要じゃんと、とうとう鏖殺独り勝ちルートを始動させたという解釈です。
 ルイ・アソシエのスタッフは、ジゼルを拉致してきたような島の裏について知っている人間と、池田たちを送迎した運転手のような知らない人間がいたのでしょう。しかし、ヴィンセントからすれば、役に立たない研究者たちも雇われ労働者も、そしてレイモンド卿やアビゲイルも邪魔な存在という点では変わらなかったのではないでしょうか。
 不死と対峙した際、その弱点としてねね子はエネルギー切れを(あの状況下では非現実的ながら)挙げていました。なので、肉片と化した人々は不死たちの餌であったと考えています。また、人々を手駒に加えていけるのはなかなか素敵な研究の応用だったでしょうから、一部はゾンビとして使ったことにしました。適当な誰か→マーカスたち→ジェイコブと試作品にしていった設定です。スタッフたちの末路はこのどちらかだったのでしょう。

イシュメールとエイハブ
 表と裏の同一の存在という点で、『MGSV: TPP』を思い出しました。名前はそこからですが、その元ネタはちょうど鯨が登場する『白鯨』なんですよね。
 最初はただのスパコンでも置いておこうかと思いましたが、スパコンの仕組みを知らないことに気づきました。なんかすごいえんざんそうちくらいの認識で書いていては、リアリティがなくなってしまいます。そもそも、スパコンってデータバンクとして使えるんですか?
 そこで、ヴィンセントとの対決の場にもいた脳味噌のことを思い出しました。あれは本編ではあまり触れられていませんでしたが、実験体にせよ装置にせよ、あの島の秘密の深いところから生まれてきたのだと思いました。そこからできたのが、あれがヒトを元にした生体コンピューターという説です。奇しくも、執筆中にそんな記事が流れてきたこともありましたね。
 ただ、本編と同一の個体を登場させては、ノーマンの仕込んだ自爆機構が不完全だったことになります。さすがにそんなミスはしないでしょうから、エイハブとは別にノーマンの知らないトップシークレットであるバックアップがいたことにしました。シェルター本体は島に代々継承されていて、レイモンド卿の代でイシュメールの製造や搬入、シェルターの改造が施された設定です。

アウロラ・ラヴィーリャ
 本編において、オリジナルのアウロラは未完成の試薬を投与され、N-131となってしまいます。その直前にコピーされた彼女の意識は施設の中に残り、池田を助けることとなりました。
 今回登場したのは、そのさらにコピーされた意識です。「コピーのコピー」ですね。施設のすべてのデータがバックアップされていたため、アウロラの意識やノーマンの仕込んだセーフガードもそのままでした。
 本編での追憶中、池田は何度か既視感を覚えています。ですから、シミュレーション開始時に巻き戻った際、それまでのログは毎回切り分けられて保存されているものの、その残り香のようなものが微かに影響を及ぼしているという設定にしました。「記憶を完全に管理することなんて出来ないんじゃない?」という考えが影響している気もしますが、思いっきりねね子がいるんですよね、この作品。機械でパソコンのファイルみたいに外部から弄るのは難しいってことでここはひとつ。
 池田の追憶でアウロラは自由意志を持っていましたが、イシュメールの中でアウロラはどうなっているのさというのがちょっと悩みました。覚醒後のアウロラがいたのは、ノーマンがアウロラの意識を安置していた領域です。普段はそこで冷凍睡眠のようになっていて、記憶の再演が始まった際にはそれを感知して意識だけを飛ばして割り込ませるシステムになっています。
 ノーマンの仕込んだ保護プログラムは、アウロラ自体も然りですがその存在を島の人々に知られてはなりませんでした。そのため、データの書き換えや削除といった怪しまれる可能性のある動作は極力控えられ、エイハブの中にあるデータのような島の暗部とアウロラの接触を避けることに重きが置かれています。
 再演世界のログも、ノーマンが作った領域の中にアウロラとは別のところで保管されています。エイハブという世界の中に秘密の部屋があり、さらにその中にアウロラの部屋が作られているイメージです。ですから、アウロラは自分の部屋を出ることで部屋の外にあるログやさらにその外の情報に触れたのです。
 そうしてアウロラは再演世界での記憶を取り戻し、さらに自分がどんな存在かを理解しました。そして、池田たちを救うため、ノーマンの自爆プログラムを作動させたのです。

おまけ: 夏コミ(C104)のこと
 非常に邪道ながら、前述のように「皐月川納涼床」は「大学生活最後にコミケで売り子してみたいなー」から生まれたものです。結果、卒論(20000字)と原稿(47000字)を同時期に抱えることになったのですが……。色々なことに助けられつつ、どうにかはじめてのコミケは終えられました。
 ということで、次回の夏コミに関してはなにもわかりません。原稿書く時間があるのかどうか、コミケの時期に休めるのか、そのあたりがまったく見通せないのです。
 とはいえ、『シロナガス島への帰還』に絞っても書いてみたいものがあと2つはあります(もちろん、それらが今回と同レベルまで膨らむかはわかりません)し、『NEEDY GIRL OVERDOSE』とか『NOeSIS』のような大好きな他の作品の二次創作もやってみたいとは思っています。
 ので、ひとまず夏コミへの申し込みはする予定です。最低でも『爆心地の余焔』の正式版(きちんと印刷所に依頼したもの)は出せるでしょう。諸々がうまくいけば、何かしらの新作が出るかもしれません。どうぞよろしくお願い致します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?