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ライターズ・ロー

 ちょっと身内から褒められただけで図に乗って、おまえは何をしているんだ。だいたい卒論はどうした。先にそっちを書け。
 書けないだろう?少なくともいつもの日記みたいには。何も不思議なことはない、おまえの書いてきた経験は現実世界で役立つものではないのだから。おまえが内心苦手意識を持っている意識高い系の考察記事を書ける方が、よっぽど世をうまく渡っていけるんだよ。世間からすれば、おまえはそいつらよりずっとずっと無価値なんだ。

 書いている間は確かに楽しいのかもな。でも、それはとても燃費の悪い趣味だ。おまえみたいな凡夫が手を出していいものじゃない。
 素人が書いた文章なんて、インターネットの海には星の数程あるんだ。それを生み出して何になる?時間と労力ばかり喰う割に、出来上がるのは量産品みたいなものだというのに?
 量産品ならまだいい。おまえのは、ややこしい言い回しや無駄に仰々しい表現を多用したわかりにくい文章じゃないか。エントリーシートに苦戦したのを忘れたか?多くの人間はそんなものに価値を見出さないし、残りもほとんどはおまえよりずっと上等なのを自分で書けるんだ。
 フィクションはもっと始末が悪い。おまえの描写はどれも薄っぺらで、リアリティの欠片もない。キャラが生きて動くなんて夢のまた夢、出来の悪い三文芝居みたいな歯切れの悪さやぎこちなさしか感じさせないんだよ。

 書いてもどうせすぐに行き詰まる。計画性もなしに閃きだけで突っ走って、いっぱしの作家気取りか?結局、おまえはほんのいくつかの場面の思いつきを書いてみたいだけなんだ。だからそれらを無理矢理継ぎ接ぎしたような出来上がりになるし、最後はいつだって尻すぼみだ。
 書ければまだマシだ。そうやって続きを考えることにして中断したテキストがいくつある?未練がましく残していないで、とっとと下書きを消してしまえ。

 おまえがそんな駄文にうつつを抜かしている間に、他の人々は現実と向き合っている。おまえ以外の人々で楽しく過ごしているんだ。そこにいたいんだろう?ヒトの温もりが欲しいんじゃないのか?
 彼らに面倒な人間、関わる必要のない人間だと思われたら最後、おまえなぞ簡単に捨てられ、除け者にされるんだ。彼らへの感謝と謙虚さ、そして自身の劣等を覆い隠す不断の努力があってやっと、おまえはそこにいることを許されることを自覚しろ。文章で遊んでいる場合か?

 おまえが文章を書く理由は二つあったな。どちらも本当にくだらない。
 自分の中に浮かんできたものを残したいから?そんな価値がどこにある?先にそのカスみたいな記憶力をどうにかした方がいいんじゃないか。貧弱な人生経験しかないおまえから出てくるものなんて、たかが知れているんだ。そのまま消えるに任せる方が、よっぽど世の為だ。

 読者に読んで貰うため?
 どうしておまえがこう文章を書くようになったか、特にフィクションに手を出した理由を忘れた訳じゃないだろう。本当に読んで欲しい読者は不特定多数のことじゃない。最初は、いや今もたったひとりのためだよな。このアカウントのフォロワー欄を見るがいい。そのひとりさえ、もういないことを受け入れろ。 
 そいつはとっくにいないんだよ。深く深く嫌悪され憎悪されていると知れ。だからおまえの言葉を捨てたんだ。読む価値もない、人生に金輪際不要なものとして認定したんだ。最初に価値を見出した者に、もっとも評価していたはずの者に、唯一無二の理解者にさえ捨てられたんだぞ。他の誰に褒められても今更どうだっていうんだ?

 もうたくさんだ。いい加減にしろ。
 タイプをやめろ。目を覚ますんだ。

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