みんなククノッチ<お兄ちゃんがスゴイ>
ロックやジャズ系のサークルの中で「カーペンターズが好き」って言うと、えー? マジー? みたいなリアクションを得るのが相場だが、ワシの目の黒いウチに何としても言っておきたい。「お兄ちゃんがスゴイ」と。
お兄ちゃん、つまりボーカルのカレン・カーペンターじゃなくって、いつも彼女のバックで不敵(?)な笑顔でエレピ弾いてる兄のリチャード・カーペンター。あの人が音楽の中でやりとげたことを心底リスペクトしてるんだけど、誰に言ってもへえーくらいの扱いなのよ。えー、だってあの人歌ってないよね、ほとんど。みたいな返事。そうなんだよ。兄妹デュオThe Carpentersで売り出したのが定着したけど、本来はKaren Carpenter produced by Richard Carpenterだよ。お兄ちゃんは作曲・アレンジ・ピアノ演奏・バンド編成・レコーディング・ステージングすべてにおいて完璧をめざした総合プロデューサーだったのよ。
リスナーは全員イノセントな透明感溢れるカレンのあの絶対的説得力のあるボーカルにやられちゃうんだけど、実はカーペンターズの魅力の半分は楽曲と演奏なんだよね。むしろカレンはカーペンターズプロジェクトの中の一つの役割を演じていたとも言えるくらい。お兄ちゃん主導で斬新さと完成度を追求した稀有な作品群を残したのがザ・カーペンターズよ。まあ確かにカーペンターズの音楽って独特の雰囲気あるよねー、くらいの認識しかないアナタ。いやいやいやいや、アレすごいんですってば。どのくらいすごいのか、その一部分をレコーディングにおける楽器使いとアレンジの観点に絞って代表曲”I Need to Be in Love” で解説します。していいよね。しちゃうよ。YouTubeで聴きながら読んでいただけるとよいです。
イントロは生ピアノそしてハープが入ってきます。ハープのアルペジオがピアノとシンクロしているのがオシャレ。この曲ではハープが活躍するんだけど、やはりこの楽器の弦をはじく音ってのが上品なきらめきを与えていていいんだな。イントロの旋律、前半2小節はフルート、後半はオーボエにバトンタッチ。その間にベースとストリングスが入ってくる。なんでもないようだけど、ベースって楽器はだいたい大きな小節のかたまりのアタマからいれたくなるものなんだけどこれは途中から入っていてシブイ。ストリングスはさざ波のようなちょっと変わったビブラートがかかっているように聞こえる。ピッチビブラートではなく音量ビブラートだよね。てことは後から卓でボリュームを上げ下げすることで細工している可能性がある。
で、ふたたびピアノの伴奏だけになって歌が始まるんだけど、3小節目から低音でルートの音が聞こえる。ピアノの低音部のようにも聞こえるが、たぶんベースギター。歌の邪魔にならないよう絶妙な音量で鳴っている。こんなに小さな音量を実演奏でコントロールするのは至難のため、これももともとはもっと大きい音だったのを卓でコンプレッサーとボリュームコントロールで作っていると思う。
The nothing come for free…って歌ったところで、やや右チャンネルからかすかなキンコンって一瞬高い音がするのはグロッケンシュピールもしくは鉄琴? ミュートかけとるぞ! なんかガラスのコップじゃないかって気もする。しかも全編を通じてここでしか使こうとらんのじゃけ! そんでサビ突入とともにエレキギター参入。でquite imperfect world…で聞こえてくるピアノ… っていつの間にか生ピからエレピになってるじゃん! 変わり身の術か! よく聴くと、"I know I need to be in love, I know I wasted too much time"までは生ピの音がして、そのあと"I know I asked perfection of a quite imperfect..."は沈黙、次の"world"の直後にエレピの音がする! オーバーダブだろうが、沈黙部分が気になる。スタジオ内で生ピからエレピ移動してたりして… そして2番前の2小節に伝家の宝刀、天使のハーモニー一瞬だけチラ抜きしたぞお!
うなるのが、2番で入ってくる高音の単音ストリングの入りのタイミング! 1拍のアタマからこれ見よがしに入らずやや遅れてピアニッシモで少しずつ、気が付いたときには入ってきてるみたいな演出が涙チョチョ切れるう。Hanging on a hope but I am alrightに入るところでふたたびオーボエ登場の背後で、ん!? 一瞬ホルンみたいな音が聴こえるが気のせいかな?
2回目のサビ突入で、待ってましたついにハープが本領発揮のグリッサンド & 天使コーラススタートォ! ここまで抑えてきたものが一挙に解放されるカタルシスよ! 繰り返しサビではコーラスに加えストリングスの今までより複雑なカウンターメロディーが炸裂。コーラスは全編を通して、「アー」と「ウー」しか言っていないのに、後半2回のサビで唯一”too much time”って歌詞を歌うんだよなあ。ちなみにコーラスはたぶん数人しかいないんだけどオーバーダビングして10人分くらいにしてる。名曲”Close to you”のコーラス完成させるのに40テイク以上したっていう話ある。
はいー、大サビ終わったー。涙腺全開―。エンディングいくおお。ええっ? ナニこの「じゃらん、じゃらん チロリン」っての? チェンバロか!? お兄ちゃん何台鍵盤使ってんだよ。そしてやっぱホルン入ってた! そんで再び生ピで締めくくるし。
打ちのめされました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?