序章 終わりの始まり

 2016年5月。GCSC社としての会社合併のイベントが一通り落ち着き、この年も例年通り陽気で汗ばむ季節となった。そんな中、かぞく銀行の幹部である犬澤執行役員が、営業部長の守口を訪ねてきた。
 犬澤「この度、銀行勘定系システムの刷新を目的とした検討タスクを立ち上げようと思っています。ついては幣行立ち上げ時にご尽力頂いた御社にも、是非体制のご提案を頂きたくお願いに伺いました。」
 守口「勘定系の刷新ですか。どのような理由でそこまでのご判断をされたのですか?」
 銀行の勘定系システムといえば、銀行の中で中枢をなすシステムである。それを作り変えるとは、よほどの理由があるのだろう。
 犬澤「2023年に現行勘定系パッケージの基盤がEOS(エンド・オブ・サポート)を迎えるのですが、どうせなら次のかぞく銀行に相応しい国内パッケージ製品に入れ替えたいと思っていまして。現行の勘定系システムは設立以来日々障害ばかりなんです。携帯用の画面のエラーメッセージを修正したらPCの画面まで変わってしまったとか、信じられます??そんなことばかりで攻めの経営に転じる事ができていないんです。世間的にはフィンテック最前線の銀行とか言われている中で、経営もさすがにこれはまずいぞとなっている状況でして。世の中の家族のためになる銀行を目指しているのに、このままでは逆に家族の足を引っ張る銀行になってしまうのではないかと。今はまだ冗談で言えますが・・。」
 守口「ははは、それは大きな問題ですね。わざわざご相談いただきありがとうございます。弊社も合併を経て企業体力も向上しましたので、以前のようなご心配もありません。是非検討させて頂きます。」
 犬澤「はい。メガバンク時代は逆にご迷惑をおかけしました。今回については以前にも増して期待させて頂きます。」
 このストーリーは、GCSC社のかぞく銀行次期勘定系システム更改プロジェクトチームである、チーム「レインフォース」の活動の軌跡である。プロジェクトは立ち上げ初期から体制構築に悩み、見積もりミスも重なり大きなトラブルへと進行していった。その中で、チームメンバー一人一人のスキル、行動、たくさんの葛藤がぶつかり合いながらも、成功することだけを目標としてきたトラブルプロジェクト。
 約6年という長い歳月をかけ、企画、開発を担ってきたシステムが、世の中からどのような評価を受けるのか。ただ一ついえることは、長期に渡るシステムエンジニアたちの活動を繋いだ結果が全てということである。
 この大規模なプロジェクトの物語を通して、SIerのビジネスとは何か、ということを考えてみた。手にとって頂いた方の何かの気付きになれば幸いである。


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