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3人で挑む「グレの歌」!

2021/8/19(金)、東京代々木のムジカーザでシェーンベルクの大作「グレの歌」のソプラノとテノール、ピアノのための編曲版の全曲演奏会が行われます!この興味深いコンサートを企画し、演奏する 東山桃子(ソプラノ)さん、 中村 仁(テノール)さん、 植野萌雅(ピアノ)さんにお話を伺いました。


東山さんと中村さんはともに東京藝術大学大学院音楽研究科に在籍中とのことですが、どのような分野を研究していらっしゃるか教えてください。

東山 昨年はG.Mahler《子どもの不思議な角笛》について、今年はR.シュトラウス中期の歌曲を中心に、交響曲・歌曲・オペラの関係について研究しています。

中村 私は日本で研究の進んでいないエルンスト・クシェネク(今回演奏するシェーンベルクと同時代の作曲家)について研究をしています。また音楽とは少し離れますが、ドイツ演劇におけるドラマトゥルクの役割についての研究もしています。

お二人ともドイツ音楽の造詣が深く、シェーンベルクとの距離の近さを伺える知るような気がします。日本ではR.シュトラウスのリート、そして特にクシェネクについてはまだ未開拓なものが多いのでお二人の研究成果、楽しみです。植野さんとの出会い・共演のきっかけについて教えてください。

中村 私が大学1年生の時、同級生が出演するコンサートに伺ったのですが(この時の会場も今回演奏するムジカーザでした)、その時伴奏をしていたのが植野さんでした。演奏を聴いて、「この人と一緒に演奏をしてみたい」と思い、終演後初対面にも関わらず私が猛アタックしたのがきっかけでした(笑)。今となってはかなり思い切った行動をしたなと思います(汗)。
それからは一緒にシューマンの『詩人の恋』やベルクの『初期の7つの歌』などを演奏しましたが、どれも面白い演奏になりました。
今や植野さんは、私にとって信頼のおけるピアニストの一人と言っても過言ではありません。

中村

グレの歌は大編成のオーケストラ、合唱団、語り手と5人の歌手を必要とする大曲ですが、どのような経緯でピアノ編曲版を取り上げることになったのでしょうか。

中村
 昨年の夏、植野さんと次の公演についての話し合いをした際、植野さんの発案で『グレの歌』をやることになりました。最初、植野さんは第2部だけを演奏したいと言っていましたが、せっかくなら全曲演奏したいという無謀な挑戦を私から提案しました。後日楽譜を見た時、その複雑さに二人して目をまわした記憶があります(笑)。
当初はヴァルデマール王のみを歌い、それ以外の部分を映像やナレーションなどで繋ごうと思っていたのですが、さすがにトーヴェ無しでは物語が成立しないと思い、急遽東山さんを迎えることになりました。

そうだったんですね!「グレの歌」が好きな人にとっては全曲演奏は嬉しい方向転換です。(笑) 皆さんにとってこの編曲版に魅力を感じているところを教えてください。

東山 トーヴェが登場する“O, wenn des Mondes Strahlen leise gleiten”(おお、月光が静かに滑るように輝き)は、水面が揺れ動くような柔らかく美しい前奏に始まります。私の大好きなシーンです。ベルク編曲のピアノ版ではオーケストラ版とは一味違った表情を感じることが出来ると思います。

東山

中村 やはり一人の歌手が複数の役を担うという点です。通常の公演では一人一役が基本なので、純粋に物語として楽しむことができます。しかし一人の歌手が複数の役を担うとなると、テクストの意味やキャラクター性などが異なってきます。今回の公演では、その変化にも注目して聴いていただけると嬉しいです。

植野 言わずもがなシェーンベルクの初期の代表作である『グレの歌』、歌手も伴奏者にも非常に高い技術・精神力を求められる珠玉の作品です。出演者一同、全力を賭して限界に挑みます。
ワーグナー、印象主義音楽などの流れを汲んだポストロマンティスムの頂点に燦然と輝くこの作品を、お客様とともに堪能できれば幸いです。

植野


それにしても演奏に本来総勢100人を軽く超えるオーケストラと合唱で演奏されるこの曲が、3人で表現されることにとても興味が尽きません。今回使用する編曲版について簡単に教えてください。

中村 今回の演奏会ではベルクによるピアノ編曲版を使用し、東山さんと私が全ての役を歌う形となります。また、今回は私が出演兼ドラマトゥルクとして、音楽と物語を読み替え、コンサート用に再構成したものを皆様にお届けいたします。どのように作品を読み替えたのか、なぜ2人の歌手が全ての役を歌うのかなど、当日のプログラムノートに詳しく解説を書いているので、そちらも楽しみにしていてください。

それは楽しみです。ぜひ演奏会に行かなければいけません。(笑) 演奏には2時間近くかかる大曲ですが、準備にはどれくらいの時間を要しましたか。

中村 私たちが想定していた稽古回数を大幅に超えてしまいました(汗)。
あとは今回の公演がピアノ編曲版であるため、オーケストラ・スコアとの比較がかなり大変でした。


この曲の演奏準備にあたって苦労されたところ(技術面や表現・解釈など)があれば教えてください。

東山 『グレの歌』はオペラのようなストーリー性のある作品ですので、シェーンベルクの作品でも無調時代に比べると聴きやすく、お客さま自身の感情を重ね合わせながら楽しめる作品だと思います。
長丁場になりますので、ずっと音楽に集中して聴くのは疲れてしまうかもしれません。ストーリーはもちろんですが、是非ご自身がイメージされる情景や色を音楽と重ねて楽しんでいただけたらと思います。

中村 今回は歌い手としてだけでなく、ドラマトゥルクとしても参加しているため、『グレの歌』の原作『サボテンの花開く』(イェンス・ペーター・ヤコブセンによる未完の小説)を読み進めながら、音楽テクストの分析を行いました。
ソプラノとテノールによる声の行方や、ピアノの響きが物語にどのような影響を与えるのか、今の時代に上演する意義は何かなど、演奏面以外のことを考えることに苦労しました。

植野 原曲は非常に大きな編成のオーケストラ伴奏と合唱付きの楽曲ですがそれをピアノ一台で表現するという、伴奏者としても大きな試みであり挑戦のコンサートです。そしてなんとシェーンベルクの弟子であるとともに新ウィーン楽派の1人であるアルバン・ベルクがピアノ伴奏版の編曲をしており、今回はそのベルク版を演奏させていただきます。このような素晴らしい機会に恵まれたことに感謝し、全力で挑む所存です。


皆様の今後の予定・目標などございましたら教えてください。

東山 今後は国内のコンクールや来春予定されているウィーン研修に向けて、準備を進めていく予定です。
大学院には修士課程3年まで在籍し、R.Straussの研究を進めてまいります。歌曲を中心に学んでいますが、今後はイタリアオペラや宗教曲にも幅広く取り組み、己の声と音楽と向き合い、歌い手として成長していければなと思います。

中村 来年3月に修士課程を修了する予定です。その後は博士課程に進学したいと考えています。

植野 私は今秋よりパリ国立高等音楽院の修士課程、コレペティトール科と歌曲伴奏科の入学を予定しております。私が最も熱い情熱を傾けている歌伴奏の世界にさらに深く入り込めると思うと楽しみでなりません。
私が主催しております「知られざる歌曲の世界」という、あまり取り上げられない隠れた名作歌曲をとり上げることをテーマとしているコンサートシリーズの第4回も来夏開催予定です。
歌伴奏のみならず楽器やジャンルを越えてマルチに活動する伴奏家を目指して、更に研鑽を積んでいきたいと思っています。

来場される方へのメッセージをお願いします。

中村 シェーンベルクと聞くと、一見難しい音楽なのではと思われがちですが、この『グレの歌』は非常にドラマチックで、初めてクラシック音楽を楽しむ方にもオススメの作品となっています。日本ではなかなか演奏されない作品でもありますので、是非楽しんでいただけると幸いです!


[表]グレの歌

[裏]グレの歌

▼2021年8月19日(金)19時開演
 ムジカーザ(東京・代々木)
 一般:3,000円 学生:2,000円

▼お問い合わせ
poporln0828@gmail.com(中村)

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