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注目のハーピスト、佐藤杏樹の主催コンサート。

2024年6月2日(日)、早稲田にあるトーキョーコンサーツ・ラボにてハープ奏者の佐藤杏樹さんが企画するコンサートが開催されます。今回のコンサートの聴きどころ、ハープの奥深さについて佐藤杏樹さん(以下「杏樹」さんと表記させていただきます)にお話を伺いました!

コンパス 
改めて伺いますが、ハープはピアノやその他の楽器に比べて、なかなか身近な出会いが無いように思いますが、きっかけはどのようなものでしたか?

杏樹 地元の企業が倉庫の広いスペースを使って、毎年、近隣住民を招いた無料コンサートを開催しており、この演奏会にゲストでハーピストが来たことがきっかけです。この演奏会は、必ず最後にアンケートを回収していて、6歳くらいの時に「次はハープに来てほしい」と書いたら、本当に来てくれたんです。終わった後に、楽器を触らせてくださったことが、とても印象的でした。

コンパス それはすごい!でもその時にはハープに惹かれるものをすでに感じていたわけですね。

杏樹 
私は大きなものが好きな子どもでした。たとえばクジラとか、恐竜とか。(笑) ハープは185cmくらいの高さがある大きな楽器ですから、6歳には大迫力です。ハーピストになった方からは、親が音楽家とか、美しい音色に惹かれたとか、楽器のフォルムが魅力的だったとか、もっと素敵なエピソードをお聞きすることが多いですが、私の場合は至極単純で「大きかったから」です。

弦に触れると、すぐにきれいな音が出ることには、もちろん感激しました。まさかこれほど奥が深くて、大変な楽器だとはその時には気づきもせず、「わぁ、すぐに音が出るぞ」って、安易に思ったのかもしれません。(笑)

コンパス そして、ハープを弾けるようになりたいと行動に動くわけですね。
 

杏樹 私は、音楽家には何の縁もない育ちですので、ハープもすぐには買えませんでしたが、まずは楽器をお借りして始めました。ハープの演奏の難しさは、すぐに魅力となりました。ハープ演奏は手も足も使う全身運動で、おまけに手で演奏する楽譜と足での動きを別々にさばくので、頭の体操にもなるのです。弾いているほうが心身の調子がよいことに気づきました。

さらに、演奏だけでなく、ハープについての知識を得ると面白いと気づきました。ハープは紀元前レベルで歴史の長い楽器ですが、ここ数百年とっても、ハープという名の様々なタイプの楽器があります。それぞれの楽器が開発された経緯や、その楽器に合わせた作曲の経緯のうえに、今の楽器やレパートリーが存在しています。

ハープはよく知られていない楽器だけど、知らないままでは「ぽろぽろつま弾く優雅な竪琴」ですが、前提知識が増えると、楽器の仕組みがメカニックだったり、演奏者が陰で血のにじむような苦労をしていたり、「優雅」だけでは済まない泥臭いストーリーがみえてきます。これを知ると俄然面白くなる!ということに気づいたのです。

コンパス 確かにハープには優雅なイメージしかありませんでした。(笑)

杏樹 これらを演奏とともに伝えていくにはどうしたらよいか?ということで、音楽博士号を取得するとともに、演奏会企画を始めました。

コンパス それが「ピックアップ・ハーピスト・シリーズ」に発展していったと。

杏樹 伝統的なクラシックのコンサートでは、たいてい静かな会場でMCはあまりなく、演奏のみが連なりますよね。曲の合間は会場が暗いので、開演前や休憩時間にプログラム解説を読んだりするでしょうか。コンサートの解説では、作曲家のことや、曲の構成などが細かく書いてあったりしますね。

ピアノやヴァイオリンなどのよく知られている楽器やオーケストラ作品ではよいと思うのですが、同じことをハープのコンサートですると、多くの方が楽器の仕組みや演奏方法へのイメージができないまま、頭の中の「?」マークをそのままに演奏を聴くことになってしまいます。ハープ作品だと、ほとんどの曲がお客様にとって人生で初めて聴く曲ばかりとなるわけです。楽器や演奏側への前提知識があると、だいぶ楽曲を楽しむ敷居が低くなりますよね。

解説なんて要らない!音色を楽しむ!というのも、もちろんありですけど。ハープの場合、スパイスとして知識がプラスされると、断然面白くなると私自身が感じているからです。

コンパス 確かにあらかじめ知識を持っているのとそうでないとでは、楽しみ方が変わってきます。以前伺った第1回でも感じましたが、佐藤さんのMCは曲を"楽しむ"ための間奏曲のようで、違和感なく興味深く聞き入っていました。

杏樹 ハープの演奏の難しさは、楽器の仕組みから来ていることが多く、作曲家からもらった楽譜の時点では演奏できない状態なこともしばしばあります。作曲や初演にハーピストが携わることで、作品の魅力が開花していくという過程を知ってもらうことで、また違う音楽の楽しみ方ができると思ったのです。そこで、毎回ひとりのハーピストに注目するシリーズがあってもよいかなと。

コンパス 昨年10月、シリーズ第1回が開催されました。

杏樹 第1回目は、「20世紀初頭パリのハープ音楽」と題して、多くの名曲を初演したミシュリーヌ・カーンという、パリ音楽院出身の女性ハーピストに焦点を絞りました。演奏とともに、パリ音楽院での作曲事情など、くすっと笑えるエピソードなどもご紹介しました。

当初は、ミシュリーヌ・カーンが初演した作品だけを集める企画だったのですが、実は私事ながら、リサイタル1か月前にコロナ感染してしまい、カプレ作曲の五重奏曲のためのリハーサル日程調整がとれなくなってしまったのです。急遽、ヴァイオリンとハープのための二重奏やハープの独奏曲を演奏しました。すると、期せずして、エラール社のダブルアクション・ペダルハープのために書かれた作品を集めたコンサートになったのです。

コンパス 第2回のテーマは何でしょうか?

杏樹 第1回の続編として、前回演奏できなかったカプレの五重奏を軸に、プレイエル社のクロマティック・ハープに注目したコンサートをやってみよう、という流れになりました。

とはいっても、クロマティック・ハープとは19世紀末に開発されてから、20世紀前半頃までしか演奏されなかった、いわば「幻の楽器」です。そこで今回は、当時のクロマティック・ハープを所蔵している武蔵野音楽大学楽器ミュージアムにご協力を得て、写真とともに楽器の仕組みを解説しつつ、クロマティック・ハープのために書かれた作品を現代の楽器で演奏してみる!という企画となりました。

コンパス ハープの音色に加え、珍しいアンサンブルも聴け、そしてリラックスしながらもアカデミックな雰囲気にも浸れる最高の企画だと思います。

杏樹 今後は、また別の国のハーピストで、名曲が生まれるまでの過程に大きく貢献した人をご紹介できたらいいなと思っています。詳しいことは、まだお楽しみです。(笑)

コンパス 6月2日のプログラムを拝見したときの印象をひとことで表現すると ”贅沢” でした。もちろん良い意味です。聴き手にとっての贅沢な時間。ここまで多彩なプログラムを実演で聴ける機会はないと思います。

杏樹 メインとなるのは、ドビュッシー、カプレ、ダマーズによる3つのハープ協奏曲的なアンサンブル作品です。ドビュッシーでは、ハープと弦楽のコラボレーションによる優雅な音色を存分に楽しんでいただけると思います。

カプレでは、打って変わって、怪奇小説をハープで表現するという荒業を披露します。弦楽器とともに謎の疫病「赤死病」の恐ろしさを描写する場面では、ハープ作品らしからぬ凄みを感じられて、驚くと思います。舞踏会の活き活きとしたシーンも多いので、安心して聴いてください。(笑)

ダマーズは、ミシュリーヌ・カーンの息子さんです。ハープをよくわかっていて、大事なレパートリーを多く残してくれた作曲家です。この作品だけ時代が違うので、変拍子やフレーズの繰り返しによるグルーヴ感、ジャズのようなお洒落なハーモニーなど、クラシックコンサートのイメージを覆す高揚感が味わえます!

「クロマティック」には半音階という意味の他に、豊かな色彩の意味がありますよね。コンサートの最後には、ハープと弦楽アンサンブルという編成が織りなす多彩な表現のファンになって、帰ってくださったら、こんなに嬉しいことはありません。

コンパス とても楽しみです!

杏樹 終演後、少し長めの拍手をいただけますと、独奏ヴァイオリン、ハープ、弦楽アンサンブルによる、とある作曲家の大変美しい作品を演奏できる予定です。アンコールとはいえ、とっておきの選曲で、ぜひ知ってもらいたい作品です。皆様にはぜひぜひ最後までに座っていていただきたいです!(笑)

コンパス プログラムを拝見すると、造詣の深さときらりと光るセンスの良さが感じられます。杏樹さんの普段からの情報収集量もすごそうですね!

杏樹 博士論文を書いた時にも活用しましたが、現代では、各国の図書館や劇場の資料がデジタルアーカイヴで使えるようになりつつあります。ハープの楽譜は売っていないものもありますが、実際に海外に行かなくても探したりすることができるので、新たな作品に出会うこともできます。

コンパス 最後にお客様にメッセージをお願いします!

杏樹 実際に会場に足を運んでいただいて、生での音楽体験のよさを実感してもらえれば嬉しいです。今回の会場となるトーキョーコンサーツ・ラボは、客席より高い舞台面が設置されていないので、同じ地続きでハープの振動を体験することができ、めったにない機会だと思います。

また、ハープは移動するだけで大変な楽器ですから、これだけの人数のアンサンブルとリハーサルを行って共演することは至難の連続です。今回演奏するような規模の大きなアンサンブル作品を一度に生で聴ける機会は、このコンサートくらいだと思います。

弦楽アンサンブルとハープで共演してみたかった作品が詰まったこのプログラムを演奏しつつ、合間に楽器を移動して、解説トークもして、最後には息が切れているかもしれませんが。(笑)

演奏会タイトルの副題である「限界への挑戦」は、もともとハープ開発と初演での模索を意味していたのですが、演奏会開催者としても「限界への挑戦」をしますので(笑)、ぜひ、お試しのつもりでも、応援のつもりでも、お気軽に顔を出してみてください!

▼イベント概要
2024/6/2(日) 14:30開演
トーキョーコンサーツ・ラボ  東京都新宿区西早稲田 2-3-18

▼チケット
https://t.livepocket.jp/e/hxxvh

▼出演
佐藤杏樹(ハープ)
平澤仁 , 石坂淑恵 (ヴァイオリン) 中田裕一(ヴィオラ) 松浦健太郎(チェロ)
岩橋裕子, 橋本美音子, 辻友香, 李玲花(ヴァイオリン) 中村杏葉(コントラバス)

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