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ピアニスト吉村直美が12/12のコンサート曲目を解説します。

1) バッハ フランス組曲第5番 BWV816 ト長調(1722〜1723)
アルマンド / クーラント / サラバンド / ガヴォット
ブーレ / ルール / ジーグ

『音楽の父』と称されるドイツ出身のバッハ。なかでも、愛らしい名曲でプログラムの初めにお楽しみいただきます。バッハが先妻であるマリア・バルバラを亡くし、アンナ・マグダレーナと再婚し幸せに満ちていたと思われる時期に書かれた曲です。フランスのお洒落な装飾を思わせるような7種類の舞曲による構成されています。

2) ベートーヴェン ソナタ第8番 ハ短調 Op.13 『大ソナタ悲愴』(1798年〜1799年)
第1楽章 重々しく 〜 非常に速く、そして、快活に
第2楽章 ゆっくりと、歌うように
第3楽章 ロンド、快活に

”人間はまじめに生きている限り、必ず不幸や苦しみが降りかかってくるものである。しかし、それを自分の運命として受け止め、辛抱強く我慢し、さらに積極的に力強くその運命と戦えば、いつかは必ず勝利するものである。“(ベートーヴェン)

ベートーヴェンの3大ピアノソナタの1つ「悲愴」。この標題は、作曲者本人により名付けられてはいないものの、ベートーヴェン自身の認可のもと公になっていると考えられています。とりわけ、『悲愴』は、ベートーヴェンにとっての「ロメオとジュリエット」の時期といわれる当時の心境を「青春の哀傷感」として音に描写したとされる3楽章から成る作品です。特に緩和楽章の第2楽章は、高貴な夢想と孤独が入り混じり、聴くものに慰めを与え、以下のベートーヴェン自身による格言を思わせます。

“もしも美しいまつげの下に、涙がふくらみたまるならば、それがあふれ出ないように、強い勇気をもってこらえよ。”

今年、生誕250周年を迎えるベートーヴェン。音楽家でありながら難聴に悩まされ、思わず外出を避けてしまう悲劇の運命を負った作曲家。困難へ高貴に立ち向かう葛藤の作品が、この不安定な時世に人々への心の糧になれたらと思い選曲しました。

3) ブラームス ワルツ Op.39 (1865)
1.ワルツ第15番変イ長調 
2.ワルツ第3番嬰ト短調
3.ワルツ第9番ニ短調
4.ワルツ第4番ホ短調

ブラームスの創作根源を示す格言『Frei aber einsam = 自由だが孤独に』。ブラームスの母国でもあるドイツ語で表現された文章は、それぞれの単語の頭文字を取るとF.A.Eとなり、音符を示すアルファベットにもなります。今回は、その有名なメッセージが楽譜に託されたワルツもお届けします。『F.A.E』をブラームスに伝授したヴァイオリニストのヨアヒムの出身地を思わせるスラヴ風の愁い、最も有名な楽曲であり、「ブラームスの子守唄」、「愛のワルツ」とも称される作品です。

ブラームス自身は、なんとその『F.A.E 』=「Frei aber einsam= 自由たが孤独」を、同じ頭文字でありながら最後のみ別の意味となる単語に差し替え、「Frei aber froh = 自由だが楽しく」と捉え、大変ポジティブに作曲に挑んだとも言われています。

同じくドイツ人作曲家のベートーヴェンを尊敬するブラームス。「Einsam = 孤独」のなかに「Froh = 楽しさ」を見出す美しさは、ベートーヴェンをお手本としながら前向きに歩んだ生き方そのものかもしれません。今回は、ブラームスの根源となる曲をお届けします。

コンサート後半は、フランス、ロシア出身の作曲家による『プレリュード』で始まります。『プレリュード』の意味は、前触れ。元々は、キリスト教会で礼拝の前に、個人で静かに心を備えるひととき(=神へ心を捧げる前触れのとき)に演奏された音楽とされています。しかし、時代の変遷を経て、独立したキャラクターを持つ作品として作曲されるようになりました。後半の舞台は、プログラム1部の冒頭の曲名にも登場したフランスへと戻ります。

4) ドビュッシー 「プレリュード第1巻」より (1909〜1910)
フランスを代表する作曲家の1人ドビュッシーは、印象派の時代に生き、抽象的に織りなす色合いや語りかけを、見事な音として表現しています。

1.『亜麻色の髪の乙女』
フランスの詩人ルコント・ド・リールの同名の詩「亜麻色の髪の乙女(La fille aux cheveux de lin)」をもとに作曲されています。詩に描かれている乙女の魅力や、高揚する思いが美しく表現されています。

ムラサキウマゴヤシの花々の上で
この涼しい朝に 誰が歌っているか?

それは美しい桜色の唇をした
亜麻色の髪の乙女

明るい夏の太陽の中で、
愛の天使がヒバリと一緒に歌っていた

2.『とだえたセレナーデ』
一方で、美しくもどこか不気味な悲しさが漂い、女性の踊りが一つのストーリーのように書かれている作品です。ギターを思わせるスペイン風のメロディが魅力的です。それぞれの対比をお楽しみください。

5) ラフマニノフ プレリュード

1. プレリュード嬰ハ短調 Op.3-2『モスクワの鐘』
ラフマニノフがわずか、16歳のときに作曲しデビュー曲ともなった名曲の一つです。スケート選手の浅田真央選手が、オリンピック出場時の競技に使用したことでも有名です。鬱病で苦しみ、一時は作品を世に出すことすらできなくなったラフマニノフを、回復へと導いた名医に捧げられた協奏曲第2番に登場する和音も含まれていることから、ラフマニノフ自身の思い入れの強い作品であることが、伺えます。標題のように、モスクワの壮大な大地に響き渡る鐘の音がイメージされます。

2. プレリュードト長調 Op.32-5
美しくも病的なまでに繊細さが、現実と夢の狭間をいくような音として作曲されています。苦しみから解放を経験した作曲家による作品は、力付けてくれる作用があるとも言われていることから、『今』のコンサートにふさわしいと思い選曲しました。

6) プロコフィエフ 1. プレリュード『ハープ』Op.32-5
標題の楽器のごとく、純粋無垢な天国を思わせる作品。プログラムで、つぎに続くソナタ第3番への『前触れ』となるように、選曲しました。

7) プロコフィエフ 2.ソナタ第3番「古い手帳から」Op.28
プロコフィエフの若い頃に作曲された作品。若さがみなぎり、全ての感情が気まぐれに描写されながらも、大変ポジティブに平和の願いが込めらた曲です。曲の冒頭に「激しく」とあるように、最後は、爆発するような激しさで閉じます。

私が大切に想う地域が、ロシア音楽の影響を受けており、最近、紛争に巻き込まれてしまったことから、平和を捧げる願いを込め、この曲を最後に選曲しました。(解説:吉村直美)


チケット販売 https://t.livepocket.jp/e/nrrhq

日時:2020/12/12(土) 開演 14:00
会場:トーキョー・コンサーツ・ラボ(東西線「早稲田」徒歩8分)

バッハ:フランス組曲第5番 BWV 816
ベートーヴェン:「悲愴」ピアノソナタ第8番ハ短調 Op.13
ブラームス:4つのワルツ 作品39
ドビュッシー:『亜麻色の髪の乙女』『とだえたセレナード』
ラフマニノフ:『モスクワの鐘』嬰ハ短調 Op.3-2、ト長調 Op.32-5
プロコフィエフ:『ハープ』ハ長調 Op.12-7
プロコフィエフ:ソナタ第3番「古い手帳から」Op.28

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