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【インタビュー】ピアニスト吉村直美

12月12日(土)トーキョー・コンサーツ・ラボでのピアノリサイタルに出演するピアニスト吉村直美さんにインタビューをさせていただきました。

Q 吉村さんはドイツで研鑽を積まれ、ブラームスの演奏家としてもすでに評価が高いですが、あらためてドイツでの生活など、当時のことについて教えてください。

私がドイツで留学した大学がある街は、ロストックもハンブルクも港町で、自然に恵まれていたところです。始めに在学したロストック国立音楽大学は、風情ある旧市街の中にあり、近くの河川までも徒歩1分です。大学の建物は、元修道院の美しい内装を部分的に残した形で建てられており、少し足を伸ばせば、歴史的な教会もあります。授業や練習の合間に、残された歴史を感じられる空間や、近くから響きわたる教会の鐘の音を聞いた体験は、忘れられません。

Q 現地の音大で受ける教育だけでなく、ブラームスが過ごした土地の環境、風景、季節の移ろいが今の吉村さんの音楽性を作っていったわけですね。

はい、その通りです。次に在学したハンブルク国立音楽大学は、ハンブルク中心街に位置し、街の象徴でもあるアルスター湖のすぐ目の前にあります。お天気が良ければ、湖は輝いて見え、曇りや雨の日は哲学的な雰囲気を醸し出す湖。留学当時に勉強した作品と風景は、常にリンクするほど、いまだに印象的に記憶に残っています。また、世界で活躍する音楽家や名オーケストラーによる演奏会が行われるライスハレからも近く、授業や練習直後に、切磋琢磨した友人達とワクワクしながら足を運び、コンサートを身近に聴き、終演後にお互いの感動を熱く語り合った体験は忘れられません。

それぞれの大学でご縁をいただいた教授から日々受けたレッスンは、留学にはもちろんいうまでもなく欠かせず、譜面に書かれた内容を再現するピアニストとしての解釈や表現に必要な技術、そして、貴重な体験を音にする方法を教えていただいたことは、なくてはならない学びでしたが、留学生活で得られたその他の体験も、偉大な作曲家が滞在した現地を自らの五感で感じという重要な学びに繋がったかと思います。貴重な経験をさせていただけたことに心から感謝しています。

Q 吉村さんはハンブルグ・スタインウェイ、ハンブルグ文化庁日独国際文化交流、国境なき医師団主催・国際チャリティー文化祭等の出演などでも活躍していらっしゃいますね。

スタインウェイの工場は世界に2つ存在し、1つはニューヨーク、もう一つは、私が滞在したハンブルクです。ハンブルクには、スタインウェイ・グランドピアノの制作工場もあり、ご縁あって見学する機会にも恵まれました。

Q 自分が演奏する楽器について、造詣を深める機会があったということですね

はい。ピアノへと変化するために厳選された木々が大事に保管される場所に始まり、それぞれのパーツの制作を担当するにあたり選ばれた職人さん達の手で精魂込められながら磨き上げられていき、最後には、静寂に包まれた個室で専属の調律師さんの腕によりスタインウェイの音に仕上げられる工程は、見学するだけでも数時間かかります。初めは、保管場所に大事にされながら眠っていた木々が、一人一人の手によって、最後には、世界中を魅了する音を奏でる楽器へと変えられた姿をみたとき、思わず奇跡を感じ言葉を失いました。
その工場の目の前にある、スタインウェイ・ハンブルク支社に隣接するホロヴィッツ・ホールでの演奏の機会をいただいたことも、貴重で大変有難く忘れ難い経験です。

Q ハンブルク文化庁日独国際文化交流はどのようないきさつだったのでしょうか?

ドイツに滞在し始めて7年目の頃でした。北ドイツの民放テレビ放送などで、邦楽の紹介についてドイツ語通訳をしたお仕事がきっかけで、ピアニストであることがバレてしまい(笑)、突然に出演の機会をいただきました。日本画をバックに、日本の伝統的な曲を演奏するという舞台でしたが、ドイツの方々が感激している姿に心を打たれ、そのことがきっかけとなり、自らの経験を活かせる国際交流貢献への望みが芽生えました。

Q ピアニストであることを最初は伏せていたのですか?それは意外でした。(笑) でもその予期せぬきっかけを得て国際交流貢献の現場に進んでいったのですね。ハンブルグ・ヨハネス・ブラームス音楽院で教鞭をとられていますが、これも予期せぬきっかけのようなものがあったのでしょうか?(笑)

ハンブルクの生家で、急遽、代役で演奏をしたことが、ブラームスとの初めてのご縁でした。それ以来、ブラームスと関わることになり、ハンブルク・ヨハネス・ブラームス音楽院より招かれた演奏会に出演したことがきっかけで、音楽院で教えるご縁をいただきました。
音楽院の周辺は、綺麗な湖畔の近くで、散歩をしていると、散策が大好きだったブラームスの音楽が風景から影響を受けていると感じます。特に、秋晴れのお天気の中では、紅葉しかけている木々の中で歩みを進めることもでき、ブラームス特有の哀愁さに満ちたと風景が音楽と溶け合うような体験も忘れない思い出です。

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Q そんな吉村直美さんですが、今回新しいご自身のコンサートシリーズを企画されました。この新しいリサイタルシリーズについて教えてください。

音楽が生まれた現地を知ることで得られる音楽体験や喜びを、どのような形で味わっていただけれるかと考えていたところ、ちょうどコンサート出演にお声がけいただき、願いを実現に近づけられたらと思いで「音楽と旅」というシリーズ名にいたしました。百聞は一見に如かずとあります通り、現地でしか感じられない空気や空間のならでは音響や音色、視覚に入る風景や建物など、そのすべてが音楽を成しているように思われます。今回、これまでの経験を活かしながら、音楽=旅、旅=音楽という形にフォーカスし、音楽作品の魅力を感じていただけれるきっかけになれればと考え企画しました。

Q あたかも吉村さんと一緒に音楽旅行に行くような感覚になりますね!

そうかもしれません。(笑) 作曲家とゆかりのある国、作品が生み出された地を演奏と共に追っていく形で展開できたらと思っております。第二回目は、2人の作曲家ブラームスとリストの故郷を取り上げる予定です。それ以降、どこへどのように歩むかについては、まだ秘密です。(笑)

Q 今回のプログラムの聴きどころを教えてください。

今回のテーマ「音楽の国」に沿って、三大Bと称される作曲が生まれたドイツ、印象派芸術が生み出されたフランス、そして、世界の芸術大国の一つである深みに溢れた音楽家を輩出したロシアの順で、お届けしてまいります。(プログラム解説は、コンサート直前にホームページからご覧いただけるようします)

Q 前半にドイツの代表的な作曲家の名曲が集中して聴けるわけですね。これは楽しみです。これらの大曲を吉村さんはどのような料理していただけるのでしょうか?(笑)

演奏者の演奏タイプを分ける最も大きな要素は感性です。演奏者にとって、譜面は言語であり、それを音に再現していくことで、やっと音楽としての存在を実現化します。譜面から何を感じるか、それがメッセージとして伝わってくるのか、それとも漠然とした色で伝わってくるのかなど、演奏するときに感じる感覚、作曲された背景を知る時の新鮮さ、そういったわずかな驚きも見逃さないように吟味することで、自分の中に生じる感動、そして、聴いてくださる方々へに伝わる感動の度合が違ってきます。

Q 演奏会は作曲家と奏者だけでなく、その場にいる聴衆と作り上げていくということですね。これは素晴らしいことです。

今回、前半では私が約15年間滞在したドイツを代表する作曲家、そして、三大Bとも称される巨匠3人の名作をとりあげ、後半では、フランスからロシアという流れで演奏をします。音楽の父と称されるバッハ、生誕250周年を迎えるベートーヴェン、そして、私のライフワークとして取り組むブラームス。これらは、どれも、濃厚でドイツそのものを感じさせてくれます。
後半は、フランス印象派絵画の幻想的な色彩を感じさせてくれるドビュッシー、ロシアの大地や冬景色を織りなす雪景色の純白を思い起こさせるラフマニノフ、そして、最後は、ロシア音楽の雄弁さと平和への願いがポジティブに込められたプロコフィエフの作品を演奏します。

Q コンサート当日、吉村さんの演奏から思い感じ、そしてそれを受けたとめた会場の雰囲気が吉村さんにも作用し、どのような一期一会の音楽体験になっていくか今からとても楽しみです。ところで演奏会場となる早稲田にあるトーキョー・コンサーツ・ラボはどのようなところでしょうか?

敷地内に入った時から、ヨーロッパの風情を感じる雰囲気です。ホール内は、白を基調とした純粋に音色を感じられる空間で、そこに現地の映像はありませんが、音を通じてみなさまの想像の中でしかない生み出されたない風景を楽しむこともできます。ホールと相性がよいスタインウェイ・グランドピアノが設置されています。

Q 本日はお忙しいところありがとうございました。興味深いお話とともに、吉村さんの素敵なお人柄にも触れることができました。お客さまにもそんな素の吉村さんと触れ合うことができる素敵なコンサートになるのだと思いました!

ドイツへ留学したばかりの頃、うまく会話できなかった時期に、交わされる言葉がなくても音楽は、国と国の隔たりを超えていくのを実感しました。お互いが思わず笑顔になってしまう、そんな感じから始まったような気がします。それは、音楽に感動があるからかもしれません。終演後は、気軽にご自由にお過ごしいただければと思います。(笑)

チケット販売 https://t.livepocket.jp/e/nrrhq

日時:2020/12/12(土) 開演 14:00
会場:トーキョー・コンサーツ・ラボ(東西線「早稲田」徒歩8分)

バッハ:フランス組曲第5番 BWV 816
ベートーヴェン:「悲愴」ピアノソナタ第8番ハ短調 Op.13
ブラームス:『2つのラプソディ』作品79
ドビュッシー:『亜麻色の髪の乙女』『とだえたセレナード』
ラフマニノフ:『モスクワの鐘』嬰ハ短調 Op.3-2、ト長調 Op.32-5
プロコフィエフ:『ハープ』ハ長調 Op.12-7
プロコフィエフ:ソナタ第3番「古い手帳から」Op.28

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