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Nishida Gallagherと君に幸あれ

NHK「爆笑オンエアバトル」のエンディングテーマ「君に幸あれ」。同世代の人なら、記憶のどこかにある曲だと思う。どこまでもまっすぐな応援歌。西田遼二と田口真一のデュオ「タオルズ」が歌っていた。


この楽曲に出会った頃の私は、思春期のど真ん中にいた。進路の不安を抱えながら友人関係をこじらせ、己の力のなさに絶望しては身勝手に傷つき、都会でも田舎でもない中途半端な街で大それた反抗もできず、何もかもうまくいかない苛立ちの中で、為す術のない日々を生きていた。

そこに、「君に幸あれ」が刺さる。よく見るテレビのテーマソングぐらいにしか最初は考えていなかったのに、知らない間に気になっていた。寒い冬、お年玉でCDを買った。家族にも同級生にも隠れて聞いた。自暴自棄だった反抗期の自分が、まっすぐな歌を求めた。そういうことを伝えられる相手は、当時の私にはいなかった。

落ち込んでる君に かける言葉見つからない
考えてみたところで 君の気持ち分かるはずもなく
頑張れって言ったって 気休めにもなりゃしない
流れ星に祈ったって どうもこうもなりゃしない

改めて引用してみて分かることだけれど、1番の歌いだしの歌詞は途方もなく悲観的だ。中でも、「考えてみたところで 君の気持ち分かるはずもなく」は言葉としてすごく強い。相手に対峙をしてはみるのだけれども、これはどうにもならんなあという心情がぐーっと迫ってくる。そんなワードを畳みかけるように4度積み重ね、この一貫した前提をたった2フレーズで鮮やかに反転させ、有名なサビの部分へとつなげていく。

だけど今は声を枯らして願いをかけたら
少しでも力になれると思うから

どうにもならない「君の気持ち」を踏まえに踏まえてからの「だけど」に私は救われた。どこの誰とも知らない人の言葉だったから、ちゃんと聞けたのかもしれない。塾帰り、夜の真っ暗な公園で、曲を詰め込んだMDとイヤホンだけが支えだった。「君に幸あれ」が流れている間は、世界の前向きなほうを想うことができた。


結局、そのときの希望進路は叶わずに終わった。希望という言葉を使えるほどに、目標として真摯に向き合えていたわけでもなかったし、当然の結果だ。1つだけ受かった高校に行くことになった。そこではそこで、次なる葛藤と目標に出会うのだけど、それはまた別の機会に。傲慢にも不本意ながら始まったその高校での生活で、どうにかこうにか再起が図れたのは、「君に幸あれ」のおかげだと思う。

見るもの全てを斜めにとらえていた生意気な弱虫。「だけど」、そういうまっすぐなものも好きになれているじゃないかと教えられた。あれだけ心が荒んでいた時期に、何かを取り戻させてくれた。人生の宝といえる曲だ。


今、タオルズというデュオは活動を停めてしまっている。2014年、最後のアルバムとなってしまった「靴底鳴らせ」がリリースされたとき、あれは私がどうにか社会人として身を立てて、駆け出し始めた頃だった。「君に幸あれ」だけじゃなく、背中を押してくれた曲がたくさんあって、今も手元にはアルバムが全部残っている。折にふれて聞く。


風の便りでデュオのうちの一人、西田は2016年から個人で活動していると知った。名前も「Nishida Gallagher」と変わった。それ自体は結構前から知っていて、でもなんとなく見に行けないままでいたのだけど、TwitCastingによる配信ライブで再会することができた。

第1回配信ライブの中で、タオルズ時代の曲をしみじみとふり返りながら、西田はこのように言ってくれた。

もう15年前の曲ですよ
それを今もこうして歌えてるっていうのが 幸せなことだなと思います

惜しまれながら引退するアイドルもいれば、人知れず表舞台から姿を消すアーティストもいる。全てのエンターテイナーの幕引きが美しいものではないことぐらい、とうに知ってしまっている。タオルズの活動休止も私にとっては突然だったが、この6年のことは私が考えるべきことではない。当時の曲をギター一本で歌い上げる様は変わらずかっこよかったし、今でも私のエネルギーとなっている曲のことを、制作した当事者が大切に持ち続けていたことが嬉しかった。

こんな状況下だから、いつになるかは分からない。でも、もう1度会いに行きたいなあと思った。歌うところ、目の前で見たいなあと思った。人はそれを希望とよぶ。コロナ禍の中でつながった縁が、今それを生んだ。


あとがき

ライブに行けた回数は多くないのですが、福岡の路上で聞いた「君に幸あれ」がすごく印象に残っています。2012年頃かなあ。冬、イルミネーションの季節。ショッピングモールに荷物を搬入するトラックが前を通って、かき消されそうになる二人の歌声が、澄んだ冷たい空気の中をそれでもちゃんと届いて。

今回の配信ライブでCD未収録の曲をやってくれたんですが、そのときの感じを思い出しました。高音の響きとか、切なく訴えかける声の抑揚とか。配信終了まで大事に聞きたいです。

さて、好きな曲をあげていくと本当にきりがない。これまでの自分の色々な情景も同時に浮かびます。「君は正しい」「ハヤブサ」「虹になれ」、元気だけじゃなくて、仕事に就いた頃・目指していた頃の初心を取り戻す曲。「未来のファミリー」、親元を離れ、私の反抗期もどうにか落ち着きました。「ねずみ花火」「また会えるかな」「あいかわらず」、聞いていた頃交際していた人とは今や音信不通、それでいい。でもあの頃の恋愛はあんまり否定したくないなあとも。

今、私には大事なものがたくさんあって、とても幸せなんだと思います。かなわないことですが、あの頃の自分に伝えてあげられたらとは思います。


関連

[1] Twitter Nishida Gallagher
https://twitter.com/nishidagallagh1

[2] TwitCasting 「Tele Live vol.2」(2020.5.16配信予定 ~2020.5.30)
https://twitcasting.tv/i:1649267064/shopcart/5620

[3] 歌ネット 歌詞検索「君に幸あれ(タオルズ)」
https://www.uta-net.com/song/50860/

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