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第7回① 葉山町から全国へ! 生ごみ処理容器キエーロを考案 松本信夫さん、松本恵里子さん
「キエーロ」という名前のコンポストを初めて知ったのは、4~5年ほど前だろうか。キエーロというたった4文字の言葉で、自然と生ごみが「消える」イメージがわいてくる。絶妙なネーミングだ。
キエーロについてネットで調べてみると、土に木枠を埋めているものもあれば、木箱を使ったもの、プラスチックケースを利用したものなど様々ある。特に葉山や逗子、鎌倉といった湘南地区を中心に広まっているらしい。これって、どんな仕組みになっているんだろう? どうやって生ごみが分解されるのだろう? と、ずっと気になっていた。
そんな時、偶然にも、キエーロオフィシャルの役員である西川美和子さんと知り合った。西川さんは、コンポストが好きすぎて(笑)! 今春(2024年)、東京・稲城市に全国初のコンポスト直販店「コンポストフレンズ」をオープンしたコンポスト愛あふれる人だ。今回、西川さんを介してキエーロの考案者、松本信夫さんのお宅に取材に伺った。
落ち葉に生ごみをサンドイッチ!
神奈川県葉山町にある松本さんのお宅を訪れると、大きな欅の木が出迎えてくれえた。高台にあるお宅からは、美しい芝生の庭の向こうに相模湾が見渡せる。海からの風が、心地よく良い気持ちのいい場所だ。
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「この欅の木は、家を建てた時に植えたんです」と信夫さん。見上げるほど大きく育った欅の木は、春になると青々とした若葉が芽吹き、葉を茂らせる。夏には、木陰を作り、秋にはたくさんの葉を落とす。
「この欅の木の落ち葉を集めて腐葉土を作っていたんですが、ある日、落ち葉の間に生ごみをサンドイッチのように入れて、上にポリカ波板をかぶせて置いてみたら、1週間後に生ごみが跡形もなく、なくなっていたんです」。これが、キエーロの原点となったという。その後、松本さんの手によって少しずつ改良され、現在、木枠型の「バクテリアdeキエーロ」と箱型の「ベランダdeキエーロ」の2種類が販売されている。
さまざまなコンポストを体験して
キエーロ考案に至るまで、松本さん宅で、様々なコンポストを使っていたという。では、そもそもなぜ、コンポストをはじめようと思ったのだろうか?
「この家を建てた1978年当時、葉山町は下水道の普及が遅れていたんです。山の上の高台にある我が家の生活排水は、道路の側溝から相模川に流れ、そのまま相模湾に到達していました」。台所から出された排水が、そのまま海に流れていく現状。もともと環境問題に関心があった信夫さんと妻の恵里子さんは、生ごみの処理方法についても考えるようになる。
「最初は、葉山町が無料で配っていたコンポスターからはじめたのよね。よく農家の畑に置いてある設置型のタイプ。でもね、アメリカミズアブがすごくて。気持ち悪いし、それに臭いも強かったわね」と恵里子さん。虫や臭いの問題から使用をやめ、次に使ったのは電動のバイオ式生ごみ処理機だった。虫や悪臭の問題はなかったものの、電気代や専用の交換チップ代が高く、ランニングコストがかかった。
ほかにも発酵促進剤をいれて液肥を取るEMバケツなども試してみたが、やはり臭いの問題があって使い勝手が悪かったという。さまざまなコンポストを使い15年ほどたった1995年、さきほどのキエーロが誕生した。では、どんな仕組みで生ごみを分解するのだろう?
土のバクテリアが生ごみを分解
「バクテリアdeキエーロ」と「ベランダdeキエーロ」の2種類ともに、仕組みは同じで、必要なものは、土だけ。土に穴を掘り、生ごみを入れ良くかき混ぜ、乾いた土をかぶせるという。
「キエーロを簡単に説明すると、土の中の微生物が生ごみを分解する容器です。土の中には、何億というバクテリアが住んでいますから、その菌が生ごみを分解してくれる仕組みです。いわば、農家さんがやっているように畑や庭の土を掘って生ごみを埋めるのとなにも変わりはないんです」
と信夫さんは語る。
特別な基材や菌を投入する必要もない。仕組みはとてもシンプルだ。
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虫や臭いも問題なし!
土のバクテリアの力で生ごみを分解するキエーロ。特徴は、木枠にのせた透明な屋根と、屋根と木枠の間の隙間にある。
「キエーロは、土、太陽、水、空気の力を借りて生ごみを分解します。透明な屋根にしたのは、太陽光を取り込んで土の温度を上げて、微生物の働きを活発化するためなんです」と信夫さん。
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「屋根と木枠の間にある隙間は、コンポスト内に常に空気を取り込むため。空気が入ることで、土の微生物の働きが活発になるんです」。
じつは、この隙間が私にとって衝撃的なことだった。というのも、私が12年以上実践してきたダンボールコンポストも、空気を取り込んで生ごみを分解する好気性のコンポストだ。
キエーロ同様、生ごみを入れて基材をかき混ぜるのだが、ダンボールコンポストには虫の侵入を防ぐためカバーをかけている。特に夏場は、アメリカミズアブがコンポスト内に入り、卵を産み大量の虫が発生してしまう場合もある。これが、コンポストをやめてしまう一番の理由となっている。いかに虫の侵入を防ぐか。コンポストを広めていくうえで課題のひとつだった。
しかし、キエーロはいつでも虫が入ることができる。虫は大量発生しないのだろうか?
「虫は生ごみの臭いに誘われてやってきます。でも、上に乾いた土をかぶせること、また風が通り抜けることで、土の表面は常に乾いた状態です。土が乾いていると、虫もあまり来ませんし、乾いた土には消臭作用の効果もあるんです」。
虫の侵入を防ぐ「密封型」ではなく、常に風を取り込む「開放型」のコンポスト。まさに、逆転の発想! 私にとっては目から鱗だった。
「それに、虫が発生したとしても常にどこかに飛んでいける状態だから、虫たちの出入りも自由。コンポスト内に籠ることもないから、開けたら虫が大量発生してびっくり! なんてこともないんです」。長年、松本さんがキエーロに携わる中でも、虫に対するお悩みはほとんどないという。
増えない&ランニングコストがかからない
衝撃はまだまだ続く。生ごみを入れ続けても、土は増えずに、そのまま使い続けることができるという。したがって土を入れ替える必要もない。
「生ごみの8割が水分ですし、生ごみは土のバクテリアが分解してくれます。コンポストの大きさによって分解できる量は限られますが、土は、ほとんど増えませんね」。
土は、必要に応じて堆肥として使うこともできる。庭やベランダで園芸を楽しむ人にとっては、できた堆肥を使うことで小さな循環を実感できる。一方、堆肥を使わない人にとっては、出来た堆肥がたまる心配もない。コンポストのお悩みのひとつが、できた堆肥の使い道がないこと=出口問題だったが、その心配もない。その上、最初に入れた土を使い続けることができるため、ランニングコストもかからないのも大きな魅力だ。
現在、松本さんは土のかわりに、竹チップを実験的に使っている。
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「生ごみの分解には、酸素、そして微生物の量が大切。竹チップは茎に空洞があるから常に空気が入っていく構造。酸素が供給されやすい状態だよね。それに、竹には消臭作用もあるし、土のように玉になりにくいから、コンポストにいいんじゃないかな」。
コンポストの4大お悩みを解決!
こうしてキエーロの仕組みや使い方を伺ってみると、多くの人にたちはだかるコンポストのお悩み
① 虫の発生
② 臭い
③ 堆肥の使い道
④ ランニングコスト
この4つのすべてクリアになる。
「キエーロを使ってから、虫や臭いに悩まされることはなくなったわね。それに天ぷらとか、油のついた鍋を洗う場合、たくさん洗剤を使うことになるけれど、うちは、くず野菜と一緒にキエーロに入れちゃう。カレーなんかも入れちゃう。そうしたらなんだか、自分自身がいい人になったような気になるのね(笑)! 本当にすっきりして、やったねー!って。お台所に立つのに気分がいいわね」と恵里子さん。
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今までさまざまなコンポストを使ってきた恵里子さんが、キエーロのある暮らしを心から楽しんでいることが伝わってくる。そう、コンポストをやっていると、ごみを自宅で処理&活用することができる。毎日発生する生ごみの臭いからも開放され、ごみ収集日まで保存する必要もない。燃えるごみに出すよりも楽チンで、しかも地球にやさしい。このうれしさ&楽しさは、コンポストを続けている人共通の気持ちだと思う。
ここまで松本さんご夫妻に、キエーロ誕生のきっかけや仕組みについて伺ってきました。後半2回目では、「ベランダdeキエーロ」の開発、キエーロ普及の背景と松本さんご夫妻の活動について綴ります。