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第5回②北アルプスの自然、菜園の恵みを生かした土づくり 穂高養生園 回転式コンポスト、落ち葉堆肥

いろいろなコンポストを実践する人やグループを訪ね、そこで出会った人々の生き方や社会、自然とのかかわり方を綴るnoteでの連載。
第5回目は、長野県安曇野にある「穂高養生園」のコンポストや土づくりについて前後半2回にわたり紹介。後半の2回目では、2020年からスタートした自然菜園での取り組みについて綴ります。
前半の1回目はこちら

養生園でのコンポストについてお話を伺った後、福田さんが、養生園からほど近くにある自然菜園に案内してくれた。背後には山々が囲むようにそびえ、青空の向こうには南アルプスの山並みが広がる見晴らしのいい場所だ。有明山から流れる清流のせせらぎが聞こえ、さわやかな風が身体全体を吹き抜けていく。

鶏フンや落ち葉堆肥を使い地力を取り戻す

「養生園では、30年ほど前の開園当初から自然菜園を耕作してきましたが、もっとゲストの方々に自分たちで作った無農薬の野菜を提供したいと、養生園から徒歩で行けるこの土地を2020年に地元の方から譲っていただきました」。
広々とした土地には、在来種の種で育てたトマトやナスなど夏野菜が元気に育っていた。しかし、この土地は10年以上、耕作放棄地となっていたという。
「ここは、もともとの土壌が有明土といわれる砂地で、前の地主さんは作物は作らないけれど、土地が荒れないように年3回、トラクターで耕運していたんです。その結果、養分がほとんどなく草すら生えない場所になっていました。そこから、緑肥を蒔いたり、落ち葉堆肥を入れたりして、ゆっくり地力を養ってきました。2年前からは、菜園内で飼っている鶏のフンを堆肥作りに利用しています」。

肉も利用できる卵肉兼用種の「岡崎おうはん」。
人懐っこく「コココッツ」という鳴き声も可愛らしい。

菜園の入口で純国産種のニワトリ『岡崎おうはん』が出迎えてくれた。
「ニワトリには、調理で出た野菜くずをおやつとして与えています。ニワトリは、生ごみを食べてくれて、卵を産んでくれて、肉も食べることができて、フンは堆肥になるんです!」。 まさに1石4鳥! のニワトリ飼育。そういえば、私の祖父の家でも昔、チャボを飼っていた。朝食に生みたての卵で、卵かけご飯を食べた記憶がある。ニワトリが一般の家でも飼われていた理由が、こうしてみると腑に落ちてくる。可愛らしいニワトリたちを見守りながら、
「これからは、草や微生物に守られた土が喜ぶ場所にしたいと思っているんです」と福田さんは穏やかに語る。

環境を整えることが心地良さに繋がっていく

少しずつ、土地の力を養ってきた自然菜園での試み。2023年には、パーマカルチャーセンタージャパン代表の設楽清和さんを講師に招き「パーマカルチャー講座」を開催した。
パーマカルチャーとは、人と自然が共存し、持続可能な暮らしを築いていくためのデザイン手法のこと。畑を耕しながら、森や川、山全体を観察し、美しい自然が永続的につながっていくようデザインし、その体験を自分自身の暮し、庭やベランダに活かしていくという取り組みだ。

パーマカルチャー講座で実践した菜園をバックに
右から福田太志さん、鈴木愛さん、松田香さん

今年(2024年)からは、その理念を取り入れ、自家菜園を円形や曲線でデザインをしている。
「直線で作る畑と比べれば収穫量は少なくなってしまいます。でもここは歩いているだけで楽しくなってくるんです。とくに子どもたちが喜ぶんですよ」。
やわらかな曲線で作られた畑は、畝と畝の間に空間があるからだろうか? 遊び心にあふれている。今年からは、ミツバチの小屋も作り、養蜂もスタート。自然菜園の花々から採集されたハチミツが収穫される日も待ち遠しい。


畑の一角にあるビオトープ。たくさんのトンボたちが飛び交っていた。

じっくりと土や植物を観察し、手を動かし、自然と対話を繰り返すことで、たくさんの命が生まれていく。その命から人は身体と心を潤す。人が森の落ち葉や残渣を堆肥にし、畑に還元することで、豊かな生態系を育んでいく。土と自然と人とが繋がり、命が巡り、生き続ける仕組みは、身体と土地が結びつく「身土不二」の考えにも通じている。

森の緑、渓流の清らかな水、吹き抜ける風、鳥のさえずり、蝉しぐれ、ミツバチの羽音、やわらかなハーブの香り。多様性のある環境は命のゆりかごとなる。

「養生園のまわりの自然、土や空気や水、植物たちの環境を整えることで、畑やそこにつながる森や山、まわりの風景が少しずつ変化しています。結果的にそれが、人にとっても気持ちの良い場所になっているのかもしれません」と福田さんは穏やかに語る。生き物たちの息吹があふれる養生園の環境づくり。人と自然がゆっくりと時間をかけて共生する暮らしが、養生園の居心地の良さなのだなと思った。


編集後記

穂高養生園を訪れるきっかけは、行きつけのヘアサロンに置かれた養生園のリーフレットだった。じつは2~3年前から気になっていた場所であることを美容師のTさんに告げると「それって、行くしかないでしょ」とさらり。その一言に背中を押され、2ケ月後、私は養生園を訪れていた。それ以後、毎年のように滞在し、いまや養生園積み立てをしているほど、次に訪れることができる日を心待ちにしているほどだ。
今回、取材に協力してくれた鈴木愛さんは、年に数回ほど、東京の表参道アトリエさんでスープの会を開催していので、興味がある方はぜひ味わってみて欲しい。

ホリスティックリトリート 穂高養生園
〒399-8301 長野県安曇野市穂高有明7258-20

冬草 鈴木愛さんのインスタグラム