愛知リコールの諸問題 その3 落穂拾い(加筆修正中)

0. 自分にとっての落穂拾い

「落穂拾い」もともとは、田畑の麦や稲を収穫した後、取りこぼした稲穂や麦の粒が無いか探す作業の事でして、少しでも麦や米を大事にしようとする精神の表れとも言われます。

日立系列の人からすれば、ある種のパワハラレベルで行われる業務の見直しの事を指しているのですが、日立の製造と商売の成り立ちに深くかかわっているので、簡単ですが説明してみたいと思います。

日立も元々壊れにくい製品を納めていたのではなく、よく客先で故障を起こすトラブルを起こしていました。
トラブルの解消のため、顧客と一緒に問題を解決することで信頼を得ると同時に、社内の体制や製品の作り方や品質保証の見直しを行い、より良い製品を納入することを繰り返し繰り返し行ってきています。

それが今の日立の簡単に壊れない家電や発電所、サーバー群といった使用者にとって壊れたら困る機器がそうそう壊れない理由でもあります。部署によっては訴訟すら起こさせないレベルの品質管理をするので、官公庁や企業の皆様方には是非とも日立製品の購入をお願いしたいところです。

脱線してたので話を元に戻しますと、日立で言う「落穂拾い」と言うのは、実際に起きたトラブル事象を元に、体制や業務フローの見直し、製造技術の改善向上、品質管理品質保証の見直しを含む一大イベントとなっており、落穂拾いのケーススタディが日立系列全体に水平展開される仕組みになっており、ある意味部署によっては屈辱的でもあります。

入社初年度に落穂案件に放り込まれ、無力な自分が北海道と東京を往復した日々(月残業100時間越え)を思い出すだけでも苦痛です。部署としては赤字から救われたらしいですが、自分は死にかけました。

実際、トラブルが起きないことを祈るか、トラブルを起こさないように部門が一丸となって協力して業務に励むかしておかないと、槍玉にあげられて自分のような壊れた人間を量産することになるので、注意が必要です。

ここからようやく本題に入ります。

私から見てですが、リコール関係者、誰もまともな検証活動をしていないし、発表もできていないように思えます。
むしろ反対派側は出版まで行って、あいトリの正当性やリコール活動が無価値であることを主張しているわけで、やはりリコール賛成派の見識の無さをさらけ出しているようにしか思えません。

あと責任の擦り付け合いが誹謗中傷やストーキング、脅迫、マスコミなど個人情報の漏洩に発展している事例もあり、実際自分も脅されているので正直心苦しい限りです。

それでもリコール受任者の一人としてやるべきことをやらないと気が済みません。
他県の支援者やリコール活動を起こそうと考えている人々に失望を与えた責任の一端は受任者の自分にもあると考えているからです。

そのために、愛知県知事リコールに関連した著述資料を残す事大都市や都道府県レベルのリコールを起こしたい人のための参考となる資料を作ることが私のできるせめてもの贖罪です。

1. はじめに

リコールの落穂拾いを始めるにあたって、いろんな人の話を丁寧に聞いてきたつもりですが、結構いろんな人の話がごちゃごちゃになっているので整理が必要だなと思っています。

・組織の指揮統制の問題(コンプライアンス)
・広報活動やテーマ設定等情報戦の問題
・偽造署名の問題(現在刑事裁判中)
・署名用紙に関わる問題
・署名妨害の問題
・ボランティアの統制問題
・個人情報保護に関わる問題
・金銭管理
・団体の属性問題(政治団体にする必要があったのか?)

2. 事務局幹部に法令順守意識が無かった

リコールに関連して起きた全ての問題が事務局幹部のコンプライアンス(法令順守)意識が無い事から発しています。これについては一部例外もいますが、ボランティアの方が意識が高かったと思います。

偽造署名の問題、印鑑の違いなどで簿冊がまるまる無効になった問題、個人情報漏洩の問題、いろいろありますが法令順守意識が薄いどころか無いと思っています。

きちんと法令を守り、指導当局(県の選挙管理委員会)の指示を聞き、疑問があればきちんと確認を取っておけば防げたことが沢山あったはずです。

この点に関して高須氏はきちんと監督責任があったはずですしが、法令を破った身内に対して庇う姿勢には疑問を持ちます。当時事務局長だった田中被告は理由が何であろうと守るべき法律を破ったことに対して刑罰を受けるべきでしょう。
また、支持者がリコール活動のために寄付したお金から弁護士費用が捻出されている点については納得できないです。
一部の人々に英雄視されている請求代表者もその中でおかしな動きをしていて、何らかの工作を行ったと見ていますが、推測はできても証拠を手に入れられる立場ではないので追求は断念しています。

このことから、請求代表者の選出や事務局を結成する際には、きちんと法令順守を誓約してもらう必要があると思います。
さらに法務担当を置き、専任もしくは兼業で法務関係の業務を監督すべきだと考えます。
また、法による刑罰とは別にリコール組織としての罰則も必要で、除名ならびに費用の弁済等の処分を科すべきでしょう。
その際に必要な約款等は後日の課題としておきます。

3. 争点設定の甘さ

右も左もやりがちなのですが、大衆が置いてきぼりになって、選挙惨敗と言う事例はどこにでもあるわけで、如何に大衆を味方につけるかが、民主主義社会で権力を得るための近道であることは自明です。

リコールで忘れられていた概念の一つに「愛知県民のコンセンサスを得る」と言うのがあり、愛知県民の支持を得ることを忘れ、何故か「あいちトリエンナーレの件」だけでリコールできると考えていたのかが、興味深い現象でした。

リコールの会の争点設定、右側の人たちにとっては受けがいいが大衆は完全に置いてきぼりです。
あと中京都構想なんか大村知事も河村市長も放り出してますから、そんなの争点にはなりません。
そしてほとんどの人が、大村知事が知事ではだめなのか? あいトリが何故問題なのか? 置いてきぼり状態だったと思います。あとリコール賛成派にしても、きちんと自分の言葉で説明できる人は少数派だったと感じています。

自分ですか? ちゃんと自分の言葉で語りましたよ。

それはさておき、大事なことは大衆がきちんと賛成できるテーマ設定を行う事だったと思います。それを詳しく何度でも説明できる環境を作ることが大事。
今回の場合は「大村知事に県知事としての資質が無い」として、複数の争点、コロナ、あいちトリエンナーレ、県議会のオール与党化によるチェック機能喪失など、大村知事とその周辺によっていかに愛知県が食い物にされているかについて声を上げるべきだったのではないかと考えています。

マスコミに取り上げられるのも大事だけど、最近だと動画やブログ等できちんと発信していく方が大事だったと反省してばかりです。

あと、広報担当おかなかったことが敗北要因の一つととらえています。
高須氏他が記者会見にこだわり過ぎていた上、正確な数字を発表してこなかったことが賛成派や支持者を含めて不信感を抱いたのではないかと考えています。
正確な情報発信こそ、大衆から信用を得るための大事な要素であることは間違いありません。

4. 偽造署名問題

偽造署名については裁判が行われていますので、法的な判断については裁判所の判決を待つ方向です。

個人的な見解としては、「請求代表者がやっちゃアカン」ぐらいにとどめておきますが、少なくともこんなことをやる事務局が大村知事を責められるかと言われると疑問符をつけざるを得ないと思います。

5. 署名用紙

署名用紙の問題ですが、
・受任者への配送の遅れ
・送られた用紙枚数の減少
・簿冊無効に至る様々なミス(印鑑違い、受任者欄の間違い等)
だいたいこの二つに集約されると思います。

受任者への配送の遅れは、郵便をまとめて発送することによる送料の割引を受けるため、一地域当たり1000通を超えた所から発送していたことがわかっていて、途中からその縛りは無くなった模様ですが、受任者の活動期間が短くなる要因だったと考えています。
事務局のボランティアが発送作業を手作業でやっていたことも要因の一つと考えられますが、このあたりは発送事務を取りまとめていた方に責任があると見ています。本来は大きなスペースと多くの人員を確保してやるべき作業のはずですが、手狭なスペースで密な状態でやってました。

用紙枚数受け取った人ごとにばらばらでして、初期に受け取った人は三枚、その後二枚、一枚と減っていたようです。高須先生がツイートで三枚配ると公約していたものが、守られておらず、事務局幹部が何らかの決断をしたと見られますが、わかっていません。

簿冊無効に至る様々なミス、印鑑の間違いと受任者欄の間違いでかなりの枚数の署名用紙が無効と判断されたことがわかっていて、特に印鑑に関しては初期に送られたもので「○久恒→×久垣」「○佐橋→×佐藤」と言った感じで作成されてしまった署名用紙の印鑑(37人分を一気に押印できる)を発注、検品した人のモラルが問われると思います。
受任者欄の間違いも署名用紙を作成するシステムの不具合と見ていますが、本来はシステムの試運転を行うなどして事前に潰すべきミスが放置されていたことも問題と考えます。

6. 署名妨害

5項で述べたような受任者の活動を遅らせるような行為はある種の署名妨害と見るべきと言う考え方を持つ人もいて、私もある種の遅延行為による妨害=事務局によるサボタージュと見ています。

準備期間(緊急事態宣言と猛暑で一カ月遅らせている)もあったはずなのに、何もやっていなかったのではないかと思えるほどに、きちんと準備や確認をしなかった事務局の幹部が意図して送らせていたのではないかとみています。

7. ボランティアの統制

こちらの記事にボランティアの問題を書きましたが、集会を開いてボランティアを選挙区ごとに集めて、署名活動に関する説明や顔合わせをしたり、活動内容を話し合う場を設けなかったこと、署名を集める際のマニュアルを作らなかったことなどが疑問として残っており、組織として動くと言う観点がすっぽり抜け落ちていて、私自身もネット上など手探りで出会ったボランティア同士のつながりでの勝手連的な活動をしていました。

その中でも自腹で会場を借りて署名会を開く人もいるなど熱心な方には頭が下がる思いです。

個人的には、きちんと組織を作らなかったことで、ボランティア同士の衝突が起こったり、マニュアル等で事前に約束事を決めなかったことが署名会場やその周辺で様々な問題を引き起こしたと見ています。

マニュアルも印刷しての配布ではなく、ネットでの共有で良かったと思っているだけに、こういったところへの細かい気配りができていないのも問題だったと思います。

8. 受任者やボランティアの個人情報保護

企業の場合、個人情報の流出は基本的に信用に関わる問題で、下手すると取引停止や、個人への補償、集団訴訟のリスクまで存在することになります。

私自身には被害は今のところありませんが、いくつか紹介すると

・マスコミから電話がかかってきた
・自宅や職場にマスコミの記者が押し掛けてきた
・クラウドファウンディングの名簿が漏れている

などの情報が寄せられており、リコールの会がきちんと調査して補償すべきはずなんですが、「私が全ての責任を取ります」と言った高須院長が全く何もやっていない所に問題を感じます。

署名や受任者名簿、寄付した人の名簿など本来は個人情報の保護の対象となるはずです。そう言った個人情報を扱うならばきちんと教育を受けて、外部に漏らさないという誓約書を書き、実際に秘密厳守のはずなんですが、そう言った知識すらないのではないかと疑っています。

9. 金銭管理

政治家の政治活動収支報告書と言うのは、概算でその使途がみえにくいようになっているため、ある程度のどんぶり勘定が許されているように見えます。

姿勢の問題と言うか、県知事の資質を糺す側が、金銭の管理に関してブラックボックスが存在するというのは、個人的にはあまりに身勝手なのではないかと考えます。
多くの人から、寄付が為されており、その使途が署名偽造など本来の活動以外の事に使われたのではないかと疑いを持っている人も多いはずです。

会計担当者や会計責任者はいたようですが、他人様から預かったお金である事を忘れていたのではないかと思えています。

個人的には、企業の会計監査に耐えうるだけのきちんとした帳簿をつけるべきだったのではないかと考えており、使途不明金があること自体、支持者の疑念を招くことが理解できていないと考えます。

10. 政治団体にする必要があったのか?

リコールの会が政治団体であったことも、様々な問題の温床となったと考えています。

まずは、愛知県選管が公開しているリコールの会の政治資金収支報告書のリンクを置いておきます。

・受任者名簿が流出し、マスコミに流れたのではないか?
・署名簿が他団体に流出し、選挙に用いられたのではないか?
・寄付金がリコールに関わる業務以外に使われたのではないか?

様々な立場の人の話を聞いていますが、どうも政治団体は個人情報の取り扱いについて、一般の企業団体とは別な扱いである事。
集められた受任者の個人情報や署名の情報が他の目的に使用されるのではないかと言う疑念は署名期間中から賛成派の中で燻っており、現状宙ぶらりんとなっている署名の処分を含めてどうなるのかが気になっています。

金銭も同様で入ってくるお金は厳しくチェックできるようにはなっていますが、出ていくお金については隠しやすく、特に人件費については誰がどのくらいもらったのかをわかりにくくすることで、何かを隠しているのではないかと勘繰っています。
リコールに関わる業務への寄付であったものが、偽造署名の製造や目的外の支出に使われているのではないかと言う疑念を解決できないことが悔しいと感じています。

11. リコール業務に関する私の考え方

まず最初に「成果が求められる仕事」であると言う事を忘れてはいけないはずです。ここでいう成果とは、
1. 有効な署名を法定数より多く集める
2. 住民投票でリコールに賛成の票を過半数以上集め、対象となる首長や議員を失職させる
3. 出直し選挙でリコール賛成派の支持を得た首長や議員を選出する
4. リコール賛成派の支持を得た政策が実施される
であって、街頭で活動したとか署名収集活動をしたではないと言う事です。

人によっては「お前偉そうに言ってるけど、何筆集めた?」とか聞いてくる人がいますが、そこが本質ではないと思います。
大事なことは最終的に自分たちの望む政策を実施される所まで、駒を進めることであり、それができないならば失敗と言うしかありません。

次に、直接請求は一つのプロジェクト(様々なタスクの集合体)として捉えるべきと考えています。

愛知県知事リコールでも、様々なタスクがあったはずですが、どれも不十分だったり未達だったり、さらには不法行為まで出てきたわけでして、計画外どころか計画すらあったのか疑われます。

本来は法令や監督機関の指導を元にタスクを抽出し、きちんとスケジュールを組んだ上で、やるべき仕事だったと思います。

あと、業務の所掌が曖昧過ぎて、誰が何をやったのか、責任の所在が不明瞭過ぎたことも問題だと思っており、様々な混乱の原因になったと考えています。このあたりは日本的組織の失敗の典型的なパターンとも言えます。

プロジェクトマネジメントができていなかったり、指揮統制も取れていないなどの問題が散見されていて、署名期間終了後に書いた文書には「ここはガダルカナルか? それともインパールか?」くらいの恨み言を書いていました。

最後に、やはりこれも信用がモノを言うというべき世界だったなと感じています。
正直な話をすれば、当時は高須院長の看板を借りることによって、信用を得て署名を収集できた人も少なからずいたわけで、不正署名の件が明らかになった後は、たぶんもう一度やろうと思ってもなかなか難しい状態になってしまったと考えます。

普段からのリアルの政治活動やSNS等で信任を得ていくべきであり、自分が属するクラスタの有権者だけでなく、無党派層への影響を広めるべきだったのではないかと考えます。

まとめ

私個人の意見をまとめると、リコールの組織として、請求代表者特に事務局の幹部と言える人々は、リコール活動を為すべき組織として失格だったと考えています。

1. 高須院長の見込みや確認の甘さ
2. 事務局がきちんとした準備、段取りができていない
3. コンプライアンス感覚やモラルの欠如

1. に関しては、以前に書いたことがそのまま使えるでしょう。田中氏に任せれば万事うまくいくと思って、好き放題した責任は問うべきと考えています。

2. に関しては、3とも関連しますが、田中氏の能力不足や集めたスタッフに問題があると考えます。どうも交友関係や政党の関係で人を選んだようですが、そのあたりが確認の甘さや準備の甘さにつながったと見ています。
個人的にはリコールに関わる業務は「成果を出すべき仕事」にしなければ、ならないと考えていましたが、どうもそうではなかったようです。

3. は正直どうしようもないというか怒りに震えてます。県知事の責任を糺す側が法令すら守らないというのは如何なものか? 売名や利己的な欲求を叶えるために、本来守るべきルールすら守らない人物がリコールを主導してはならないと思います。

リコールの会事務局の人々が何を考えてこのような行動を行ったかは今後の裁判での審理に期待するしかありませんが、リコールに関わった人々の傷はなかなか言えていないことを考えると、一日も早い真相究明と被害を受けた方々への補償がなされることを望みます。

結論

・解職請求は一つのプロジェクトであり、大規模な自治体では、きちんとした計画が必要である
・選挙で選ばれた首長や議員を糺す側として、法令順守を徹底する
・見込みが甘くならないように、プロジェクトの中できちんとした調査と検討を行う
・リコールに賛成する支持者より多くを集めるためにも有権者のコンセンサスを得られる政策を提示する
・きちんと法務、広報、事務作業、会計の責任者をおき、適宜業務の確認と見直しを行う
・最終的なゴールは「首長や議員の解職」であって、そこに至らない時点で失敗である
・リコール組織は政治団体ではなく市民団体として設立、収支報告をきちんとした上で解散すべき
・普段から信用第一で行動することが重要


あとがき


ある人は「私は希望をお金に込めて託した」と言っていました。首長や議員が恣意的な政策や施策を行っていることに対し、不満を持っている人は少なからずおり、彼らに対しての歯止めがある事を知らしめたいと考えていた人は多くいると思います。

寄付してくれた方精神的な支援をしてくれた方に対して御礼を申し上げるとともに、深い反省の意を表します。

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