ご報告

結賀さとる氏から私がトレースをしているとの指摘を受けた件について、今まで事情をお伝え出来ず、ご心配をお掛けしました。
先日東京地裁で判決があり、控訴無しで勝訴が確定致しました。
無事に司法で事実無根と精神的苦痛が認められたことに安堵しています。

まず今回の経緯につきまして、
ご説明いたします。

事の発端は、2015年頃のことになります。

私がその頃取り組んでいたのは、オトメイト
ブランドの女性向け恋愛ゲーム『Collar×Malice』
(2016年8月18日発売、販売:アイディアファクトリー株式会社様 …以下「IF」/開発:デザインファクトリー株式会社様 …以下「DF」)の原画のお仕事でした。

私はもともとDFに所属しており、2013年9月に退社、独立後は2016年9月まで同社専属の契約イラストレーターとして携わっていました。

2015年末頃に同ゲームの公式サイトで公表された複数のキャラの立ち絵について、結賀氏から自身が原画を担当した『灰鷹のサイケデリカ』(2016年9月29日発売、販売/開発 IF)のキャラの顔ラフのトレースであるとの申し入れが、IFを通じてDFにありました。

DFから相談を受けた私は、トレース元とされるイラストは初めて見るもので、そのうえ未発表のイラストであると聞き、驚きとともに誤解であることを伝えました。
それを受けてIF・DF側でそれぞれのイラストの制作日を確認したところ、私の絵のほうが半年以上早く制作されたもので、結賀氏にもその旨を説明して、解決したとDFから報告を受けました。
私としては、指摘内容が重大なものであるだけに、結賀氏から謝罪が欲しいと伝えたものの、結局はIFからの謝罪のみに終わりました。
それ以上は強く言うこともできず、不安な気持ちを抱えながらも、事態は一旦収まったかの様に見られました。
(当時は、結賀氏とは直接のやりとりはなく、IF・DFを通じての間接的なやりとりでした。)

ところが2019年4月になって、彼女は弁護士を伴いIFやそれ以外の私の取引先に訪問し、膨大な量のトレース検証画像を持ち込んで、トレースを認定するよう求めてきました。
しかし、いずれの会社もトレース行為はないと判断して、結賀氏の要求を受け入れることはありませんでした。

6月に入ると、結賀氏は「トレースを認めなければ検証画像を公表する」と言って、私に直接コンタクトを取り、無理にでもトレースを認めさせようとしました。
私は、本心では強い憤りはありましたが、それ以上に大事になるのは避けたいという思いから、誤解が解けることに一縷の望みをかけて実演や直接の話し合いなどの先方の要望に応え、出来る限りの誠意をもって対応しました。
しかし、残念ながら相手の理解を得ることは出来ず、物別れに終わりました。

その頃から、結賀氏は「とある人物から迷惑行為(トレース)を受け続けている」と度々自身のブログやX(旧Twitter)で言及しており、翌2020年3月にその人物が暗に私だと示唆する投稿をしたところ、ネット炎上の状態となりました。

結賀氏は、ご自身の「検証画像」をネット上で公表することはありませんでしたが、X(旧Twitter)への投稿(削除済)において、私が話し合いの際に「トレス加工アイコンが自分たちの周りから指摘されない以上はずっとやる宣言」をしたと記載しました。
これは、私が確信犯的にトレースを繰り返しているモラルのない人間だと受け止められかねない内容ですが、当日の録音を何度聞き返しても、私はそのような発言を一切していません。
(むしろ、トレースをしていない事を一貫して主張していました。)
また、ご自身のブログでは「まったく同じ手口(条件・状況)/作画手法で別の方にターゲットを変えた」と結賀氏以外のイラストレーターへのトレース行為を示唆する内容もありました。

これらによって、私がトレースを悪いことだとも思っておらずトレースをしていて、しかも結賀氏以外からもトレースをしているといった誤認が広まった結果、国内・海外問わず不特定の人たちによって「余罪」探しが始まり、検証画像と称して私のイラストに結賀氏や他の無関係のイラストレーターのイラストが重ねられ、トレースの証拠だとして、謂れのない誹謗中傷に晒されることになりました。

このような状況で、既に受注したイラスト制作の案件が突然キャンセルされる事態に発展したほか、当時は精神的にもイラスト制作が困難な状況となりました。これ以上は見過ごせないと判断して、2020年4月には、弁護士を通じてトレースの指摘は事実無根であり訴訟を検討していることや、誹謗中傷への対応を公式に発表しました。



◆裁判について

その後、2020年10月に結賀氏を名誉毀損で提訴し、ようやく先日判決となりました。

裁判の内容については、弁護士の甲本さんからのリリースが詳しいため、そちらもご覧いただきたいのですが、私のほうで何点か補足をいたします。
→ 【代理人弁護士リリース

結賀氏は数百点のトレース検証画像を裁判に提出しました。
それらを精査したところ、私のイラストのほうが制作時期の明らかに早いものも多々ありました。
中には3年ほど早く私が発表したイラストなどもあり、ずさんな検証に基づいてトレースを指摘していたことが解りました。

結賀氏がどの程度の解像度で「検証」をしたのかという点は、実際に事例をお示しすることが分かり易いと思います。
次の2点の検証画像は、実際に私の取引先に結賀氏がトレースの証拠として持参し、トレースを認めなければこれを公表すると言われていた資料から抜粋したもので、もちろんこの裁判にも提出されています。

※上の検証画像は、どちらも私が描いたイラストのほうが先に制作されていたと認定されています。そのため、実際にトレースが起こりえないものです

これらの検証画像は「線の重なり」を示す目的で制作されたものですが、双方のイラストをそのまま重ねた画像は少なく、むしろトレース元とされるイラストを変形(拡大・縮小、回転、縦横比変更など)させて重ね合わせたり、顔のパーツ(目など)の一部分を切り取り・反転して重ね合わせているものが多数を占めており、無理矢理に重ね合わせたもののように感じました。
また、変形や切り貼りを繰り返してトレースを行うことは極めて手間がかかるもので、作画方法として非現実的に思えました。

裁判で意見書を書いてくださった美術大学の先生からは、検証画像は「実際に一致している線は極端に少なく、トレースでは無いことを逆に証明している」とのご見解をいただきました。
このように、専門家の目からもトレースでないことは明らかでした。

そして、裁判では様々な角度から検証がなされた結果、判決では私のイラストはすべて「トレースとは認められない」と判断されています。

◆『AMNESIA』の「抱き枕風イラスト企画」の件

結賀氏がブログ等で私の「前科」と呼んでいたゲーム『AMNESIA』での盗作疑惑についてもご説明します。
これは『AMNESIA』限定版(2011年8月発売)の特典小冊子で企画された「抱き枕風イラストコーナー」の6点中1点においてトレース行為があったという問題ですが、私が行ったものではありません。

この企画では、私とDF社のグラフィッカー数名が、キャラごとにイラスト制作を分担し、それぞれが自身の絵柄で自由にキャラを描くというものでした。
なお、私が担当したのはキャラ「シン」「ワカ」のイラストです。

発売後、キャラ「トーマ」のイラストに盗作があることが発覚しました。そのイラストはグラフィッカーの一人が作画したもので、その方は解雇されましたが、その際に身元保証人(両親)とともに会社を訪れて、盗作を認めて謝罪をし、一切の責任を取る旨の書面が残されています。

この件についても、私がトレース行為をしたという事実は無く、はっきりと否定いたします。

◆「原神」イラストの件

今年3月に、私が制作した『原神』の生誕祭向けのイラストに対し、今回の疑惑に起因したトレース疑惑騒動があった時には大変困惑しました。

今回の裁判にとって大事な時期だったので、裁判への影響を考えると直接言及はできませんでしたが、そのような中にあっても「これはトレース冤罪では?」と声を上げてくださった方が居て、とても助けられました。
結賀氏の件以降は自己防衛として画面録画をしていますが、この証拠を出すのですら勇気がいりましたので、背中を押して頂けた気持ちでした。

◆ おわりに

今まで、ずっと応援して下さった方々や、お仕事させていただいた企業様や担当者の方への感謝の気持ちは尽きません。
本当にありがとうございました。

長くかかった裁判ですが、判決を得るまで大変苦しい日々が続きました。
絵に正面から向き合えないほどの日が幾度もありましたが、一方で仕事を続け絵を描くことで、なんとか自分を保っていたように思います。
裁判も無事結審し、今後は落ち着いた環境で絵に向き合えるようになればと願っています。


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