【第546回】『ウルヴァリン: X-MEN ZERO』(ギャヴィン・フッド/2009)

 1845年カナダ、ノースウエスト準州。ジェームズ・ハウレットとビクター・クリードは実の兄弟のように育てられていた。ある日ビクターの父親トーマス・ローガン(アーロン・ジェフリー)がジェームズの父親ジョン・ハウレット(ピーター・オブライエン)を殺そうとする現場に遭遇し、ジェームズのミュータント能力が突如開花する。拳から出たかぎ爪でトーマス・ローガンを刺し殺した男は、絶命する直前、ジェームズの本当の父親は自分だと言い放つ。森の中を逃げるジェームズと兄のビクター。やがて1世紀以上に渡り、数々の戦場で戦った兄弟は南北戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦の時代をも生き抜いてゆく。ベトナム戦争末期、上官を殺した罪で兄弟は銃殺刑に課されるが、自然治癒能力を持った2人は生き永らえてしまう。そこへ軍人のウィリアム・ストライカーが現れ、ミュータントで編成された特殊部隊「チームX」へ2人をスカウトする。だが暴力の嵐に耐えかねたジェームズは部隊を脱退し、恋人のケイラ(リン・コリンズ)と共にカナダで平穏に暮らしていた。そこへまたしてもストライカーが現れ、兄クリードがXチームの構成員たちを次々に殺しているとジェームズに警告する。

『X-MEN』シリーズの旧3部作を経て、ウルヴァリンを主人公に製作された『X-MEN』シリーズのスピン・オフ作品。シリーズでは一貫して自らの記憶を探り続けるウルヴァリンだったが、このスピン・オフでは彼の悲しい過去に焦点が当たる。旧3部作でのジーン・グレー(フェニックス)との悲恋が、今作のケイラにオーヴァー・ラップする。どんなに力が強くても自然治癒能力を有していても、どこか欠陥のあるヒーローの造形は魅力的に見える。実の兄貴ビクター・クリードとの愛情と確執を明らかにしながら、決して民間人を殺すような暴力を肯定してこなかったウルヴァリンの造形が印象的に映る。ストライカーは凶悪なビクターを倒す方法として、アダマンチウムによって骨格を強化する「ウェポンX」計画をジェームズに持ちかける。ご存知のようにこの恐怖の人体改造計画が『X-MEN』シリーズのウルヴァリンの能力の強力な素地となる。それに対し、兄のビクターは能力的にウェポンXへの強化手術には耐えられない。このウェポンXの有無が選ばれし者であるウルヴァリンの運命を決定付けることとなる。映画はジェームズ→ローガン→ウルヴァリンへの変遷を駆け足で描きながら、ウルヴァリンの影の部分を照らし出す。

スリーマイル島で恐怖の「ウェポンX」計画を実行するウィリアム・ストライカー(ダニー・ヒューストン)の描写は『X-MEN2』と円環状につながっているが、記憶を消されたウルヴァリンは当然そのことを知る由もない。それ以上に『X-MEN』シリーズに勝るとも劣らない高スペックなミュータントたちが次々に現れる。ローガンと同じく永遠に年を取らないセイバートゥース、小刻みなテレポート能力を有するケストレル(ウィル・アイ・アム)、電気の通うものならばエレベーターから模型の電車、電球までなんでも操れるボルト(ドミニク・モナハン)、怪力のブレブ(ケヴィン・デュランド)、常人には到底不可能なスピードでの銃捌きを行うエージェント・ゼロ(ダニエル・ヘニー)など豪華な面子が揃っているが、今作の脇役キャラから驚くべき進化を遂げるのはウェイド・ウィルソンことデッドプール(ライアン・レイノルズ)だろう。戦闘前にもペラペラとおしゃべりが過ぎる減らず口の男は、ストライカーにより口を縫合され、痛々しい姿を晒す。実際に彼はウェポンXをも上回るウェポンXIに改造を施されるが、兄弟の友情の前にあっけなく破れ、高台の上から散って行く。ただこの時にウルヴァリンの姿を見ているはずのチーム・リーダーが、『X-MEN』では彼のことをすっかり忘れているのが解せない。旧『X-MEN』においてセイバートゥースが兄弟だという説明もなかった。ブライアン・シンガー以降の『X-MEN』シリーズはこの辺りの整合性に徐々に綻びが生じてくる。

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