【第544回】『X-MEN2』(ブライアン・シンガー/2003)

 ワシントンD.C.にあるホワイトハウス公館内。室内観光の案内係がリンカーンの自画像前で、平和と平等に関する説明をする中、突如ミュータントが襲来する。列を外れた1人の男を不審に思ったセキュリティが話しかけると、瞬間移動能力を有したミュータント「ナイトクロウラー」がもの凄い動きで大統領室へと迫る。1対20の戦いをもろともせず、大統領の心臓にナイフが突き刺さる瞬間、間一髪のところでセキュリティが銃を発砲する。ナイフの柄に書かれた「ミュータントに自由を」の文字。再びミュータントたちの立場が危機に晒されようとしている。一方その頃、プロフェッサーX(パトリック・スチュワート)のヒントを手掛かりにして、ウルヴァリン(ヒュー・ジャックマン)は極寒の地であるアルカリ湖を訪れるが、工業施設の面影が残る一方で、自らの出生の秘密になるような手掛かりは見つからない。「恵まれし子らの学園」に残ったローグ(アンナ・パキン)は、アイスマン(ショーン・アシュモア)というボーイフレンドとその親友パイロ(アーロン・スタンフォード)と3人でつるんでいた。少年2人に挑発されたパイロは自らの炎の奥義を威嚇するために使うが、プロフェッサーXに咎められる。新たな人間たちとの火種となるようなホワイトハウス襲撃事件に対し、プロフェッサーXはジーン・グレイ(ファムケ・ヤンセン)とオロロ・マンロー(ハル・ベリー)を召集し、ナイトクロウラーの捜索を命じる。

21世紀のフォックス社のドル箱シリーズとなったマーベル・コミック原作の旧3部作の第2弾。前作でマグニートー(イアン・マッケラン)を牢獄に封じ込めたことで事態を丸く収めたかに見えた「X-MEN」チームに対し、突如第3の見えない敵が顔を見せ、ミュータントたちに危機が訪れる。それと共にミュータント各人のロマンスの進展、ウルヴァリンの出生の謎を織り交ぜながら、あるミュータントの非業の死まで息つく暇ない怒涛の勢いで進行する物語は前作を凌ぐ。ウルヴァリン、サイクロップス、フェニックスの三角関係、ストーム、ローグという主要女性キャストを登場させた前作を序章とするならば、今作では彼らの下の世代のミュータントたちの台頭が描かれる。マグニートーが幽閉される間も、八面六臂の活躍を見せるミスティーク(レベッカ・ローミン=ステイモス)の暗躍ぶり、全能感を持ったプロフェッサーXの早々の退場は逆に、「X-MEN」チームの自立を促すことになる。今作の最後のボスであるかに見えたナイトクローラー(アラン・カミング)はあっさりと「X-MEN」チームに帯同し、その代わりに大統領を丸め込み、人間の力で「恵まれし子らの学園」への包囲網を敷いたウィリアム・ストライカー(ブライアン・コックス)という邪悪なボスが現れる。彼の目的はセレブロの機能を換骨奪胎したダーク・セレブロによるミュータント根絶計画を動機とする。

前作で敵役であるかに見えたマグニートーとの共闘作戦が、あっと驚く結末を迎えるクライマックスの謎解きは、ブライアン・シンガーの出世作『ユージュアル・サスペクツ』のちゃぶ台返しを彷彿とさせる。中盤のボビー・ドレイク(アイスマン)の家での弟との確執は、CG/VFXの多用以上にドラマツルギーを重んじるブライアン・シンガーの面目躍如となる。ローグとボビー、ジーンとスコットの戦いでは常に男よりも女の方が力が上回る。またウルヴァリンを翻弄するミスティークの描写には両者の関係性が見え隠れする。プロフェッサーXの助言は正夢だったと言わんばかりにデジャブのように訪れるクライマックス。ミュータント名レディ・デスストライク(ケリー・ヒュー)とのバトルはもう少し互角の展開を期待したが、ウルヴァリンの過去を追い求める力が彼の能力以上の力を導き出している。導入場面からミュータントしての力を過信し続けたパイロの決断は、『スター・ウォーズ』トリロジーのアナキン・スカイウォーカーを真っ先に連想させる。ラスト・シーンの書物T.H.ホワイトの『永遠の王』が示すプロフェッサーXとマグニートーの相克関係。プロフェッサーXの意味深な表情はヒロインの復活を想起したものにも見える。

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