【第301回】『暗戦 デッドエンド』(ジョニー・トー/1999)

 これまで『レイダース』や『戦火の絆』でタッグを組んだアンディ・ラウを主演に迎えた完全犯罪モノ。アンディ・ラウと言えば真っ先にウォン・カーウァイの初期作である『いますぐ抱きしめたい』や『欲望の翼』の繊細な演技が思い出されるが、今作では余命僅かとなった末期ガン患者となり、刑事役でこちらも90年代ジョニー・トー作品でお馴染みとなったラウ・チンワンと男と男の友情の果たし合いに挑む。

末期ガンで余命数週間と宣告されたチャン(アンディ・ラウ)は、ある目的のため完全犯罪を計画。彼はまず、大手金融コンサルタント会社に押し入り、人質をとってビルの屋上に立てこもる。人質解放の交渉人として重犯課のホー刑事を指名したチャンは、“これは、ゲームだ。72時間以内にオレを逮捕しろ”と宣言し、厳重に警備された現場から姿を消してしまう。ホーは独自に追跡を始め、チャンの目的が復讐だという事を知る。

今作では72時間以内に俺を逮捕しろというアンディ・ラウの挑発で始まった恐るべきゲームである。ラウ・チンワンはやり手の刑事だが、出世と責任転嫁しか頭にない堅物の上司と共に、香港の治安を守っている。彼は偶然にも交渉役に指名され、アンディ・ラウをあと一歩で逮捕というところまで追い詰めるが、肝心なところでアンディ・ラウに逃げられてしまう。

本作の魅力を決定づけているのは、余命いくばくもないが、計画は用意周到なアンディ・ラウの完璧な魅力であろう。彼は末期ガンで、吐血してしまうほど体調は悪いが、最後のゲームのために用意周到な計画を練り上げ、常に警察の二手三手先を読んでいる。狙撃手も人質も刑事さえも煙に巻き、しまいにはバスで偶然出会った黒髪の女まで虜にしてしまうのは、四大天王と呼ばれた美形俳優の面目躍如だろう。彼に対するのは、2枚目というよりも明らかに3枚目の食いしん坊ラウ・チンワンである。刑事として優秀ながら、彼は上司とは対照的にあまり出世欲がなく、とにかくよく食べる男である。自分の署の部下たちはワーカホリックな彼に対してあまり協力的ではない。だからこそ一匹狼の優秀な刑事は、アンディ・ラウの用意周到な計画の片棒を担がされる羽目になるのである。

やがてアンディ・ラウの目的がダイアモンドであると知ったラウ・チンワンは、刑事を煙に巻きながら、まるでバディ映画のようにアンディ・ラウと息のあった関係を形成し始める。ジョニー・トー映画によく出て来るヤクザの組織はここでは脆弱な存在で、いつもの顔ぶれが今作では何かの間違いのように簡単にアンディ・ラウに騙されていく。その様子は痛快というよりはただただ呆れ果てるばかりだが、エンターテイメント映画の悪役像をしっかりと踏まえている。

ラストのボーリング場での馬鹿し合いは少々度が過ぎているし、アンディ・ラウの女装もまさかそこまでといった感じであまり笑えない。ヤクザがヤクザとして機能しない以上、考えられる結末はおそらくそんなところだろうと容易に想像が付く。しかしながらジョニー・トーが最も得意とする敵味方の枠を越えた男同士の友情や、主人公と行きずりの女との淡い恋はきっちりと描かれ、スタイリッシュなアクションもだれることなく進んで行く。余命いくばくもない男が取る行動としては荒唐無稽であるが、そこには最後にオチもついている。何よりジョニー・トーの映画は脚本の粗探しをしながら観るものではない。今作の大ヒットを踏まえ、数年後には『デッドエンド 暗戦リターンズ』として帰って来るのである。

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