【第363回】『さらば あぶない刑事』(村川透/2015)

 シリーズ7本目にして結びとなるファイナル。最初のドラマ化は確か86年だったからそれからちょうど30年が経過し、まだ30代に突入する若さでエネルギッシュな魅力を炸裂させていたタカこと鷹山敏樹(舘ひろし)とユージこと大下勇次(柴田恭兵)は共に4日後に定年退職を迎えるという設定になっている。ついでにカオルこと真山薫(浅野温子)も同期入署であり、彼らと共に長い公人人生を終えようとしている。これまでのドラマシリーズや映画7本を観るにつけ、横浜に40年近く骨を埋めることになった3人の人生はまさに奇跡と言えやしないか。カオルはともかくとしても、大きな転勤や配置転換もなく、デスクワークに甘んじることもなく、一貫して現場人生を歩める警察官の数となれば天文学的な確率だろうし、失礼ながらトオルより出世しない2人の姿を観ることになるとは内心驚きもした。これまで彼らが検挙した犯罪者の数を見れば、貰っている勲章の数など両手でも足りないレベルになるが、それでも彼らは町のゴロツキどもを検挙する都会の番人として昔も今も横浜にいる。我々はあらためてそのことに喜びを禁じ得ない。

今作は導入部分からまるで30年目の同窓会のような様相を呈する。冒頭、マイケル・ジャクソンのような華麗な足さばきを見せる恭サマが牢獄に留置されているタカに会いに行く。そこでは銀星会の残党で今では新興やくざ・闘竜会の幹部である伊能を追うタカがチンピラに扮し、伊能の部下を騙し、彼が仕切るブラックマーケットに踏み込む算段をつけるのである。60歳になっても相変わらずこのような違法スレスレのやり方で捜査をする彼らへの警察署内での目は厳しいはずだが、どういうわけか彼らの捜査姿勢に横浜の警察は目をつぶっている。かつて同僚だったパパや落としのナカさんに彼らが律儀に会いに行く場面や、ボディビルダー並みに体を鍛えた谷村との再会も従来のファンには嬉しい。近藤課長やハルさんは惜しくも天国へと旅立ったが、瞳ちゃんや岸本は健在である。トオルとの息の合った掛け合いは相変わらずで、課長とヒラの間柄になっても変わりない。おまけに松村署長や、びっくりするようなポジションへと昇進した上司の深町も一瞬だけ姿を見せる。

伊能の死により各国マフィアの緊密なトライアングルが崩れ、新たな権力闘争が起きるという便宜上の物語の骨子は一応あるにはあるが、あまり真に受けてはならない。むしろ物語はタカの恋人夏海(菜々緒)がアメリカ領事館に務めていた頃にキョウイチ・ガルシア(吉川晃司)という男と接点を持っていたことに端を発するタカとキョウイチのライバル関係に重きを置く。中南米の犯罪組織BOBのボスであるキョウイチが、横浜の権力闘争のボスと同一視される一連の展開もあくまで予定調和の域を出ない。ユージがかつて更生させた不良少年川澄(恭サマ独特の台詞回しは「カズミ」にしか聞こえない)との伏線も、タカと夏海のエピソードにより、手持ち無沙汰になったユージのために書き下ろされたもう一つの伏線レベルにしかなっていない。79歳になった村川透もパソコンのメール送信や携帯の位置情報、危険ドラッグの描写など近年のリテラシーには興味を示す素振りは見せるが、それもあくまで物語の脇に逸れていってしまう。むしろ今作で村川透が描きたかったのは、タカとユージの向こう見ずな英雄譚である。予告編でもユージの象徴的な語り「敵の数と弾の数がどう考えても合わない」にも象徴的に表されていたように、彼らはどんなに無謀な状況でも、死のイメージの中に自分たちの体を預ける。その意味では村川監督の明らかな『明日に向かって撃て!』へのオマージュも合点が行く。だがあの映画がなぜアメリカン・ニュー・シネマを象徴したのかを考えれば、クライマックスの展開もキョウイチの随分あっさりとした死も納得がいかない。前半部分ではあれ程猛威を振るったキョウイチとカトウの随分と簡単な最期、あれはないだろう 笑。

オリジナル・キャスト達の息の合ったアンサンブル、カオルのタカへの淡い恋心など実に味わい深い展開を伏線に張り巡らせながらも、今作がアメリカの『スター・ウォーズ』や『ダイ・ハード』や『ロッキー』のように長年ブランド・イメージを保持する人気シリーズにならなかったのはいったい何故なのか?それは定年退職を迎えようとしている2人の活躍が、横浜エリアの治安維持にはつながりながら、一貫して世代交代に繋がらなかったことに尽きる。シリーズとしてのステップ・アップに必要不可欠な結婚・出産・子育などの要素がここにはまったくない。かつてシリーズに出演していた関口知宏や佐藤隆太、水川あさみなどの新人達がことごとく育たず、一方で窪塚俊介のような横浜港署の汚点となるようなモンスターまで生んでしまい、タカとユージがトオルに並ぶ逸材を育てられなかったのは今降り返っても痛い。思えば初期のシリーズでは近藤課長の存在が、2人を成長させるメンターとして存在していたが、中条静夫の死によりそれも叶わなくなった。今作があくまで舘ひろしと柴田恭兵の2枚看板の魅力で持っているのは明らかだが、もう少し周辺人物にも種を蒔くことが出来ていれば、シリーズのフィナーレはより一層素晴らしいものになった気がしてならない。しかし後半の浅野温子のコギャル・メイクは同窓会ならではの渾身のギャグだと思い、観なかったことにしたい 笑。あのスクリーンの凍てつくような寒さを味わうだけでも貴重な体験になるだろう。

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