【第557回】『ゴーストバスターズ』(ポール・フェイグ/2016)

 ニューヨークにある由緒正しき屋敷であるオルドリッジ邸。19世紀に建てられた歴史的建造物内部では、観光客をターゲットにした内覧会が行われている。何百回も話したであろうガイドの口上に耳を傾ける客たちは、幽霊の仕業とされる置物の落下に震え上がる。ガイド曰く、屋敷ではかつて幽霊が出て、人々を殺したと言い伝えられており、幽霊伝説が屋敷の呼び物になっているのだ。今日も1日の仕事を終えたガイドは自分1人で屋敷に戻るが、幽霊の惨劇に遭い絶命する。その頃、コロンビア大学で教鞭を取る物理学博士のエリン・ギルバート(クリステン・ウィグ)は、終身雇用の審査を受けていた。だがオルドリッジ邸からある調査依頼が舞い込む。エリンはかつて幽霊を見て、400ページ以上にも及ぶ学術書を書いていた。しかし科学的な根拠に基づかない書物を書いたことは終身雇用調査にはマイナスであり、エリンは当時一緒に本を書いた高校時代の親友アビー(メリッサ・マッカーシー)の元を訪れる。

『ゴーストバスターズ』シリーズの実に27年ぶりの3作目。21世紀に入ったあたりから、前2作を監督したアイヴァン・ライトマンは続編に着手し、盟友とも言えるビル・マーレイ、ダン・エイクロイド、ハロルド・ライミスに出演のオファーを出す。だがビル・マーレイはこの脚本では俺は出ないと早々に降板。その後何度かの説得を経て、登場10分で殺され、幽霊側で化けて出て来るという適当な条件でOKを出すが、そうしている間にトライアングルの一角であるハロルド・ライミスが69年の生涯を閉じる。このライミスの訃報がライトマンやマーレイ、エイクロイドのモチベーションを削いだのは云うまでもない。そこから製作側であるソニー・ピクチャーズはライトマンに続編ではないリブート作を粘り強くオファーする。こうして様々な紆余曲折を経て、ゴーストバスターズは男性から女性に変わり、27年ぶりに見事な復活を果たす。エリン・ギルバートのコロンビア大学からの一方的な解雇の描写に、『ゴーストバスターズ』のピーター・ヴェンクマン博士(ビル・マーレイ)を想起せずにはいられない。うだつの上がらない教授たち、大して役に立たない受付係、バスターズに目くじらを立てる市長の側近というシンプルな構図はアイヴァン・ライトマンのオリジナルを踏襲しながら、男顔負けの幽霊退治に向かう4人の姿が微笑ましい。

今流行りの「理系女子」=(通称リケジョ)を扱いながら、幽霊に真摯に向き合う彼女たちは徹底して異端児扱いされてしまう。旧作で消防署跡地をテナントにした華やかなりし日のニューヨークの街並みは、皮肉にも地価の高騰を生み出し、彼女たちを場末の粗末な中華料理屋の2階に追いやる。そんな日陰の彼女たちを励ますように登場するIQの低いケヴィンを演じるクリス・ヘムズワースの怪演ぶりが素晴らしい。『白鯨との闘い』や『スノーホワイト/氷の王国』では英雄を演じてきた彼が、一転して極度に鈍感でバカな男を演じる様子は、旧作のアニー・ポッツ以上の存在感を放つ。ジェームズ・フランコやセス・ローゲンを輩出したカルト・コメディ『フリークス学園』を生み出したポール・フェイグの演出も随所に映画史的な引用を散りばめる。スティーブン・スピルバーグ『JAWS』、スタンリー・キューブリックの『シャイニング』、『非情の罠』、パトリック・スウェイジについて語る痛烈なブラック・ユーモアはポール・フェイグの面目躍如となる。今作とは直接関係ないかつてのバスターズたちの友情出演にもニヤリとさせられる。幽霊否定論者のビル・マーレイ、ホテルの受付係のアニー・ポッツ、タクシーの運転手のダン・エイクロイド!!、何とパティ・トラン(レスリー・ジョーンズ)の葬儀場の父親役のアーニー・ハドソン!!、残念ながら俳優業を引退したリック・モラニスは出演しないが、まさかのヒロインの再降臨には懐かしさがこみ上げた。

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