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【Basic Class 2021】存在をもとにするビジネスの姿とは

こんにちは!Community Based Academy サポートナビゲーターのりょうこです。ついに先月から開講した2期目のBasic Classですが、こちらの記事ではちょうど1年前の今頃に開催した昨年のProgram2を振り返りながら、リードナビゲーターの大室悦賀先生と探求した問いを深めたいと思います。

今回ご紹介するリードナビゲーター

今回ご一緒した大室先生は、京都や長野をはじめとする全国各地でソーシャル・イノベーションを生み出す理論と社会実装を行き来しながら、哲学や生態系学などを融合した視点で経営学を常にアップデートし続けている稀有な研究者です。私自身コーディネーターとして参画する京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)の所長でもある先生は、Community Based Economyを呼びかける以前から長く私たちの活動の理論的・実践的支柱となってくださっています。


京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)のウェブサイトより


見えていない世界を垣間見ることから

課題解決というとき、私たちは現在完了形の「見えている世界」しか捉えていません。残念ながら現在進行形の「見えていない世界」を捉えていないんです。イノベーションというのは、見えていない世界を垣間見るところから始まります。それらをどのように捉えていくのか、その方法としてのイノベーションの手法、その担い手としてのアントレプレナー、そしてその器としての企業のあり方を探求してほしいというのが今日お伝えしたいことです。 

 Academy Basic Class 2020 Program2_講師トークより抜粋

現実社会はとても複雑で曖昧であるにもかかわらず、これまでの企業経営では合理的で科学的な側面が強調されてきたことに問題の出発点があるという指摘からお話は始まりました。資本に転換できないものを排除するのが資本主義の原理原則。自然資本や高齢の方、障害をもった方などをどんどん排除しておきながら、それらを社会課題だと捉えて資本主義のメカニズムの中で解決しようとすること自体がナンセンスだということ。認識の枠が外され、冒頭からハッとさせられます。

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個人の資本化こそ最大の問題

一番大きな問題は、「個人の資本化」が起きていることです。個人を機能や特徴に分けてしまって、資本として使える部分と使えない部分を切り分けていく。
(中略)「二重解体」という考え方に基づいて、個人を要素分解する”下方解体”がなされ、その人の文脈や歴史観といった背景を抽出する"上方解体"がなされていきます。個人の一部分しか扱わず、特徴だけを抽出してサービス提供や商品開発がなされ、労働という仕事を当てはめていくわけです。本来対象は常にそれ以上のものを隠しもっており、あらゆる関係から退隠している。要は「還元不可能な状態」が本来は「存在者」なんです。

たしかに日本の多くの企業組織では、プライベートな面や個人としての感情を持ち込むことが排除されてきました。企業組織の中で個人は存在しておらず、会社に何をもたらしてくれるのかという観点で、効率的に使えるところだけを切り出されているような状態だということです。また、教育現場でも日本の場合、自分は何者なのかというアイデンティティを問う個として存在できるような教育がされてこなかったこともよく指摘されています。

存在から捉える、企業と社会の融合

最近では、 感性やアート、右脳を用いた「発想法」がビジネスの場面で注目されていますが、大室先生は、経験に依存せず、個人も経営も解体せずに「実在を捉える=存在をまるっと捉える」ことが重要だと言います。二元論を脱却し、見えている世界だけでなく、曖昧でよく分からない部分も含めて存在論的に捉えない限り、企業と社会の融合はありえないということ。そして、曖昧な世界は、頭や五感では捉えきれず、人間として本来備えている「身体値」からどう捉えていくのか、が大事だと。脳の働きとしての情報処理自体もバイアスがかかっており、情報そのものもうまく認識できていない私たちは、生存や未来にかかわる情報を捉える「内臓感覚」を取り戻す必要があることを説きます。
その後、話はビジネスの役割へとつながっていきます。

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2020年11月7日CBA Basic Class講義スライドより

経済的な数値だけでは捉えられない価値を、見えないものをどう見るのか。そこを捉えてイノベーションや新しいビジネスを生み出していくのが企業であり、コミュニティであるということです。一番理想なのは、国民の数だけ会社があったら面白いなというふうに、究極的には思っています。”実在”として存在できる規模で小さな会社をたくさんつくって、自然とコラボや協奏(オーケストレーション)していくシステムにどう変えていけるか。(中略)見えていないものを、いろんな角度から見ていくことによって、見えていない世界を徐々に小さくしていく。それが結局はビジネスの役割、企業の存在理由ではないかと思っています。

コミュニティの最小単位としての企業

大室先生は、自分に合う企業を選ぶように、これからは、自分に最もフィットしたコミュニティを選択して居住する動きがますます広がっていくと、続けます。経済評論家の内藤克人さんが提唱する「FEC自給圏」とは、食糧(Foods)とエネルギー(Energy)、ケア(Care=医療・介護・福祉)をできるだけ地域内で自給することが、コミュニティの生存条件を強くし、雇用を生み出し、地域が自立することにつながるという考え方ですが、この3つを行政ではなく企業が担い、企業どうし連携しながら異なる価値観のコミュニティが存在するようになると面白いと。

ローカルで異質な世界観・テクノロジー・時間をもったコミュニティが複数存在することで、加速主義(社会的変革を生み出すために現行の資本主義システムを拡大すべきであるという考え)が前提とする、西洋的かつ単一的な未来のあり方をばらして「未来を複数化」させること。存在論といった哲学から身体値・内臓感覚の話まで、どこに着地するのか最後まで見えなかった大室先生のお話の中で浮かび上がってきたのは、まさにコミュニティに根差し、自由でやさしい経済をつくる”Community Based Economy”の世界観そのものでした。

ちょうど今週末に今年のBasic Class Program2 が開講されます。1年を経てさらに探求を深めた大室先生と、今年の参加者(メイカー)たちとどんな学び合いの場になるのか今から楽しみです。
今期のAcademyプログラム内容はこちらから!
https://community-based.org/basic-class/