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「HDD再成長 大容量化でソニーや日東電工に恩恵」に注目!

HDD再成長 大容量化でソニーや日東電工に恩恵 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

処理速度が速いソリッド・ステート・ドライブ(SSD)にシェアを奪われてきたハードディスク駆動装置(HDD)が土俵際から復活しようとしています。記録容量を大きく増やす革新技術が実用化の段階に入りました。生成AI(人工知能)の普及などでデータセンター向け記憶装置の需要が急増するタイミングと合致し、HDD市場は再び成長軌道に乗ろうとしています。

「ディスク1枚当たりの記録容量は、これまで2.4テラ(テラは1兆)バイト(TB)だったが、今年3TBに、2025年は4TB、さらに2028年ごろに5TBへ急増する」

米大手HDDメーカー、シーゲイト・テクノロジーの日本法人、日本シーゲイト(東京・品川)の新妻太社長は今後の見通しをこう話します。さらに8〜10TBにする研究も進めているといいます。HDDには日本メーカーが関わっている部品・素材も多く、市場の再拡大は日本にとっても追い風になります。

シーゲイトが導入する新技術は「熱アシスト記録(HAMR=ハマー)」と呼ばれます。HDDの記録密度を高めるためには、ディスクの磁性粒子を小さくする必要がありますが、そうするとデータ記録後の保持が難しくなります。HAMRはレーザー光を使い、ディスクを一時的に加熱することで、この課題を乗り越えられるといいます。

シーゲイトがHAMRの開発に取りかかったのは2000年代初頭。原理は業界でも知られていましたが、記録媒体の研究やセンサーの開発など多様な技術開発を長期にわたって行ってきました。同社は2024年6月までに1枚の記録容量が3TBのディスクを10枚搭載したHDD(容量計30TB)を100万台生産する予定で、大容量品の量産化で競合他社を引き離しにかかります。

かつてパソコンなどの記録媒体の主役だったHDDは、ここ10数年余りで、データの書き込み・読み出しが速いSSDに急速に取って代わられてきました。市場調査会社のテクノ・システム・リサーチ(TSR、東京・千代田)によると、デスクトップパソコン用の記録媒体では2016年にはHDDが90.5%を占め、SSDは9.2%にすぎなかったですが、2020年に両者のシェアは逆転し、2023年はSSDが87.5%、HDDは11.9%でした。

ノートパソコンでは、一足早く2018年にSSDがHDDを上回り、2023年は94.5%をSSDが占めました。同様に「クラウドに使うサーバー用の記憶装置でもSSDにかなり置き換えられてきた」(TSRアシスタントディレクターの楠本一博氏)。

かつてのフロッピーディスクのように記録媒体としての役目を終えていくのかと思いきや、大容量化の新技術によって息を吹き返そうとしています。大容量化するHDDが活躍する舞台となるのは、「ニアライン」と呼ばれるデータセンター用などの記憶装置です。

この分野ではデータの読み出しなどの速度がサーバー用ほど速くなくてもよく、記録容量の大きさやコストの低さが重視されることから、HDDがまだ優位を保っています。

HDDの記録容量が2倍になるということは「同じ専有面積でデータセンターの記録容量を2倍にできる」(日本シーゲイトの新妻社長)ことを意味します。データ量1ビット当たりで見たデータセンターの建設・運用コストや消費電力は大きく下がり、データセンター投資が促進されることにもつながりそうです。

大容量化技術が実用化の段階に入ることで、データセンター用ではHDDはSSDより高いシェアを維持していくというのが業界の一般的な見方となりました。シーゲイトに対する投資家の評価も一変し、2022年末に1株50ドル台前半で推移していた同社の株価は足元で100ドル近くまで回復しています。

日本企業にもHDD大容量化の恩恵は及びます。例えば、ソニーグループのソニーセミコンダクタソリューションズ(神奈川県厚木市)は、熱アシスト記録技術に使う基幹部品の半導体レーザーを開発しました。

容量拡大のために「ナノ(ナノは10億分の1)メートル級の照射精度を実現する技術開発に努力してきた」(谷口健博アナログデバイス製品部統括部長)といいます。2024年、タイ工場に生産ラインを新設し、既存の生産拠点である白石蔵王テクノロジーセンター(宮城県白石市)と合わせて5月には生産量を数倍に引き上げるといいます。

HDDに組み込まれる回路基板で高いシェアを持つ日東電工にとっても収益機会が拡大します。とはいえ「大容量化は回路の配線密度が上がるなど、要求精度は高くなる」(篠木佳史ストレージ回路材事業部長)だけに、技術開発力が改めて問われます。

社会のデジタル化が進み、AIも普及する中、世界で創出・利用されるデータは飛躍的に増えています。技術革新によって息を吹き返そうとしているHDDは、そうした膨大な量のデータが行き交う社会を支えるインフラの一翼を担うことになります。

日東電工は「精密回路付き薄膜金属ベース基板 CISFLEX」という、微妙なバネ特性によって磁気ディスク上わずか10nmの位置に磁気ヘッドを浮上させ、HDDに情報を読み書きさせる信号を伝送する重要な役割を担っている製品を持っています。

これは、1988年、Nitto(当時は日東電気工業株式会社)のある若手技術者が、千葉大学へ派遣されたことから始まります。全く新たな材料系と感光化機能を用いた、新規感光性ポリイミドの技術を開発し、1991年に千葉大学から戻った後も、研究を重ねます。1992年3月16日のことでいた。その日も深夜まで実験をしても、どうしてもうまくいかず、「今日はもうこれで帰ろう」と露光後のサンプルを乾燥機に入れ、そのまま煙草を吸いに行ったそうです。戻ってくると出来ていたそうです。

その後、アメリカから帰ってきたばかりの営業マンと技術者が一緒になり、全国のお客様を回ってHDD用サスペンションにターゲットを絞り全社プロジェクトで1998年に製品は完成しました。

技術から新製品を生み出すことは、研究者冥利に尽きることではありましたが、現実はリスクが大きい。しかし、材料技術開発から量産化までやり遂げた技術者には、やっている間に不安はあまりなかったと言います。
「技術には自信がありましたから。それに、自分が執念を持って取り組んでいたからだと思うのですが、困ったときには多くの人が助けてくれました」。
連日連夜の激務も、「自分でやりたいことをやっているので、僕は楽しかった」とも言います。

こんな社員が切磋琢磨している日東電工に今後も期待しています。

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