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渡せなかった卒業証書

この時期になると思い出す話がある。
私は娘の小学校のPTAを5年間やっていたが、ある年、校長先生が変わることになり、新旧の校長を招いて歓送迎会を行った。
新しい校長先生が開口一番
「実はこの学校に赴任したくなかったんです」
一同一瞬「え?」と驚く。
校長先生は赴任したくなかった理由を語り始めた。
以前いた学校に病気でずっと入院している児童がいたそうだ。
校長先生は度々お見舞いに行っていて、切り絵が得意な校長先生は必ず切り絵を持っていってあげていた。
残念ながら、そのお子さんは亡くなってしまったが、葬儀に参列して驚いた。校長先生のあげた切り絵が小さな棺にびっしりと貼られていた。校長先生は涙が止まらなくなった。
小学校では在校中に亡くなったお子さんに、お子さんが卒業する予定だった年に卒業証書が贈られるそうだ。あと1年、前の学校に居たら自分がその子の卒業証書を渡せた、渡したかったと言われていた。
その話を聴いていた私たちも皆、涙涙。
なんて素敵な校長先生が来てくれたのかと思った。

赴任後、校長先生は休み時間になると校長室を解放し、児童に切り絵を教えていた。
休み時間が終わると教頭先生が掃除機を持って掃除に来るので、教頭先生には本当に申し訳ないと笑われていたが。
もうその校長先生はいないが、校長室のドアはいつでも開けておく、休み時間は児童に解放して切り絵教室を開くという取り組みは、今の校長先生にも引き継がれている。

毎年、卒業シーズンになると校長先生の話を思い出し、校長先生も同じように桜を見てるんだろうなと思う。

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