見出し画像

虚言癖

薄々気付いてはいた。
話の全てが大袈裟で、俄には信じられないものばかり。
そして何の負けず嫌いなのか、人の話に必ずマウントを取ってくる。

「最近、指の調子が悪いんだよね」
「私なんか手の指も足の指もボロボロだよ」

「なんか最近、虫が苦手じゃなくなった」
「私なんか昔から平気だよ。なんなら蛇だって触れるし」

彼女と話していると、とにかく疲れる。
そう言えば、彼女が笑ってるところ見たことあったかな?いつも仏頂面で、威圧感を漂わせている。
そして、口から出てくるのはマイナスの話ばかり。

先日、彼女の勤め先の会社説明会に義理で参加した。お礼にと近くのレストランでランチをご馳走してくれた。そこには営業所のマネージャーさんも来た。3人とも同い年で、しかも彼女とマネージャーさんは小中学校の同級生だった。

彼女よりマネージャーさんとの会話が盛り上がった。彼女は肘をついて相変わらずの仏頂面でつまらなそうに聞いている。
そして時々会話の言葉尻を捕まえては、あからさまな嘘をつきはじめる。
しかし、いつもなら煙にまかれる私も、今日は彼女の同級生という強い味方がいる。
マネージャーさんも彼女の虚言癖には気付いているようで、彼女が話し始めると「困った」と眉が動くのがわかる。

私は高校時代、ある有名人と同じクラスだった。しかし既に芸能活動をしていたので登校したのはたった1日で、転校してしまったのだが。
その話題になると彼女が突然、最近、スコアブックに彼の名前を見つけて懐かしかった言い始めた。
有名人の彼は中学時代バスケ部にいた。そして彼女もマネージャーさんもバスケ部だったらしい。すかさずマネージャーさんが「なんで?」と不思議そうに訊ねる。

「なんで男バスのスコアを貴女がつけてるの?」
「え?頼まれてつけたことあるから」

「え?でもおかしくない?うちの男バスそんな強くなかったから地区予選勝ち進んだことないよ、地区予選勝ち進まないと、彼の地区とは対戦出来ないよ?」
「え?でも対戦したことあったよ、あったじゃん、覚えてないの?」

嘘である。

彼女はどんな嘘も正々堂々とポーカーフェイスで言ってのける。
他人は嘘だと気付いても、どうやら当の本人は気付いてないらしい。

こんな話もあった。
彼女が実印を無くしたと話しはじめた。義母が家に来て実印を盗もうとするので、自分の実家に預けたが無くなったと。

「え?お義母さんはあなたの実印を何に使うの?」
「義母は私たち夫婦を離婚させようとしていた。離婚届けも何十枚も書いた。離婚届けに勝手に押すために盗もうとしていた」
「え?離婚届けなんて三文判でいいのに。実印押す場所なんてあった?」

嘘である。

突っ込まれ、窮地に立たされても、彼女の仏頂面は揺るがず、嘘に嘘を重ねた道を作り逃げ切る。ある意味大したものである。

他にも…とキリがないのでやめておく。

虚言癖は病気ではないので治療法はなく、相手をするこちら側が対策を取らねばならないらしい。距離をおく、ひとりで会わない、相手の話を繰り返してみるなど。

しかし、リアルな人間関係はなかなかバッサリ切れるものではない。

これからは今日はどんな嘘が飛び出すのかな?と彼女の虚言癖を楽しみたいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?