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【5日でクビ】スナックで働いた話④

つづきです。


■ポンコツお嬢さん

アルバイト二日目にして、わたしは一応、独り立ちをすることになった。


ママはすでに、私のことをお店に抱えていたくないのか、面と向かって

『お前の友達に器量のいい子はいないのか』

と聞いてきた。

正直かわいい友達なんて死ぬほどいるが、なんか悔しいから

『いない。友達はみんなブス』

と答えた。

この日は、公認会計士のお兄さんの席についたのだが、全く盛り上がらない。
酒を飲んでいないのも大きい。わたしは客を騙すようにノンアルコール梅酒をグビグビのみ、『やたら強いねぇ』と言われたりした。


公認会計士に、キープしたボトルでハイボールをつくるようにいわれ、わたしは尋常ではない量のウイスキーを注ぎ、『ちょちょちょ!!!ねぇ!!!』と止められる。



酒さえまともにつくれない。




『へぇ、無職なの、転職考えてるんだ』

『そうなんです。なにせ無職なので、のしかはかる税金を払えないのです』

『じゃぁ、こんなところで働いてる場合じゃないんじゃないの?』

『そうなんです』

私達が、そんな毒にも薬にもならない話をしている間に、となりの席では20歳の女の子がお客さんとキャハキャハと笑っている。

聞き耳をたててみるが、実に中身のない話をしている。それでもその女の子は、まるでお笑いライブをみているかのごとく、にこにこと笑い続けている。
そしてなにより笑顔がかわいい。

すごいなぁ、と思った。

わたしがぼーっとしていると、その公認会計士はとなりで、


『おさわりってダメ?』


ときいてきた。

だめに決まっている。


しかしとなりの女の子は太ももをさわられて、『ダメッ!』と可愛く、手を払ったりしている。

なんというか、ここにはスケベな男と、それをかわいく拒絶できる女の子しかいないのだろう。
会社だったら一発降格だなぁ。
それをここの女の子たちは笑顔で冗談にしてくれるのだ。


■やばい男たち

その日、常連さんが帰った頃、はじめて利用するらしい男三人組があらわれた。『いまいる女の子全員つけて』という。


ママは即座に、『しおりはこっちで、掃除してて』といった。わたしは物陰にかくれるように、そっと身を潜めた。


その男たちは、いわば嵐だった。


とんでもない酒の飲み方をして、でも女の子には全く飲ませない。そして、体をドサクサにまぎれて触りまくり、大声でうたって踊って、最後には客同士で喧嘩を始め、女の子に対しても大声で切れ始めた。


それでも、女の子たちはニコニコと笑って、『お客さんだめだよ〜』といっている。

私は絶句した。こんな人たちが世の中にいるのか、というカルチャーショックと、その人たちにも笑顔で接客している、大学生そこそこの、年下の女の子たちに。


わたしはいいところのお坊ちゃんお嬢さんの集まる高校にいって、これまた金持ちの道楽みたいな大学に進学して、つまり高いお金は親が払ってくれるような、バイトのバの字も知らないひとがたくさんいた。
(※わたしはごくご普通の一般家庭うまれだけれど)


周りで、キャバクラとか、クラブとか、そういうところで働いているひとはいなかった。

会社の先輩や同僚の男たちは、接待でつかうキャバクラやクラブの話をしていたけれど、わたしは当然そんなところに行ったことはない。

心のどこかで、やっぱりちょっと、今回働くにあたって、水商売かぁ、と思ってたところはあった。

お酒を飲んで話して高額なお金を貰って、そんなお仕事に縁はないと思っていたし、なによりそこで大枚をはたくひとの気持ちなど、これっぽっちもわからなかった。


でも、目の前で起きているあまりにもハメを外している礼儀のない男たちと、それに笑顔で付き合っている女の子をみたら、知らない世界を除いた驚きで、なんとも言えない感情になった。


そして、『騙されて働いているだけだから』と客に適当な受け答えをしてる自分が、ものすごく小さく感じた。


プロだなぁと思ったし、すごいなぁとおもった。


それにしても、ママは危機察知能力がすごすぎる。
しばらくすると、ママは席にいって、『お客さん、そんな飲み方するなら帰って』といった。


彼らは当然ながらキレて帰って、嵐は来たときと同じように、あっという間に消えていった。

店はしんと静かになり、女の子はメソメソとつらそうにしている子もいた。

ここは社会で、でも会社じゃなくて、女の子には、ママしか守ってくれる人はいないんだなぁ、と思った。


そして、わたしは翌日から、しっかり働くか、という気持ちになった。


つづく


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