第五教会関連オブジェクトSCP-2155「アステカ亡命政府」について
難解で意味不明さが際立つ第五教会関連オブジェクト。今回はSCP-2155「アステカ亡命政府」について、初学者の立場から解説を試みます。
出会いのきっかけ:SCP-3519「静かなる日々」
そもそも、大多数の方にとってSCP-2155との出会いのきっかけは、SCP-3519「静かなる日々」ではないかと思います。
SCP-3519も第五教会関連オブジェクトであり、財団の第五教会無力化作戦である「オペレーション・スターゲイザー」についても言及があるのですが、詳細は割愛して、ここでは同報告書におけるSCP-2155に関する言及にフォーカスしてみます。
報告書におけるSCP-3519の実例として、アメリカで放送されたニュース番組におけるインタビューログが掲載されており、この中に以下のようなセリフがあります。
文中の「テノチティトラン亡命政府」の箇所がSCP-2155へのリンクとなっています。
この時、多くの方が「SCP-2155ってなんだろう?」とリンク先に飛んでみて、SCP-2155の、言い換えれば第五教会関連オブジェクトに共通する意味不明さに面食らったのではないかと思います。
SCP-2155の報告書を精読する
前置きが長くなりましたが、ここからは本題のSCP-2155の報告書を見ていきます。
特別収容プロトコル
特別収容プロトコルを見ると、"復古アズトラン"、”新たなるテノチティトラン”、”セムアナワク”といった、特定のワードについてインターネット監視を行うこと、軽度の感染媒介者が発見された際には、アウトブレイク阻止のために記憶処理が認可されている旨が記されています。
特定のワード監視に、アウトブレイク阻止のための記憶処理。なんとなくミーム性質がありそうな感じですね。
なお、「アストラン」は、アステカの語源となった言葉で「楽園的な場所」を指しています。
また、「セムアナワク」は、は古代メキシコにおける「完全に水に取り囲まれたもの」を意味しており、テノチティトランが湖に囲まれた孤島に成立していたことに言及していると思われます。
説明
特別収容プロトコルの項で想像したとおり、やはりミーム災害のようです。オブジェクトは曝露者に「テノチティトラン亡命政府(SCP-2155-1に指定)」という、存在しないはずの亡命政府を信じ込ませる性質を有しています。
テノチティトランとは、1521年にスペインによって滅ぼされたアステカ帝国の首都のことです。取り消し線の部分はこのことに言及しているのですが、なぜか博士によって取り消されていますね。詳細は補遺を見ろとのことですが、一旦先に進みます。
なお、SCP-3519を読む上では、ここまでの内容で充分です。
「滅びたはずのアステカ帝国の亡命政府が今も存在していると思い込ませるミーム災害なんだな」ということがわかれば、インタビューでコンウェイ氏と大統領がアステカやテノチティトラン亡命政府について言及していることや、タイソン氏がこれを都市伝説と一蹴してることが理解できると思います。
オブジェクトに暴露すると、SCP-2155に対して同情するとともに、その存在を信じ込むようになります。
一方、テノチティトラン亡命政府の存在に対して中立的または敵対的な人物はそのような影響を受けませんが、それでも無症候性キャリアとなり、潜在的にミーム災害を拡大するベクター(媒介者)となってしまうことが示されています。
先ほどのSCP-3519の例で言えば、コンウェイ氏と大統領はSCP-2155に曝露してテノチティトラン亡命政府の存在を信じ込んでおり、タイソン氏は否定的態度を示してはいるものの、それでもこのことがきっかけで――あるいは都市伝説と評していることから、この会話以前にミームに接触していて――タイソン氏は潜在的なベクターとなってしまっている可能性があります。
なお、SCP-2155の感染には情報を介した伝達が必要であり、オブジェクトの影響を受けていない人物がテノチティトラン亡命政府に関して言及しても、感染は成立しないようです。
感染者はテノチティトラン亡命政府について、様々な手段を介して拡散しようとします。その内容は曝露者によって多少の差はあれど、ヨーロッパ人の侵略者による人々の弾圧を弾劾し、大陸の全先住民族に対して簒奪者に積極的に抵抗・妨害することを呼びかける点が共通しているようです。
この簒奪者は前述の「ヨーロッパ人」に限らず、SCP-2155-1が自国のものと主張する領土の政府(メキシコ)、カトリック教会、大規模な麻薬カルテルなど、あらゆる種類の設立団体を含むとのことで、ある文書では財団もその一つに含まれていたとのこと。
要するに、アステカ帝国の地において我が物顔で振る舞っている団体等を敵視しているということですね。
なお、SCP-2155文書は、自らをいくつかの抵抗独立運動グループから支持を受けていると主張していますが、当のグループらはそのような認識は無い様子。
テスカトリポカとウィツィロポチトリは、いずれもアステカの神のことです。症状が進行すると、徐々に信仰や宗教的な考えが混じり始めることが伺えます。
信仰が高じると、それらの神のために既存のとある大聖堂を破壊して、その代わりに「第五太陽神殿」を設立するように活動し始めます。ん?第五?
そう、第五教会のラッキーナンバーである5がここで登場し、オブジェクトが第五主義的なものであることが濃厚になります。
そして、近年はインターネットを介した感染が拡大しているとのことで、これが特別収容プロトコルにあったインターネット監視に関する記述と対応しています。
補遺E525
さて、最後は補遺です。説明の冒頭で参照が出ていたものですね。早速見ていきます。
最近になって回収されたであろう「文書SCP-2155-E525」によると、SCP-2155-1(テノチティトラン亡命政府)の指導者はミクトラン(死後の世界)に身を隠すとともに、第五太陽神殿における礼拝や、テノチティトラン再興のため周辺地域から人身御供を調達する「花の戦い」の復古を呼びかけています。
アステカ帝国復活のため、神々への捧げ物として人身御供の獲得を煽動するなど、いよいよ言ってることが物騒になってきました。
以下、当該文書の抜粋を引用します。
五芒星についての記述が登場します。言うまでもなく、第五主義者が神聖視する要素です。
前述のテスカトリポカやウィツィロポチトリをはじめとする、アステカの神々を讃える文章が続きます。
最後が以下の一文です。
神様コレクション様によると、トロケ・ナワケは前述のテスカトリポカの別名です。そしてテスカトリポカはアステカ神話の破壊と無秩序をもたらす混沌神とのこと。
破壊と無秩序を司る混沌神が、自分達と共にあることを叫びながら、帝国の復興を呼びかける文書――これを入手した財団は、なんらかのインシデントが発生することを警戒し、更なる調査のための資金要求がなされたことが記されて報告書は終わります。
他のオブジェクトとの関連や深読み
SCP-3519「静かなる日々」との関連は前述のとおりですが、実は他の第五教会とも様々な類似性や関連が読み取れます。
SCP-2456「壊れた世界の夢」
SCP-2456「壊れた世界の夢」はミーム・反ミーム性質を有するオブジェクトです。
曝露者は支離滅裂な考えに取り憑かれ、5が好きになったり、SCP-2456-1と指定される神学体系(宗教)を信奉すると共に、曝露者が多くなればなるほど強力な現実歪曲を引き起こすという性質を有しています。
SCP-1425「星のシグナル」の原型とも目されるこのオブジェクトは、過去に6度の大流行があったことが財団の調査で判明しています。
概要はこのくらいとして、報告書を読んでいくと、SCP-2155との関連が考えられる箇所がいくつか見受けられます。
SCP-2155は、アステカの神々や第五太陽神殿の信仰を呼びかけていることから、上記の特徴は、SCP-2155とも共通しています。
また、過去の大流行事例の中に、まさにアステカでの事例が記載されています。
SCP-2456-1Cと指定されるアステカ神話の浸透により、アステカ帝国には軽度の現実歪曲効果が及んでいたことが記されています。
これは個人的な想像ですが、もしかすると、この現実歪曲効果が、SCP-2155の成立に何かしらの影響を及ぼしていたのかもしれません。
SCP-1523「アイツが魂」
SCP-1523は、火をつけると煙が喋り出すお香です。煙は第五教会を象徴する要素であり、肉体から離れた魂を意味しています。
さて、SCP-2155の最後の補遺にあった文書SCP-2155-E525では、以下のような記述がありました。
破壊と無秩序を司る混沌神であるテスカトリポカは「煙れる鏡」とも呼ばれています。煙という要素が共通します。
そして、第五教会の神といえば――そう、SCP-3125「逃亡者」です。
SCP-3125「逃亡者」
SCP-3125は第五教会が信奉する神であり、一部の例外を除き現実世界のあらゆる所に遍在するとされています。
また、SCP-2517「これが私がキノコの上に神を見た時」においても「全知かつ偏在する神」と言及されています。
ここで、SCP-2155の最後の補遺にあった文書SCP-2155-E525を見返してみましょう。
偏在する者、トロケ・ナワケ。破壊と無秩序をもたらす混沌神テスカトリポカの別名――SCP-3125との関連を疑わずにはいられません。
SCP-001「ロングの提言」
SCP-001「ロングの提言」においては、アステカ帝国の後継を自称する国家「セムアナワク」が北米で台頭し、ミーム能力によってテキサス州、グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラスなどの隣接する国家を支配したことが記録されています。
なお、上述したとおり、「セムアナワク」という単語は、SCP-2155の特別収容プロトコルにおいて、SCP-2155の兆候として監視対象となっていることから、SCP-2155の収容違反と勢力拡大が行き着いた結果が、この侵略国家セムアナワクだと言うことができます。
終わりに
第五教会関連オブジェクトは意味不明だったり難解なものが多く見受けられます。ごった煮な書き方になってしまいましたが、読み進める上での理解の一助になれば幸いですし、認識違いや他の解釈等がありましたら教えていただけますと嬉しいです。
さあ、星々のようになりましょう!
Author:DrAbreu
Title: SCP-2155「The Mexica Government in Exile」
https://scp-wiki.wikidot.com/scp-2155
2015年
翻訳:gnmaee
Title: SCP-2155「アステカ亡命政府」
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2155
2016年
Author:sirpudding
Title: SCP-3519「These Quiet Days」
http://www.scp-wiki.net/scp-3519
2017年
翻訳:C-Dives
Title: SCP-3519「静かなる日々」
http://scp-jp.wikidot.com/scp-3519
2017年
Author:megalan
Title: SCP-2456「Dreams Of A Broken World」
https://scp-wiki.wikidot.com/scp-2456
2017年
翻訳:C-Dives
Title: SCP-2456「壊れた世界の夢」
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2456
2017年
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