もう一つのプリティーリズム史──或いは、オーロラの輝きはいかにして受け継がれたか

 本稿は九条水音さんのサークル・魔界戦線から刊行された同人誌『プリズム☆アライブ』(2014年8月・コミックマーケット86発行)に寄稿したものです。発行者の了承を得て公開しています。

【2014年10月13日追記】掲載時は初出誌をご購入いただいた方に配慮する観点から全文の購読に100円の価格を設定していましたが、掲載誌の完売・絶版に伴い発行者との協議を経て全文を無料公開しています。

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■はじめに
 2011年は数年に一度あるかないかと言われるアニメの「当たり年」とされているが、その中で1年を代表する最高傑作は何かと問われたら、筆者は真っ先に『プリティーリズム・オーロラドリーム』(以下「AD」)を挙げることにしている。
 しかしながら、続編の『プリティーリズム・ディアマイフューチャー』(以下「DMF」)、そして世界観を一新した第3作『プリティーリズム・レインボーライブ』(以下「RL」)と劇場版『オールスターセレクション』を以てシリーズの区切りを迎えている現状ではAD単体での作品論を語っても余り意味を成すとは考えにくく、また既に多くの識者が作品の魅力を余すところなく語っている。そこで、本稿では多少切り口を変えてアニメから『プリティーリズム』と言う作品を知ったファンには余り知られていない“前史”、そして制作側も視聴者側も手探り状態から始まった本放送中の状況について解説して行くことにする。

■前史──タカラトミー合併からプリティーリズム誕生まで
 日本の玩具市場において第2位のメーカーであるタカラトミーは2006年3月に2位のタカラと3位のトミーが合併して誕生した。が、2000年代後半は商品のラインナップが「タカラ系」「トミー系」に合併前の発売元で歴然と色分けされる状態が続き、思うように合併の効果が現れず苦戦が続いていた。
【旧タカラ系】リカちゃん、ジェニー、トランスフォーマー、チョロQ、ベイブレード、デュエル・マスターズ、人生ゲーム、こえだちゃん
【旧トミー系】ゾイド、トミカ、プラレール、黒ひげ危機一発、モノポリー(日本語版)、ポケモン関連の大半、カブトボーグ
 特に旧タカラが業界1位の“王者”バンダイに対して優位に立っていると言われていた女児向けの新商品開発が急務となっていた中、2004年に稼働を開始したセガの『オシャレ魔女ラブandベリー』により立ち上がった女児向けトレーディングアーケードゲーム(TCA)市場への参入第1弾として2006年7月に稼働を開始した日本システム開発・タイトー販売の『キラキラアイドルリカちゃん』がセールス不振のため1年余りで撤退に追い込まれるなど試行錯誤が続いていた。
『キラキラアイドルリカちゃん』撤退後もタカラトミーは『ポケモンバトリオ』(2007~2012年、現在は後継機種『ポケモントレッタ』が稼働中)やカプコンと共同開発した『ワンタメミュージックチャンネル』(2006~2010年)などのタイトルをリリースしておりTCA市場全般では一定の存在感を発揮していたが、そんな中で満を持しての女児向けタイトル再参入となったのが他ならぬ『プリティーリズム』であった。
 ゲームの共同開発を担当したのはニンテンドーDS用ソフト『わがままファッションガールズモード』でスマッシュヒットを飛ばしていたシンソフィアで、それまでの女児向けTCAにおいて定番だったファッションとダンスに加えて一線を画す“もう一ひねり”にバンクーバーオリンピックを間近に控えて世間の注目度が上がっていたフィギュアスケートの要素を採り入れてプレイヤーが視覚的に「凄い」と感じる「プリズムジャンプ」と言う演出を誕生させたはシンソフィア側の提案だったとされている。同時に『キラキラアイドルリカちゃん』では稼働終了後にプレイヤーがそれまで集めたカードが無価値化してしまったことに批判が続出した反省から「コレクション要素の向上」が図られた結果、カードでなくプラスチック製でハート形のジュエリーを模した“プリズムストーン”を専用のスキャナーで読み取る方式にして競合タイトルとの差別化が図られた。
 こうして、2010年の東京おもちゃショーでタカラトミー合併後初の「旧タカラ系」でも「旧トミー系」でもない新時代のタイトルとして『プリティーリズム』は発表されたのであった。

■ミニスカート時代の世界観
『プリティーリズム・ミニスカート』のシーズン1「夏コレクション」の稼働開始は2010年7月15日であるが、タイアップとしてその直前の7月3日に発売された集英社の『りぼん』でも漫画化作品(朝吹まり作、以下「りぼん版」)の連載が開始されている。
 アニメから入ったファンには余り知られていないが『プリティーリズム』の世界観には「ミニスカート時代の旧設定」とでも称すべきものが存在した。りぼん版はこの旧設定をベースにしているが、擬人化されたペンギン先生の登場など完全にイコールの関係ではなくニアイコールの関係となっている。
 この「ミニスカート時代の旧設定」はアーケードゲームのシーズン8までゲーム中に挿入されていた4コマ漫画風のストーリーパートで見ることが出来た(エンターブレインから刊行された『プリズムスタイルブック』に収録されている)。シーズン3まで作品の“顔”となっていたのは周知の通り天宮りずむであった。旧設定のりずむは藤堂かのん(りぼん版では「花音」)と幼馴染みだったり、ヘオンと言う子豚を飼ってたり、声が伊藤かな恵であったりと、ほんの一部を挙げるだけでもアニメ版とはかなり相違が見られる(もちろん、伝説のプリズムスターだった母のそなたが飛んだオーロラライジングの習得が目標であることや、ヒビキとの恋愛関係など共通項も存在する)。
 旧設定のかのんはりずむ以上にアニメ版との乖離が大きく、ワタル(!)に片思いしていた。アニメ版でも旧設定をほぼ引き継いでいるのは城之内セレナだが、旧設定やりぼん版ではフランス人の父親を理想の男性像としている節があったのに対し(アニメでも29話の台詞にその名残がみられる)、アニメではあからさまに三枚目の父親を余り人前に出したくないと言う態度が強調されている。ところで筆者が記憶する限り、余り指摘されていないはずであるがセレナの父親がフランス人と言う設定は明らかにリカちゃんの影響を受けているとみられる。そして、このことが後述のようにアニメ化決定に際してメインキャラクターから“名脇役”への転身を遂げることになった際に新たなメインキャラクターとして登場したみおんと浅からぬ因縁を生み出す結果にも繋がるのであった。

 なお、シーズン3までゲームの副題であった「ミニスカート」は2010年の東京おもちゃショーでの発表時にゲームのプロモーションを目的として結成された、当時AKB48の第9期研究生だった竹内美宥(みゆみゆ)・島田春香(はるぅ)・森杏奈(なんちゃん)の3名からなるユニットの名称である。ゲームのシーズン2からはこの3名がプレイヤーキャラクターとして登場していたが、使用時は「ミニスカートであそぶ」モードに固定されておりゲーム側のメインキャラクターとは一線を画す扱いになっていた。
 2010年に3名とも研究生から正規メンバー(チーム4所属)となり、翌2011年9月に森が腰椎椎間板症の悪化で卒業(2013年に芸能界復帰)したことに伴い自然消滅扱いとなりシーズン5を最後にミニスカートモード自体が消滅している。ミニスカート専用ステージは後に「Go! Go! コーリングスステージ」へ、また専用ジャンプだった「ネクストスター」のアクションは後に上葉みあの十八番として定着した「きらめきフューチャースター」へ再利用されている。

■アニメ始動に際しての大胆な世界観の改変
 女児向けTCAは『ラブandベリー』が稼働していた当時から小学館の『ぷっちぐみ』が情報発信の中心となっていたが、2010年に『プリティーリズム』が稼働を開始した当初は『ラブandベリー』の稼働終了後に小学館とセガが共同開発した『リルぷりっ』や、同社の『ちゃお』連載漫画を原作とするアトラスの『極上! めちゃモテ委員長』、そして同誌に情報が掲載されないバンダイの『プリキュアデータカードダス』シリーズなどが割拠するも業界を牽引するレベルの爆発的ヒットは登場していない状態であった。
 そんな中で稼働を開始した『プリティーリズム』はゲーム性の高さや筐体の斬新さから順調にシェアを拡大して行ったが、ここで次なる高みを目指すべくテレビアニメ化の企画が始動する。第一報は2011年1月19日付の日本経済新聞で、韓国最大手の玩具メーカー・ソノコンとの5箇年計画の共同事業としてアニメを製作し、その第1弾として4月から『プリティーリズム』を放送すると言うものであった。
 この際、アニメのタイトルは『プリティーリズム・オーロラドリーム』(以下「AD」)でゲームもシーズン4から同タイトルにリニューアルすること、アニメーション制作を当時タカラトミーの子会社であったタツノコプロが行うこと、キャラクターデザインをかつて同社の『ザ・ソウルテイカー ~魂狩~』やそのスピンオフ作品『ナースウィッチ小麦ちゃんマジカルて』で起用された渡辺明夫が担当すること、ファッションブランド『Prism Stone』を立ち上げて1号店を横浜のランドマークプラザに出店すること、さらに新キャラクターとして春音あいらと高峰みおんが登場し、りずむと合わせた3人で声優ユニット・LISPの3名がキャスティングされることが発表された。
 この発表に対してはゲームやりぼん版からの大幅な設定の改変(特にセレナとかのんの扱いがどうなるのか)について先行きを不安視する意見が少なくなかったが、制作現場でもクライアントから提示される様々な要求をアクロバティックに解決することが求められて大変な苦労を強いられていたことが6月29日にニコニコ生放送の特番に出演した際の菱田正和監督のコメントからもうかがえる。
 アニメの放送開始は4月2日からの予定であったが、3月11日に発生した東日本大震災の影響で1週ずれ込み4月9日となった。

 新キャラクター2名の内、新たにゲームを含めた『プリティーリズム』の顔としての役割を担うべく登場した春音あいらは序盤からりずむと対照を為すキャラクターであった。6月29日のニコ生特番で菱田監督が「一昔前なら主人公だった」と評していたりずむはダンスが得意な反面ファッションセンスが今一つ、父子家庭(ただし、母がいない理由に関しては旧設定やりぼん版とは異なる)、そして努力家タイプで「オーロラライジングを飛ぶ」と言う明確な目標があるのに対し、あいらは運動が苦手で母親譲りの卓越したファッションセンスを持ち、また両親と弟妹に囲まれた賑やかな家庭で育ち、明確な目標を持たないままなりゆきでプリズムショーに身を投じるなど何から何までりずむとは対照的に描かれている。両者の対称性は第1クールでプリズムショーに対する姿勢として、第7話の高峰みおんに対する評価や第9話の学園祭でショーを開催するかティアラカップに向けた練習を優先するかの違いと言う形で何度も繰り返して提示され、これが第2クール以降に随所で伏線として機能して行く爽快感は「ファンタスティック」と言うより他は無い見事さである。

 とは言え、ADは2011年4月スタートの新番組の中では決して目立った存在とは言えなかった。むしろテレビ東京の土曜日午前(いわゆる「土朝」枠)のラインナップとしては、ADと同日スタートで30分前(関東のみ)に放送の『ジュエルペット』シリーズ第3作である『ジュエルペット サンシャイン』の方が、正統派ファンタジーアニメとして高い評価を確立した前作『ジュエルペット てぃんくる☆』から一変したハイテンションなギャグ路線で前シリーズからの継続視聴者を困惑させて話題になっていたぐらいである。
 当時の2ちゃんねるやツイッターのログを見ると、大きく分けて
・アニメの前後に挿入される実写パートへの困惑
・明確な目標を持っているりずむに対し、主人公なのに軸足が定まっていないあいらへの不安
・予定通り1年続けられるかどうかへの不安
の3通りの感想が多く、またアニメ雑誌でも余り取り上げられていなかったこともあり、いわゆる“大きいお友達”に分類される視聴者の大半は「このまま見続けて面白くなるのだろうか」と言う不安感と背中合わせで第1クールを見ていたことが確認される。
 この手探り状態は視聴者だけでなくスタッフ側も同様だったと思われ、第1クールではストーリー全般の落としどころをどこに置くかで相当に苦心した形跡が見られる。結局、最初のイベントとして6月の東京おもちゃショーと連動して開催されるゲーム大会「ティアラカップ」が設定されることになったが、これはアニメの製作発表時から掲げられていた「劇中の出来事と現実のイベントやメディア展開を連動させる」と言う「ライブ・フィット」路線に沿ったものであった。

■制作・視聴者とも手探りだった序盤
 第1話「スタア誕生!」は、アニメが始まるかと思ったらアッキーナこと南明奈が司会を務める実写パート(DVDやネット配信ではアッキーナの出演部分がカットされている)が始まって初見の(特に『めちゃモテ委員長』などの女児向けアニメを見慣れていない)視聴者を困惑させたが、本編も一度見ただけでは全貌がわからない構成のため多くの視聴者を困惑させた。しかし、改めて見てみるとプリズムショーに否定的な父、みおんの失踪、りずむがプリズムクイーンを目指す理由、あいらの目標…‥と、後々に解決される数多くの課題が凝縮されており、また視聴者と同様「プリズムショーとは何か」についての知識が無い状態で初対面の滝川純にみおんの代役で出演を要請されてわけがわからないまま立たされたステージでフレッシュフルーツバスケットを成功させるまでの流れは、一見すると単なる行き当たりばったりな展開にしか思えないが実は非常に緻密な計算の上に成り立っているのである。
 前述のように、第1クールではあいらとりずむの両極端なまでの対称性が強調して描かれる。特に序盤の山場であるティアラカップに向けた第6話から10話はその傾向が顕著で、第1クールの段階から長期シリーズによくある「捨て回」はほぼ存在せず、一つ、また一つと終盤に向けた伏線がさりげなく散りばめられている。特に(旧設定やりぼん版では、りずむの一方的な片思いが強調されていた)りずむとヒビキのカップリングが早々と成立する(ワタルが第8話の追試対策で立てたかに思われたフラグを第9話で早々と折られて舌打ちする場面は必見である)のに対し、あいらの才能に驚いたり嫉妬したりでどこかしっくり来ないまま推移するショウとの関係もその一つと言える。ちなみに旧設定やりぼん版でコーリングスとして登場するのはヒビキ(りぼん版では「藤堂響」)とワタル(りぼん版では「日向ワタル」)の2人であった(2人組なのか、大人数のグループの2人なのかは明示されていない)。ショウはリーダーながらADで初めて登場した追加キャラクターであり、そのせいでフルネームが設定されていないなど色々と割を食っているところがある。特に第10話であいらに八つ当たりした際の大人げない態度のイメージは最後まで払拭し切れないままであったが、次シリーズのDMFでは面目躍如を果たしている。

 第1クールには「作品内の山場」と、もう一つ「作品外の山場」が存在した。まず「作品内の山場」は第11・12話のティアラカップである。新人プリズムスターの登竜門・ティアラカップであいらは体調を崩したりずむの回復を待って規定違反の遅延行為に及んで減点され、次いでシルエットモブ3人組(この3人の描き方からは、話の本筋に絡んで来ない人物は徹底して簡略化するスタッフの強固な意志が感じられる)の嫉妬を買いプリズムストーンを盗まれてしまうアクシデントに見舞われると持っていたストーンをりずむに貸して自分は普段着で最終演技に臨む。しかし、そんな圧倒的不利な状況下でもあいらはZONEを発動させて新ジャンプ・ヒラヒラヒラク恋の花を成功させて優勝し、この日に向けて人一倍熱心に練習を重ねて来たりずむに「じゃあ、あたしが今までやって来たのは一体何だったの?」と努力しても超えられない才能の壁を見せ付ける。が、その余韻に浸る間も無くここまで思わせぶりな態度で徹底的に引っ張って来た高峰みおんが満を持して登場し、ドレミファスライダー、ゴールデンスターマジックと連続ジャンプを軽々と決めてあいらとりずむ、そして視聴者にこれでもか、これでもかと「格の違い」を印象付けて第1クールを締めるのである。実際、ツイッターでの「#prettyrhythm」タグ使用も12話を機に急増しており、現在でもシリーズ屈指の「神回」として話題にのぼることが多い。みおん様のスイッチが入った瞬間、ADはアニメ史上に残る名作への道が開けたのである。
 そして、もう一つの「作品外の山場」は7月のニコニコアニメチャンネル配信(1~13話を一挙配信、以後は本放送の2週遅れで配信)開始である。直前の6月29日にはニコニコ生放送で主題歌とメインキャストを担当する声優ユニット・LISP(この特番の時点で7月末限りの活動休止が決まっていた)の3名とコーリングス役の声優3名、スペシャルゲストに菱田正和監督と言う顔触れで特番も配信されている。「女児向け」と言うジャンルの枠に捉われず幅広い視聴者層への訴求を目指すネームバリュー獲得戦略に出たと言う意味で大きな賭けであったが、結論から言うとこれが見事に功を奏した。公式チャンネルの運営に当たっていたのはスーパービジョン(アサツーDK系列企業)で、本作以前には「フルアニMAX」の名称で『メダロット』や『GetRide! アムドライバー』などの男児向けホビーアニメを中心に配信していた。フルアニMAX配信作品で特に有名なのはADと同様にタカラトミー(旧トミー)の玩具をベースとする『人造昆虫カブトボーグV×V』で、脚本家を始めとする制作スタッフの悪乗りが過ぎてテレビ東京から「こんな物は放送出来ません」と納品を拒絶されてやむなくBSジャパンで放送されたと言う曰くつきの代物であったが、そのぶっ飛び具合から一部にカルト的なファンを獲得しており、ADの配信開始当初もタカラトミー原作と言う『カブトボーグ』との共通項から流れて来たと思われるフルアニ民とおぼしきコメントが大量に付けられていた。当然ながら、玩具の製造終了が決まった後に「逆販促」と言われるほどスタッフの悪乗りが炸裂した『カブトボーグ』と社運を賭けた一大プロジェクトであった『プリティーリズム』では比べるべくもないが、AD時代からのファンの一大勢力としてフルアニ民が存在していたことは記憶に留めておきたいところである。

■成功への確信ときらめきの拡がり
 制作側も視聴者側も手探り状態だった第1クールを「あいらとりずむ編」と命名するならば、第2クールは「みおん編」、第3クールは「MARs編」、そして第4クールは「プリズムクイーン編」と言うべきだろう。ティアラカップで優勝したあいらを押しのけての鮮烈デビューからしばらく話の主導権がみおんに渡り、主人公であるはずのあいらは振り落とされないように付いて行くのが精一杯……と言う状況が続く。そしてアーケード時代からのファンが待ちわびていたセレナとかのんが第2クールの山場となるサマークイーンカップで満を持して登場し、3人の前に立ちはだかる。前述のようにこの2人、特にかのんの設定はゲームやりぼん版と大きく異なっており、ヒビキを巡ってりずむと過激なまでの対立関係を見せるが実はその裏で旧設定やりぼん版でかのんが片思いしていたワタルが完全に割を食ってしまっていることもチェックしておきたい。また、りずむvsかのんと並行してそれぞれ父親がフランス系とイタリア系、かつハイソサエティな境遇で育った“似た者同士”であるセレナとみおんの対立と第43話でのダンスバトル決着後にそれまでの恩讐を超えて培われた友情も見所の一つである。

 放送が折り返し点を迎える2011年の秋頃に入るとゲームの稼働や玩具・アパレルなどの関連商品にも好反応が出て来るようになり『ラブandベリー』の稼働終了後に停滞が続いていた女児向けTCA市場は完全な『プリティーリズム』一強時代へ突入した。その後、この『プリティーリズム』一強状態はバンダイの『アイカツ!』が稼働開始から半年足らずで市場を席巻する2013年の初頭まで続くことになる。
 もうこの時点で販促アニメとしては「成功」と言う結果が出ており、2012年1月には続編のDMFが発表された。だからと言って第4クールが中だるみすることは無く、むしろオーロラライジングを巡る群像劇は最高潮を迎える。第3クールでのMARs編から一転して、あいらは阿世知今日子が現役時代に果たせなかったオーロラライジングの完成を約束し、りずむは母が飛んだオーロラライジングの再現を求めてその師匠であるケイを訪ね、そしてみおんはオーロラライジングが唯一の答えではないとの確信に基づいて新ジャンプの開発に挑む。第46話で猜疑心に捕らわれたりずむをあいらとみおんが救い出してから、3人がプリズムクイーンカップでそれぞれの答えを出すまでの流れはひと時も目が離せない。
 りずむは悲願のオーロラライジング・ファイナルを完成させた。そして、演技を放棄してまでもそなたとの再会を優先する──第33話で登場してから天使の純真さと悪魔の不気味さを併せ持ったトリックスターとして立ち回り、最初はりずむを「あいらの友達」としか認識していなかった久里須かなめが養母と家族の再会で皆が涙する中、一人だけ満面の笑みを浮かべているのがなお深く、心の琴線を震わせる。
 みおんはオーロラライジングが唯一の答えではないとの信条通り自ら編み出したエターナルビックバン、そして間髪入れず「私、生まれた!」の歓声からビューティフルワールドを飛び、前人未踏の満点を記録する。この際にみおんが見せた演技の流れは後にDMFのプリズムアクトとして発展して行く。
 みおんの優勝は確実かと思われた中で、あいらはオーロラライジングを──いや、オーロラライジング・ドリームを飛び、それまで数多の犠牲を払わなければ飛べない“幻のジャンプ”と言われて来たオーロラライジングを誰もが心のきらめきを開放すれば飛べる空間を創出した。と言うより「オーロラライジングの真の姿を開放して、実践してみせた」と言った方が正しいかも知れない。この場面で描かれている「誰でも夢を叶えられる」と言うテーマはその後のシリーズ作品──DMF第50話やRL最終話でも繰り返し描かれており、まさしく『プリティーリズム』シリーズ全体を通じたテーマと言えるだろう。
 結果、プリズムクイーンの栄冠を手にしたのはみおんの満点をも超越する「オーバー・ザ・トップ」をマークしたあいらであった。とは言え三者三様、全員がそれぞれ納得の行く答えを出し、その結果が観客席に居合わせた後にプリズミーを結成する上葉みあたちを衝き動かし、3年後を舞台にしたDMFへと鮮やかに繋がって行くのである。

■結び──あの日輝いたオーロラが残したもの
 アニメに限らず映画でもドラマでも同様であるが、原作となる漫画や小説・ゲームがある作品の場合に多かれ少なかれ「原作と違う」と言う批判が出ることがある。ただ、実際には原作に大胆な改変を加えて全くの別物になっていても高評価を得る映像作品も存在するので、前述のような批判の意図を正確に表すとすれば「原作と違って面白くない」と言うべきであろう。
 冒頭で述べたように、ADはアーケードゲームを原作としているがゲームの旧設定(結局、この設定はDMFの開始と同時期に消滅した)から大胆な改変を加えており、旧設定はもちろんの流れを直に受け継いでいるりぼん版とは全く別物になっている。最初にアニメ化の発表があった際、りぼん版をアニメ化するのではないかと言う推測も見られたがいくらなんでも連載開始から半年で1年続くアニメシリーズのストックが出来るはずはないし、またアニメの製作委員会に小学館が出資している関係で『りぼん』と競合誌の『ちゃお』で並行して漫画連載が行われると言う異例の事態をも引き起こした。ちなみに、ちゃお版(藤実リオ作)の主人公・南梨ふれあは第31話にゲストキャラクターとして登場している。
 しかし、ここで「大人の事情」を発動させてりぼん版を打ち切らずに連載を継続した(DMF開始に前後して綺麗に完結を迎えている)ことで、後にRLで明かされた複数の並行世界と連結する(俗に「かな恵空間」とも呼ばれていた)プリズム空間の設定に繋がったとも言える(実際、蓮城寺べると母の関係を始めRLはりぼん版から強い影響を受けた形跡が見られる)。それはDMFやRLだけでなく、ニンテンドー3DSの第2作『きらきらマイ☆デザイン』はゲストキャラクターの北条コスモを通じて後継作品の『プリパラ』とも繋がって行くのである。未読の方には是非、りぼん版・ちゃお版両方とも一読をお薦めしたい(りぼん版は電子書籍もある)。

 ハードな展開をも厭わない作風から時に「女児向け大河ドラマ」とも評されるが、何回見ても新たな発見があるADは見た者の心を飛躍させる魅力に溢れた素晴らしいアニメである。この素晴らしくきらめきに満ちた作品を世に送り出し、運命的な出会いへ導いてくれたスタッフ・キャスト・関係者一同に深く感謝して、本稿を擱筆する。

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