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『今月末で著作権保護期間が満了する先人たち』を始めた理由

 2013年から毎年12月に『今月末で著作権保護期間が満了する先人たち』をガジェット通信で短期集中連載している。

2014年(全5回)
第1回 第2回 第3回 第4回 第5回

2013年(全4回)
第1回 第2回 第3回 第4回

 この連載を始めようと思った理由は至ってシンプルで、ぶっちゃけて言うと「今やっておかないと、来年には出来なくなるかも知れないから」である。幸いなことに初年の連載は各方面からご好評をいただき、今年も引き続き2年目の連載が出来ることになった。
 しかしながら、周知の通り日本国内外の著作物“自由化”を取り巻く情勢は悪化の一途をたどっており来年にはもうこの連載が出来なくなる可能性も出ている。と言うよりも、その確率の方が相当に高いと考えざるを得ないし来年は出来ても再来年には出来なくなる確率がさらに高まるのは必定である。

 もう一つ、この連載を始めようと思った動機は昨年の夏に青空文庫の創始者の1人である(彼自身は生前「青空文庫は自分1人で始めたものではない」と言う観点から「呼びかけ人」の肩書に強いこだわりを持っており、決して「代表」や「主宰者」に類する肩書を使用しなかった)富田倫生氏の訃報に接したことである。
 以前勤めていた職場の人的な縁もあり、筆者は富田氏の晩年の一時期に知遇を得て著作権問題で情報交換をする関係に恵まれた。特に、福井健策弁護士の呼びかけで発足した著作権の保護期間を考えるフォーラムでは若干の裏方作業を手伝わせていただいたこともあり、生前の氏がややもすれば見過ごされがちな(そして、米欧では道端の野良犬も同然の扱いで蹴飛ばされた)「著作権の保護期間が有限であり、その期間を満了した著作物は“自由化”される」ことの意義に対する非常に強い信念の発露を間近に見聞きすることが出来た。
 富田氏と最後に会ったのは2009年の初頭に行われたフォーラム打ち上げの席だったが、文化審議会著作権分科会が権利者諸団体(「連合軍」と言っても差支えない)や米国政府の強硬な要求に根拠が見出せないとして著作権保護期間の延長を(飽くまで「一時撤退」に過ぎないとは言え)断念する趣旨の報告書を公表したことに対して、富田氏が満面の笑みで“勝利”を喜んでいたことを今でも鮮明に記憶している。
 その後は没交渉になってしまい、筆者は職を退いて帰郷したので富田氏と再会することは永遠に叶わなかった。氏の訃報に接した際はまず「自分がして来たことは多少なりとも晩年の彼の支えになっていただろうか」と言うことを考え、次に「彼の意思を継いで、次の世代に伝えるために何が出来るだろう」と考えるようになった。
 そして、昨年秋に有志が開催した「お別れの会」に出ることも叶わないほど落ちぶれてしまった自分が出した結論は「毎年12月に、もうすぐ生前の著作が“自由化”される先人を紹介する」ことだった。

 筆者にとっては、そして青空文庫や昨年秋に筆者がとある原書のデータを提供したプロジェクト・グーテンベルク・カナダの関係者にとってもここ数年「今は出来ていることが、来年には巨大なコンテンツ・プロバイダーが振りかざす“常識”に蹂躙されて出来なくなってしまうかも知れない。現にそう言う事例をいくつも見聞きして来た」と言う不安と背中合わせの日々が続いており、それは間違いなく今後も続いて行く(その感情は、そう遠くない内に失望へ変化するかも知れない)。
 運良く2年目を迎えられたこの短期集中連載も一時の気休めに過ぎないかも知れない。それでも、今年はこの連載が出来て生前に業績を遺した先人を偲ぶ機会に恵まれたことを喜びたい。そして、記事を読んだ人には著作権の保護期間満了が決して国内の権利者諸団体や米欧の通商関係者が主張するようなネガティブなものではなく、先人の業績を再確認するまたと無い機会であり“自由化”の意義は少数の巨大なコンテンツ・プロバイダーの権益に劣後するものでは断じて有り得ないことを知ってもらいたい。そんなことを考えながら、記事を書いている。

 なお、今年から記事中で「パブリックドメイン」と言う単語を出来るだけ使わず「自由化」と言う表現を使うようにしている。率直に言って「パブリックドメイン」と言う単語を使うと、それが何を意味し著作物がその状態となることにどのような意義があるのかが伝わりにくいのである。だからと言って直訳の「公有財産」では、まるで「お役所の財産になる」ようで誤解を招きかねない。むしろ、実態に即した日本語訳を当てるならば「自由化著作物」と言うべきではないか? 著作権の保護期間満了は「かつて著作物だった物が著作物でなくなる」のでなく「著作物が権利の紐を解かれて“自由化”される」と言う説明の方がわかりやすく、実態に即していると筆者は考える。だから、筆者は今後も出来るだけ趣旨が伝わりにくい(そのせいで、TPPや日欧EPAで著作権延長を強制されても「大した問題ではない」と言うミスリードを招きかねない)「パブリックドメインになる」でなく「著作物が“自由化”される」と言う表現を使って行こうと考えている。

 この連載を続けることが、生前「保護期間を満了した著作物の“自由化”」に意義を見出し、金字塔を打ち立てた富田氏に対して筆者が今の能力で出来得る最大限の畏敬の念の表明である。願わくば来年も、そして再来年以降もこの連載が続けられて新年を迎えた瞬間に青空文庫やプロジェクト・グーテンベルク・カナダに“自由化”されたばかりの新作が登録されますように。

2014年12月1日

84oca
※表紙画像は青空文庫のトップページ

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