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日本のJクラブと欧州クラブの比較論

ヴェルディカレッジ第6講では、2期生にとって初の外部講師となる帝京大学准教授の大山高氏をお迎えしました。大山氏からは、ドットを繋ぐ生き方とJクラブと欧州クラブの比較論の2点についてお話がありました。

本講義は前編と後編2つに分けて講義レポートを執筆しました。前編ではドットを繋ぐ生き方、本稿である後編ではJクラブと欧州クラブの比較論に触れていきます。

執筆
メディアプロモーショングループ: 梅原崇(2期生)

講師紹介

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大山高
ヴィッセル神戸在職中に「大学がスポンサーになる」という新しい営業を開発し、Jクラブ最多の大学スポンサー数(7校)を記録した。2006年にはヴィッセルカレッジを設立。2010年より博報堂のスポーツ局に転職。ヴィッセル時代に得た知見を活かして自らが大学教員へ転身。2018年、日本の大学で初となる欧州のビッグクラブ「ボルシア・ドルトムント」とスポンサー契約を結び、世界一観客が入る、ドルトムントのクラブマネジメントについて研究している。著書に『海外サッカーはなぜ巨大化したのか(青娥書房)』他

プロ野球から遅れること約60年、1993年にプロサッカーリーグ『Jリーグ』が開幕しました。Jリーグは『地域に根差したスポーツクラブを核としたスポーツ文化の振興』という理念の基、地域密着を謳っています。

そのJリーグが最も影響を受けたのがドイツのブンデスリーガです。
ブンデスリーガとJリーグの『仕組みの違い』と『仕組み以外の違い』の2つの違いについて、大山氏から講義していただきました。

『仕組みの違い』

①ブンデスクラブとJクラブの発祥の違い

ブンデスクラブ  → 地域のクラブチームが発祥
Jクラブ              → 企業のクラブチームが発祥

まず、クラブの発祥の違いについてです。
ブンデスクラブは地域のクラブチームが発祥で、そのクラブチームが力を付けて勝ち上がってトップリーグに進出していくという流れになっています。
よって、クラブチームと地域は元々強い関係性が構築されていました。

一方、Jクラブは企業チームが発祥で、トップリーグに所属していた企業チーム『地域密着』と謳って、地域へ合わせていったという流れです。
最初から地域に根付いたチームではないので、膨大なホームタウン活動を行って地域に根付かせていくという作業が必要でした。そして、現在でも地域に愛されるチームになることは多くのJクラブが目標としています。
クラブの発祥の違いを見ても、ブンデスクラブがいかに地域密着に優れているかがわかりました。

②クラブの親会社の違い

ブンデスクラブ →    e.V.(非営利団体)が親会社
Jクラブ        →    企業(営利団体)が親会社

ブンデスクラブはe.V.(日本の一般社団法人のような団体)、Jクラブは企業が親会社となっています。
この仕組みについて、大山氏からFCバイエルンミュンヘンを例に説明していただきました。

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私たちがFCバイエルンミュンヘンと聞いて、イメージする男子プロサッカーチームは営利団体の株式会社FCバイエルンミュンヘンです。そして、その親会社が非営利法人の総合スポーツクラブFCバイエルンミュンヘンe.Vとなっています。このように、FCバイエルンミュンヘンe.Vの傘下に株式会社FCバイエルンミュンヘンというプロサッカーチームを経営する組織が連なる体制になっています。
ブンデスリーガでは一部の特例クラブを除いて、リーグに所属するクラブの親会社はe.V=非営利法人でなければならないというルールが定められているため、特定の企業はサッカーチームのオーナー権を保有出来ずe.Vが親会社となる仕組みになっています。
営利団体である企業が親会社になると、チームの文化や地域との関係性を軽んじて、地域密着を蔑ろにする危険性があります。
つまり、このルールは地域密着のリーグ経営及び各クラブ経営を尊重したルールと言えます。

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しかし、Jクラブは株式会社であるサッカークラブの下に一般社団法人などの組織が連なる体制になっています。

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この体制により、特定の企業がサッカーチームのオーナー権を独占する事ができます。地域密着を謳っているJリーグですが、ブンデスリーガと比べてクラブやリーグの仕組みの段階で差がある事がわかりました。

『仕組み以外の違い』

Jクラブに足りないブンデスクラブの特徴について

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Jクラブとブンデスクラブの違いは、仕組み以前に『どんなクラブでありたいかというメッセージの有無』であると、大山氏は語ります。
ブンデスクラブの中でドルトムントを取り上げて、その特徴について見ていきましょう。

都市のベルリンやフランクフルトは非常に華やかな街でしたが、ドルトムントは都市部とは対照的で、歴史的に炭鉱が盛んで労働階級者層の街でした。そして、その独特の歴史や文化は今でも地域に根付いています。そのファン・サポーターに対してドルトムントが訴えかけたいメッセージは『2番手でも1番手に挑戦しろ』というメッセージです。
このメッセージを伝えるためにドルトムントは様々な施策を行なっています。

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まず、ドルトムントの公式WEBサイトの背景デザインは2色のカラーが右斜めに向かって区切られたデザインにされています。これは、『常に自分たちは右肩上がりでチャレンジしていく』という、理念とアイデンティティをファンサポーターに伝えるためのデザインです。
このように細かい部分までクラブのアイデンティティが反映されています。

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また、ドルトムントのスポンサーを見ていくと、ユニフォームのサプライヤーはアディダスやナイキではなくプーマで、そのほかでも自動車メーカーのスポンサーもベンツやBMWではなくOPELです。このように業界を牽引する『リーダー企業』ではなく、『チャレンジャー企業』がスポンサーとなっています。
これは、ドルトムントの立ち位置は業界に君臨するのではなく、2位という立ち位置でチャレンジャースピリットを持ち続けていくという姿勢を表しています。

このように『どんなクラブでありたいかというメッセージの有無』が、仕組み以前のJクラブとブンデスクラブの大きな違いであると学びました。

まとめ

今回は『日本のJクラブと欧州クラブの比較論』についての講義でした。
まず、クラブ・リーグの仕組みの違いについて見ていきました。Jリーグとブンデスリーガは共に地域密着を謳っていますが、両リーグには仕組みの時点で大きな違いがありました。
次に、仕組み以外の違いについて見ていきました。ドルトムントにはどんなクラブでありたいかという理念が明確に存在して、そのメッセージをファン・サポーターに伝える様々な施策を行なっていました。
歴史や文化などの違いはありますが、Jリーグはブンデスリーガから学ぶべきことはまだまだ沢山あると感じました。

次週第7講では、東京ヴェルディ・バンバータ(ベースボールチーム)GMの熊本浩志氏が登壇して、バンバータでのマネジメントやこれからのスポーツのあり方について語っていただきます。



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