見出し画像

稽古の場所から(2) 「明日で全部が終わるから今までにした最悪なことの話をしようランド」

毎年10月はKYOTO EXPERIMENTのために京都を訪れることがお決まりの年中行事になっています。
今回この期間中に京都芸術センターakakilikeの「明日で全部が終わるから今までにした最悪なことの話をしようランド」の稽古場にお邪魔して来ました。

まずタイトルが長くておもしろいですよね。
そしてただおもしろいというだけでなく、akakilikeの作品を観る時にこれに注目することはとても大切だと思っています。
なぜかと言うとakakilikeの作品はタイトルがこのように長い文章の形をしている時と短い簡潔な言葉の時があって、それによって明らかに作品の傾向が異なるからです。
何が違うと考えているのかは書かないでおきますが、これからご覧になる際には是非ちょっと意識して欲しいポイントではあります。

今回の出演者は10名。
軸となるダンスユニット・アマリイチの斉藤綾子さん・益田さちさん、そしてakakilike主宰の倉田翠さんの出演が先ず決まっていて、それに加えて、オーディションによって石原菜々子さん、大石英史さん、筒井茄奈子さん、仲谷萌さん、西川尚貴さん、森本圭治さん、吉岡宙さんの7名が選ばれたとのことです。

ダンサーと役者が入り混じっていてそれぞれのキャリアを見てもとてもカラフルな感じがします。
ただ役者から選ばれているのはdracomの大石さんやニットキャップシアターの仲谷さんなど身体表現が特徴的な団体の方々で、むしろ台詞を発するダンサーという位置づけが適切なのかもしれません。
(そもそもダンサーが台詞を言ってはいけないというルールもないでしょうし。)

そして彼らによってちょっと奇妙なエピソードが語られる中、ダンスは進んで行きます。
この語りと所作に、観客は「一体何を見せられているのだ?」という心境になるかもしれません。
これはダンスなのか?演劇なのか?はたまた全く別のものなのか?

akakilikeの作品を見る時、パフォーミングアーツにおいて昨今注目されているドキュメンタリー演劇にそれを分類してご覧になる方もおられるかもしれません。
けれども私は明確にこれをダンスだと思っています。

確かに作品はどこかで現実と繋がっていてストーリー性もあるのですが、やはりあくまでもそれはダンスのモチーフであって、台詞で観客の心に引っ掛けようとするというよりは、発声も含めて振付の一部として用いられているように感じます。

台詞のあるダンスというのはシーン解説のようでイメージ的には分かりやすそうで、実際作品は観客に対して間口は大きく開いていると思います。
しかし台詞を意識し過ぎると言外の表現を捉えきれなくなって逆にそれは霧の中に霞んでいくように感じるかもしれません。

もちろん楽しみ方は自由ですが、語られていることを看破することに躍起になるよりは、ふんわり椅子に座って眺めている方が受け取れるものは多いかもしれません。
そういう意味でもやはりダンスだと思います。

最近のakakilikeの作品では京都の東九条で暮らす人たちや京都ダルクの人たちとの作品が続いており、ダンサーや役者ばかりでの創作は久しぶりですね。

毎年10月の最初に開催されているニュイ・ブランシュKYOTO 2019で倉田さんはピアノ演奏とのコラボレーションでダンスを披露しました。
それは彼女のデフォルトのダンスのようで、懐かしいような、これまでの変遷を見るような、そんなダンスでした。

倉田さんの演出を分かりやすく言うと、それは日本料理のようなものだと思っています。
彼女の演出で素材の味が分からなくなるほどの濃厚なソースをかけるようなものはほとんど記憶にありません。
もちろん振付はついているのですが、何かを課すというよりは選んだパフォーマーから如何にその人が持っているものを引き出すかに重きがあるように見えます。
それは上演を観ても分かることですが、稽古を見てあらためて実感しました。

おそらく彼女にとってテーマを決めてオーディションを行う段階は、ちょうど料理人が市場で食材を吟味して、その素材の品質が良いものであることを見極める時間であると同時に、それを使って作る料理の献立を考えるような時間でもあるのでしょう。

なので稽古を見ていると、技術的なことを要求するよりも、舞台上のどこに居るのか、そしてどのようにして居るのかを重要視していて、それが出演者の間で丁寧に確認されていくことを感じました。
シーンを創っていく様子は料理の盛り付けのようであり、また先付から順に料理が進んで行く過程のようにも見えます。

それがとても分かりやすかったのは、益田さんの身体がアマリイチのダンスの時のものではなく、かつ倉田さんを真似るようなダンスでもなく、益田さんがポンっとそのままそこに居るだけのように感じる佇まいでした。

舞台経験がない人でも、いざ舞台に立つとなると少しでもカッコ良く立ちたいものでしょう。
けれども最近の2作品でも東九条の人々や京都ダルクの人々は「昨日もそうやって生きていたし明日からもそうやって生きていくのだ」と言うかのように舞台上に居たことが心に残っています。

では、もし「明日で全部が終わる」としたら、プロのパフォーマーにはそれが可能なのでしょうか。

さて、akakilikeの作品を観る時にもう一つ大切なことがあると思っています。
それは倉田さん自身が出演するか否かです。
それは創作の時間的な理由や作品への思い入れの違いなどではなくて、そこに彼女自身が居るべきか、または居てはいけないかという判断によって決まっているように感じます。

今回の作品では彼女が出演しています。
だからと言って中心になって踊るということもなく、ほとんどのシーンは他の出演者によって回っていきます。
その時彼女が何処にいて何をしているか、それを見逃さないようにすればその理由は少し分かるかもしれません。

舞台は彼女の脳内に在る架空世界。
そういう意味ではやはりそれは演劇なのでしょうか。
劇場での上演を観てまた考えたいと思います。

あ、劇場は新しくできた THEATRE E9 KYOTO ですのでお間違いなく。

画像1

【公演概要】
akakilike 新作公演
『明日で全部が終わるから今までにした最悪なことの話をしようランド』
演出・振付
倉田翠 
出演
石原菜々子
大石英史
倉田翠
斉藤綾子
筒井茄奈子
仲谷萌
西川尚貴
益田さち
森本圭治
吉岡宙 
スタッフ
演出助手:平澤直幸
照明:魚森理恵(kehaiworks)
音響:甲田徹
制作:黒木優花 
舞台監督:大田和司 
主催|akakilike
共催|THEATRE E9 KYOTO(一般社団法人アーツシード京都)
助成|公益財団法人セゾン文化財団 
*THEATRE E9 KYOTO オープニングプログラム

日程
2019年
11月 8日(金)19:30-
11月 9日(土)14:00- /19:30-
11月10日(日)15:00-

チケット料金[日時指定・全席自由]
前売 一般        3,000円
   ユース(25歳以下) 2,000円
   高校生以下     1,000円
*一般、ユースチケットは当日500円増
*小学生以下無料(席が必要な方は要事前予約・akakilikeメールまで)
*ユースチケット及び高校生以下チケットをご購入の方は、証明書の提示が必要です。

チケット取扱
▼カルテットオンライン
 https://www.quartet-online.net/ticket/land
▼THEATRE E9 KYOTO
 https://askyoto.or.jp/e9/ticket/201916

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?