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ステキブンゲイ大賞候補辛口感想~4次通過作品編~

なるべくたくさん読んで大賞候補を勝手に想像する(全作品は読んでないです)。著者の過去の受賞歴等もわかる範囲で記載。

イチオシ!

『太陽に抱かれて』 都 りょう
 とにかく描写が美しい。特に絵画の迫力がすごい。作者のイメージしている絵そのものを強制的にイメージさせようとする文章の力を感じます。一般文芸は、どれだけ読者の想像力に任せないで世界を読者の脳内に作れるか、が一つのポイントだと最近気づきました。絵画を使ってそれをするというのは、見せたい絵画を、感じてほしい印象で伝えることです。人が絵画をみるときは、その絵画自体の力に加え、誰と、どこで、どういう精神状態で見るかによってその印象が大きく変わると思います。文学でそれを表現するというのは、実際に絵を見るよりもインプレッシブな芸術となる可能性を感じます。これは突飛なテーマじゃないからこそ、文学性が光っていると思います。

『赤いホタル』 紫倉 紫
 週刊文春小説大賞準大賞を取られた方の作品。作者さまは本来書くべきではないと仰ってますが、個人的には番外編とされている『彼女が僕を求める瞳』(エブリスタのみ掲載)を含めてイチオシです。
 「死」をテーマにした作品は多く、死を前にして何かを託し、託された人がそれを糧に活躍するという美談は多いです。ですが、私はこういった作品があまり好きではありません。なぜなら、託された想いは、託された側にとっては「呪い」だと思うからです。死を前にした人の中にはエゴイスティックな本性が見える人も多いはずです。託される側の視点では、消えゆく命の儚さに装飾されてそれが美しく見えてしまう。この話の本質はそこだと思っています。私はしっかりした読み込みができるタイプではないので、番外編の種明かしを読むことでこのテーマ性をちゃんと理解して、おぉ、すごい! となりました。

『あなたが笑うまで私はトイレに行かない』 高梨愉人
 集英社文庫よりデビューされている作家さんの作品。上記二つに比べるとキャラクター文芸色が強いけど、スラスラ読めて設定とストーリーに納得感があって面白いというのは大事な気がする。キャラ付けというは、単に突飛にすればいいというものではなくて、背景がしっかりしていて、主人公に馴染む理由があって、伏線として回収する仕掛けがあることが重要だと思います。つまり小説のコンセプトとキャラがちゃんとリンクしていて、転と結でそのキャラクター性が活きることが大事です。その点でこの作品は秀逸だと思いました。ステキブンゲイ大賞の方向性がキャラ文よりなら(残ってる作品的にそんな感じはしませんが……)、チャンス大だと思います。気になる点があるとすれば、起承転結の承が少し短くて、転がやや長いため、少し展開がのっぺりしてしまっている気がするところでしょうか。ただ、これは読み進める早さとか、縦書き横書きでも印象が変わってしまうものなので、本当にそうなのかはもう一度読まないとわからないかも……

面白い!

『バラバラ女~都市伝説をめぐる、少年少女のあるひと夏の物語~』 ノコギリマン
 これだけココロにクるエンタメは久しぶりだなぁという印象。夏休み中、都市伝説にまつわるエピソードが進んでいくんだけど、節々に現れる子供の無力さと諦念、けれども生きるためにもがく様子が読者を引き込む。怖いものは何か、悲しいものは何か、人のネガティブな感情に訴えかける作品だと思います。
 ただ、どうしてもホラーってジャンルはバッドエンドないしはエンタメよりエンドになってしまうので、テーマ性という観点でちょっと勝てないかもしれない。

『さよなら秘密』 弥永いと
 生きるのが難しい、そんな中で見つける優しい世界。人の心をえぐる作品もいいけど、少しだけ人の心を支えてくれる作品も大事だと思う。インパクトという意味では前者に勝てないかもしれないけど、少なくとも私には刺さりました。どうしても江國香織さんの「きらきらひかる」を思い出してしまうけど、昔に比べて理解者は現れやすい、一方で家族や友人との関係は希薄になって孤独感は増しやすい、そして親もステレオタイプでなく人間である、という点が描写できていて、より現代風なイメージがあります。

『殺人遺伝子』 菱川あいず
 上記の作品と合わせてステキブンゲイでピックアップされていたので、「ピックアップちゃんとお仕事してるなぁ」と思いました。あいずさんの作品は「ANME」が電子書籍化されていて、そちらはSFミステリとしてギミックとそれを活かしたエンディングがとても良かった作品です。
 一方で当作品は、ギミックはSFというよりも世界設定なので、トリックは現実世界で想像が可能なものになっています。この点ではANMEに軍配が上がるのですが、尖った世界設定が人の倫理観に語り掛けるテーマになっているのがこちらの作品のいい所だと思います。展開がスリリングで、主人公はやたらモテて、ヒロインがかわいい。エンタメとして極上です。
 気になる点があるとすれば、オチ、つまりトリックの開示にまつわるエピソードが〇番底を意識して少しくどいかも……けれど、ちゃんとテーマを回収していてオチ自体は良かったと思います。

『話相手屋』 伊賀海栗
 ハイソな人たちがパリピ感を出しながら一級のサスペンスを生み出す。この話を一言でいうとそんな感じです。ぜひイケメンたちでドラマ化してほしい一作です。すごいのは、読んでいると本当にドラマを見ているような錯覚を起こす滑らかな文章と場面展開スピードのコントロール。過不足なく、ということが没入感を得るためにどれほど大事かを教えてくれます。
 ただ、やはりこれはエンタメ作品なので、テーマ性の深さを話題にされてしまうとやや分が悪い。賞が取れないミステリ作家みたいなやるせなさを感じてしまいます。

この先は褒めるばかりではないので……

読んだ作品
『蜘蛛の塔』 シュリ
『アバンチュールサウンド~君の音が見える世界へ~』 根本美佐子
『星の記憶を巡る夜、空から舞い降りてきたのは』 カーキ
『ダニーボーイに耳をふさいで』 街の修理屋
『差出人は知れず』 あまやま。
『未完成(ノン・フィニート)ノスタルジア』 小松 雅
『なぜか噂の大島ヒカリ料理教室』 塚田浩司
『おいのちさま』 三海 雨三
『キング・ジャック・クイーン・エース』 南伽耶子
『人生の満足度、測ります』 作道 雄
『流線を描いて飛べ』 小谷杏子
『-MEGANE-』 Oriki
『夢か現か、それとも恋の物語。』 成井露丸
『シャッター商店街のお子さまランチ』 竹田有友己
『君がくれた時間をいま、私は』 中村リエッタ
『群青のアトリエ』 如月芳美
『スポットライトに照らされて』 霜月透子
『元天使』 吉川結衣
『長い長いアヴァンのあとで』 はるこ
『灯と香と花』 鋏子

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