カレーと結婚
わたしにとっての結婚生活とは別にそこまで好きでもないバーモントカレー甘口を食べるようなものである。
久し振りに投稿したと思ったらまたカレーの話か、これはカレーブログなのかい?インド人もびっくりだな!とか意地悪な事は言わないで欲しい、たまたまだ、たまたまだから。
元来わたしはスパイシーかつエキゾチックなカレーが好きで、絶対にそっちの方が美味しいと確信しているのだが、前回書いたように妻はバーモントカレー甘口原理主義者(過激派)なので中々家族の食卓には出し辛いものがある。
以前これでもかと気合を入れてビリヤニを作った事があるのだが、見事に総スカンを食らってしまい悔し紛れに「これはインドのご馳走なんだぞ!インド版松茸ご飯とも言えるデラックスな米料理で物凄く手間のかかるのだぞ!こんなご馳走が出てくる日本の食卓はそうそう無いぞ!」と説得したが「ここはインドじゃないから」のひと言であっさりと敗北、わたしだけがライタ(ビリヤニにかけるしょっぱいヨーグルトのタレのような物)をだばだばとかけて大量のビリヤニを食べ、その夜は枕をひっそりと濡らした。
そんなわけでそれ以来、私はガチめなカレーを家族に作る事を辞めてしまった、中には家族に好評なメニューも無いわけでは無かったが、かける手間と費用の割に喜ばれないので労力の無駄だと気付いたので辞めた、バーモントカレー甘口への敗北宣言である。
しかし家でスパイシーなカレーを作る事が全く無くなったのかと言うとそうゆうわけでも無いのだ、時々女房子供が実家に行く事があれば「時が来た!」と目を輝かせながらホールスパイスを油に広げ、玉葱をこれでもかと炒め、カレーを作りそれを食べて「ほらぁ、やっぱコッチの方が完全に美味ぇじゃねぇか、うちの女子供達は味覚が小学校低学年で止まってるな」と一人で悪態をついたり「この料理を作ったシェフは誰だ!?今すぐ呼んでくれ!」「はっ、こちらに」「大変美味しい料理をありがとう…あぁ、なんだ、シェフはわたしでしたか」などと小芝居を頭の中でうっている。自由って素晴らしい。
それにしても結婚生活を振り返ってみるとカレーの件のみならず随分と譲歩してきたものだ、若い頃はローバーミニを転がし大層気に入っていたが「その壊れそうな車に家族を乗せるな」と言われなんやかんや抵抗したあげく結局は平凡なファミリーカーへと乗り換え、最近の車は最近の車で楽チンで実に良いものだなとあっさりとポリシーをゴミ箱にダンクシュートした。
住む所に対する価値観もわたしは「ボロ小屋の中でも自分の気に入っている物を置ければイイじゃない、ただし集合住宅は嫌だ」といった具合だったが妻は「マスト駅近、マスト築浅、集合住宅上等」といったスタンスなので新婚当初から対立を深めていたがそこでも結局わたしは折れて「馴れれば集合住宅も断熱性高くて掃除するとこ少なくてイイじゃない」と流されるままに住めばどこでも都じゃいと考え方を改めた。
もちろん自分1人のままで生きていたら今も好きなように生きられていたのかしらと思う事も無くは無いのだが、それはそれで自分1人分の人生しか生きられなくて視野が広がらなかったのかな、と思うと結果的には誰か他の人や子供達と人生をシェアする事が出来て良かったのかなと思う。
どのみち人生は思い通りに行かない事ばかり目の前に現れてくる物だし、独りよがりなこだわりなどそれらに立ち向かう際には大して役に立たないものである事もだんだん分かってくるようにもなった。
さて、妻は料理をする事が苦手なので我が家では年間330日くらいは私がメシ炊き担当なのだがバーモントカレーなら妻は作れるのでごくまれに家を空けて遅くに帰ってくると深いフライパンの中に箱のレシピ通りに作ったバーモントカレー甘口が残っている事がある。
ええい、この私をスパイシーなカレーから遠ざけるいまいましいバーモントカレー甘口め、ぽってりとした油っこいルーで出来たお前の事をわたしはカレーとは認めないぞと警戒しながら口に運ぶと自分では作れない他人の味がするので「ま、まぁこれもカレーだと認めてやっても良いか…べっ、別にアンタの事が好きになった訳じゃないんだからね!勘違いするなよ!こ、今回だけ特別なんだから!」とつい思ってしまうのだ。
そんなわけで、わたしにとっての結婚生活とは別にそこまで好きでもないバーモントカレー甘口を食べるようなものなのです。
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