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Santenがココテープで実現する、「視覚障害者を取り残さない」職場環境づくり

視覚障害者歩行テープ「ココテープ」は、視覚障害者が持ち歩き、必要な場所に必要な時だけ貼ることで、視覚障害者の自主的な移動をサポートする製品です。
今回はココテープをオフィスで活用いただいている、参天製薬株式会社 基本理念・CSV推進部の長谷川さんと、視覚障害当事者であり同社で働く葭原さんに、ココテープの導入経緯や実際に使ってみた感想、社内の反応、今後の展望などを、PLAYWORKS株式会社 タキザワが伺いました。

参天製薬受付での記念撮影。参天製薬の長谷川さんと葭原さん、プレイワークスのタキザワにて。
左から 参天製薬株式会社 基本理念・CSV推進部 長谷川成男さん 葭原滋男さん PLAYWORKS株式会社 タキザワ(2024年6月時点の所属および肩書)

「見える」「見えない・見えにくい」に関わらず、人々の幸福な生活に貢献したい

手振りを交えながら説明する長谷川さんの写真。

タキザワ:まずは、参天製薬の事業内容について教えてください。

長谷川:弊社は眼科領域における高い専門性を礎に、製品やサービスを通じて患者さんや眼科医療現場でまだ解決されていない、医療ニーズに応える価値を提供することを追求してきました。

Santenといえば、薬局に売っている目薬のイメージが強いかもしれませんが、実は取り扱っている製品は70以上あります。

toC向けの製品だけでなく、医療機関向けの製品がメインとなっており、幅広い眼科疾患を網羅しています。またグローバル展開もしており、60を超える国・地域に製品を提供しています。

タキザワ:そんな参天製薬において、CSV部門はどのような役割を担っているのでしょうか?

長谷川:私たちは「人は生まれてから人生を終えるその日まで、『見る』ことで生活を豊かにすることができる」と考えています。しかし、目に関する課題はまだ多く存在しているのが現状です。

そのため、CSV部門ではこの課題解決に向けて、患者さんや生活者に対してSantenらしい価値を提供することを目指してきました。

具体的には、まず社員の仕事のやりがいを第一に考え、モチベーションを引き出し、エンゲージメントを向上させ、社員がクリエイティブな発想を持ち、社会に価値を提供できる状態をゴールとしています。

横並びで椅子に座り、ココテープ25センチバーを手に持ちながら話す葭原さんと長谷川さんの写真。

長谷川:また、眼科領域に特化したスペシャリティ・カンパニーとして、眼科学発展のためのアカデミックサポートや視覚障害者への支援にも取り組んできました。

私たちの最終的な目標は、「見える」「見えない・見えにくい」に関わらず、人々の幸福な生活に貢献することです。

その一環として、「見えない」ということを理由に人々が社会から誰一人取り残されることのない世の中を実現するために、視覚障害者の雇用や社内外での理解を深める活動にも力を入れてきました。

タキザワ:視覚障害者向けの取り組みはいつ頃から始まったのでしょうか?

長谷川:本格的に始まったのは約5年前からですね。それまでは企業の社会的責任、いわゆるCSR(Corporate Social Responsibility)の一環として取り組んでいました。でも、もっと積極的に社会の課題解決に関わりたいと考えるようになったんです。

そこで導入したのが、CSV(Creating Shared Value)という考え方です。簡単に言えば、社会と企業の価値を同時に作り出すような活動をしようという考えに切り替えたことで生まれたのが、CSV部門です。

インタビューを受ける葭原さんの写真。

タキザワ:そんな中、CSV部門で視覚障害当事者として働いている葭原さんが、参天製薬に入社した経緯は何だったのでしょうか?

葭原:実は、以前は地方公務員として働いていたのですが、それを辞めて、フリーランスで視覚障害に関する社会課題の解決に取り組んでいました。

しかし、個人の力では限界を感じていた矢先にSantenから声をかけてもらい、視覚障害者の社員として働くことになったんです。目の専門企業で、しかも当事者の視点を活かせる。これ以上ないチャンスだと感じましたね。

タキザワ:現在、視覚障害のある社員は何名いるのでしょうか?

長谷川:現在、4名の視覚障害者が働いています。3名がCSV部門、1名が人事部門に所属していて、全員が全盲の社員です。

一般的な「あはき業」(あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師)ではなく、CSVや人事の職務を通じて、社内には視覚障害に対する晴眼社員の理解度をあげるための周知活動を行っています。

また社外では、お子さんを対象とした『見える』『見えない』の壁を溶かす出張授業や、医療従事者に対する医療と福祉の連結をサポートする活動など幅広い活動を担当しています。

「視覚障害者のため」だけじゃない。Santenがココテープを導入した理由

テーブルを挟んだ位置に座っているタキザワに説明する長谷川さんの写真。隣の葭原さんも聞き手に回っている。

タキザワ:そんな長谷川さんと葭原さんが、ココテープを知ったきっかけを教えてください。

長谷川:昨年、大阪で開催されたイベント「インクルーシブパレード」に参加したことがきっかけでした。偶然、隣のブースでココテープが展示されていて、体験する機会があったんです。

タキザワ:ココテープを初めて体験してみての印象はいかがでしたか?

長谷川:正直、驚きましたね。日本では屋外に出れば必ずといっていいほど点字ブロックがありますが、室内で柔軟に対応できる歩行支援の手段があまりなかった。

そんななか、ココテープには室内での移動支援という点に大きな可能性を感じました。特に印象的だったのは、直線や曲がり角の理解のしやすさです。

触った時の感覚がはっきりしていて、これなら視覚障害者の方々の自立的な移動を大きくサポートできると直感しました。

ココテ―プを手に持ち、説明する葭原さんの写真。背後の壁には白杖が伸ばした状態で立てかけられている。

葭原:私は以前からSNSなどでココテープのことを知っていて、非常に興味があったんです。実際に触ってみて、「これは使える!」と確信しました。

室内に点字ブロックを設置するのには大変なコストがかかるので、もっと手軽に使えるものがあったらいいのではないかと、以前から考えていたんですよ。ココテープはそんなニーズにマッチしていると感じましたね。

タキザワ:葭原さんは、どのような使い方をイメージされましたか?

葭原:まず思い浮かんだのは、新幹線の座席からトイレへの往復です。新幹線の中でいつも困るのは、トイレに行って帰ってきたときに、自分の座席がわからなくなることなんですよ。ココテープを使えば、自分の座席の足元に目印をつけることができるので、安心して移動できると思いました。また、学校を訪問して、出前授業をする際も、教室までの案内に使えそうだと感じましたね。

実際にオフィスでココテープを使いはじめてからは、自宅での使用も検討しています。自宅で普段からよくぶつかる場所にココテープを貼れば、怪我をするリスクも減らせるんじゃないかなと、研究中なんです。

葭原さんと長谷川さんにインタビューをするタキザワの写真。机の上には記録用のノートパソコンとスマートフォンが置かれている。

タキザワ:オフィスだけでなく、ご自宅でも使っていただいているんですね。東京オフィスへの導入に際して、何か障壁はありましたでしょうか?

長谷川:実は、最初に社内で提案した際は、「視覚障害のある社員3人のためだけにココテープを導入するのはやりすぎではないか」という意見も出ました。

例えば、車椅子ユーザーが社員にいたら、その社員のためだけにオフィス自体も改装するのかと。

しかし、これは3人の視覚障害社員のためだけの施策ではなく、全社員のためになる取り組みだと主張したんです。

葭原さんがココテープ25センチバーを両手に持っている写真の手元のアップ。

長谷川:視覚障害社員の移動をサポートし、働きやすさを向上させるのはもちろんのこと、晴眼者の社員がココテープの体験を通じて視覚障害への理解や共感を深める機会となるとなるはずです。

さらに、社外の方々に、参天製薬の取り組みを具体的に示すこともできる。単なるバリアフリー化ではなく、社員教育や企業イメージの向上にもつながる施策として提案したことが、導入の決め手となりました。

また、ココテープの特徴である低コストと設置の簡単さも、導入を後押ししたと思います。結果として、現在は社外スペースを含む東京オフィス全体への導入が決まり、ココテープの利用がスタートしたというわけです。

気軽に貼れるからこそ、視覚障害者と晴眼者が共に歩行支援にチャレンジできる

参天製薬東京オフィスの通路に設置されたココテープの写真。黒系のカーペットの上に、黄色のココテープが通路中央に設置され、分岐点では十字になっている。
オフィスのココテープを白杖で辿って移動している葭原さんの写真。
ココテープが貼られた参天製薬の東京オフィス

タキザワ:ココテープが貼られたオフィスで働いてみて、いかがですか?

葭原:予想以上に効果があって驚いています! 特に大きいのは、白杖なしでの移動が可能になったこと。

例えば、この会議室からトイレに行くときも、以前は必ず白杖を持っていました。でも今はココテープがあるおかげで、白杖なしでも安心して移動できるんです。

これは単に便利というだけでなく、心理的な面でも大きな変化です。より自然に、そして自信を持って行動できるようになりました。

ドアノブに手をかけて部屋に入ろうとしている葭原さんの写真。ココテープは通路からドア幅の中央に向かって垂直に分岐している。
自動販売機で飲み物を買う葭原さんの写真。ココテープは自動販売機のお金投入口の前まで設置されている。
ココテープを利用して、トイレや自販機に行く葭原さん

長谷川:実際に視覚障害のある社員がココテープを利用しているのを見ていて、白杖を持たずに移動できるため、両手が空くのもメリットだと感じています。

両手が空くと、困ったときや不安があるときに手で状況を確認できるので、安心感があるようですね。

また、葭原さん以外の視覚障害社員からも好評です。「白杖がなくても会議室へ移動できるようになった」「自販機に飲み物を買いに行くのが楽になった」という声が届いており、今後はもっと活用の幅が広がりそうだと感じています。

さらには、エレベーターのスイッチの場所や社員証をかざす場所なども、壁にココテープで示してほしいという要望が出てきているので、一緒に工夫しながら活用法を検討していきたいです。

タキザワ:壁面にココテープを貼るのは、面白い活用法ですね!

長谷川:そうなんですよ。やはり、ココテープの最大の利点は、どこにでも貼れて、簡単に貼り直しができるところだと考えています。これが従来の点字ブロックとの大きな違いですよね。

東京オフィスにココテープを導入するときは、最初は私たち晴眼者の想像で貼ることにしたんです。

でも、実際に視覚障害者の社員が使ってみると、「ここはもう少し壁に寄せた方がいい」とか「この角度はもう少し緩やかな方が歩きやすい」といった具体的な提案が出てきたんです。

そこで、視覚障害者と晴眼者が一緒になって、最適な配置を考え、何度か貼り直してみることにしました。この過程自体が、お互いの理解を深める貴重な機会となったんです。

タキザワ:気軽に貼り直せるからこそ、視覚障害者と晴眼者が一緒に工夫しながら貼る体験ができたわけですね。

インタビューに答える長谷川さんの写真。ココテープ25センチバーの裏面を指して説明している。

長谷川:晴眼者の社員の視覚障害理解という当初の目的が、ココテープを一緒に貼ることで実現できたのは、大きな成果だと感じています。

点字ブロックと違って設置に関する制約がないため、自分たちで工夫したり、チャレンジを入れながら設置できるところがココテープの魅力ですね。

しかも、設置は非常に簡単で、社員だけで行えました。専門業者に頼む必要がないので、コスト面でも嬉しいです。

設置して3ヶ月経った今でも、剥がれや破損はまったくありません。カーペットの床にもしっかりと付いている。当初は簡単に剥がれてしまうんじゃないかと心配でしたが、杞憂でした。

葭原:利用者の立場から言うと、ココテープは床面との質感の違いがはっきりしているので、とても分かりやすいんです。これは、安全で効率的な移動に大きく貢献しています。

ココテープを通じて思い描く、インクルーシブな社会づくり

なごやかにインタビューを行う長谷川さん、葭原さん、タキザワの写真。

タキザワ:ココテープの設置後、社員の反応はいかがでしたか?

長谷川:とてもポジティブな反応が多いです。オフィス入口にアイマスクと白杖を用意して、ココテープの体験ブースを設置したところ、多くの社員が興味を持って体験してくれました。

見えない状態で実際にココテープの上を歩いてみるという体験は、多くの社員にとって目からウロコだったようです。

「目が見えないって、こんなに怖いんだ」「まっすぐ歩くのがこんなに難しいとは思わなかった」といった声が多く、視覚障害者への理解を深める大きなきっかけとなりました。

実際、体験後は自発的な配慮行動が増えてきた印象ですね。また、ココテープの導入後には「自分も視覚障害者のサポートに貢献したい」という声も多く聞くようになり、障害理解への効果を実感しています。

視覚障害体験ブースの写真。青を基調とした展示台には、ブラインドサッカーの説明パネル、ボール、ゴーグルと、ココテープおよび白杖が置かれている。
参天製薬 東京オフィスの入口に設置された「視覚障害体験ブース」

タキザワ:今後、参天製薬としてココテープをどのように活用していきたいですか?

長谷川:社内では、まず他の事業所や工場への展開を考えています。東京オフィスでの成功事例をもとに、各拠点の特性に合わせた最適な設置方法を検討していきたいと思います。

社外では、特に眼科医療の現場での活用の可能性を探っています。参天製薬の強みである眼科領域のネットワークを活かし、病院の眼科外来や眼科クリニックの院内の導線など、医師にも紹介しながら活用場所の拡大をサポートしていきたいです。

葭原:私からは、日常生活でのさらなる活用を提案していきたいです。例えば、ホテルの客室内や公共施設のトイレなど、一時的に利用する場所でのココテープの活用は、視覚障害者の行動範囲を大きく広げられるはずです。

また、災害時の避難所での利用も検討できるのではないでしょうか。緊急時にすぐに設置でき、視覚障害者の方々の避難をサポートできると思いますね。

にこやかに笑う葭原さんの写真。

タキザワ:最後に、今後の展望をお聞かせください。

長谷川:ココテープの導入は、単なる移動支援ツールにとどまらない大きな意味があると考えています。

弊社にとっては、社員のインクルージョン意識を高める重要なきっかけになりました。視覚障害者の立場を実際に体験し、理解を深めることで、多様性を尊重する企業文化がさらに強化されつつあります。

これは、Santenが目指す「すべての人々が幸福に暮らせる社会の実現」という理念の実践そのものだと感じました。

さらに、弊社がこの取り組みを行うことで、他の企業や組織にも良い影響を与えたいと考えているんです。私たちの事例が、社会全体でのインクルージョンの実現に向けた一歩となることを願っています。

葭原:今後は、私たち視覚障害当事者の視点からも、さらにさまざまなアイデアを発信し、Santenを通じて社会に広げていく。そんな役割を果たしていきたいです。

ココテープの導入をきっかけに、視覚障害者と晴眼者が共に考え、行動する機会が増えました。これは、真の意味でのインクルーシブな社会づくりの第一歩だと感じています。

今後も、ココテープのようなイノベーティブなアイデアを積極的に取り入れながら、「見える」「見えない」に関わらず、すべての人が自分らしく生きられる社会の実現に向けて、さらに活動を広げていきたいと思います。

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